「はいお茶」
「あ、ありがとうございます……」
明らかに家具屋さんで買ったのではないお手製木製テーブルに、つまみが欠けている急須と歪な形の湯呑が提供された。
湯呑からは湯気が立っており、手に持って嗅がなくても良い匂いが漂ってくる。
「あ~……ちょっとそこで水汲んで来るんで、お茶でも飲んでゆっくりしてください」
「は、はい……!」
白髪の彼――天道悟さんはバツの悪そうな顔でそう言い残し、部屋をスタスタと歩いて扉から出て行った。
(……あれれ。そう言えば何でここに居るんだろ)
新鮮な木の香りに加え、お茶のいい香り。それと天動さんが気配が部屋から出て行ったせいか、私はスッと落ち着きを取り戻したと同時に混乱した。
(す、すこし落ち着こう……! それこそお茶でも飲んで!!)
ダンジョン配信者たるものアクシデントには即座に反応しなければ生き残れない。だからこそ提供された湯呑を手に乗り、暖かいお茶でも飲んで落ち着くことにする。
「ッ!?」
少し熱い湯呑を口元に持って行こうとすると、不意に手の震えが止まらなくなった。
「――■■■■■!!」
「ッツ!?」
脳裏にフラッシュバックする死の予感。完全に私を捕らえた龍の顎。それを思い出すだけで心底震えた。
(……大丈夫。……大丈夫よカレン。私は生きている。生きてるから……)
手には熱い感触。鼻腔には茶葉の香りと木製の香り、そして心臓の音。それらを目を瞑り感じながら、必死に自分を鼓舞した。
「……ンク」
そして一口お茶を飲んだ。
「――」
そして驚いた。
「美味しい……」
豊潤な花の蜜の香りがフワッと鼻に通る。舌触りの良いまろやかさもあり、とても美味しい。あまり茶葉には詳しくないけど、原産はここ『仙界の霊山』で間違いないと思う。
「――この茶葉を栽培してダンジョンの外で販売や!! 儲けるで!! ッガッハッハ!!」
なんて妄想、配信者としての商売魂が揺さぶられるほどには、冷静さを取り戻したのはお茶のおかげ。
(取りあえず……私は生き延びた)
転送事故からの『仙界の霊山』。配信しながらダンジョン探索し、龍に遭遇。あわや死にかけたところを間一髪で天道さんが助けてくれて胸キュン。そして生配信を閉じた後、天道さんに担がれる形で浮遊する雲に乗りここに来た。
「って言うかぁ!! なんであの人は自然と雲に乗ってんの!? マジでどういうことよ!?」
思わず頭を抱えて喚いてしまう。
(浮遊する雲も謎だし、それに乗ってるのも謎! クソヤバ龍をツーパンで沈める強さもなによ!? 世界広しと言えど最強ランカーでも同じ真似できる人居ないレベルじゃん!?)
せっかく冷静さを取り戻したのに、考えれば考える程訳が分からなくなる。
だけど一つだけ確かなことがある。
「助けてくれた……私の王子様……♡」キュンキュン♡
颯爽と駆けつけて龍を倒し、私を迎えに来てくれた王子様……♡。あどけなさを残した過ぎ去りし頃の小さな私。その純粋無垢な恋心を想起させ感じてしまう……♡ 思わず握って両手を頬に当てて目を輝かせてしまう。
「あのぉ……、お取込み中ですか……」
「ッハ!? いやいやいや!! 全然お取込み中じゃないですはい!! ただ疲れててはい!!」
「つ、疲れてる割には元気ですね……」
「私! 元気が取り柄ですから!!」
そう言いながら両腕をムキっとして筋肉ポーズ。不意に戻って来た天道さんに恥ずかしさを隠す苦しい言い訳をした。
「ハ、ハハハ。元気なのはイイことですね」
眉毛をハノ字にして笑ってくれた天道さん。どうやら私の筋肉ポーズは成功した様だ。
「あ! お茶ごちそうさまです!! とっても美味しいです!!」
私のお礼に一瞬だけ目を細めた天道さん。すぐに笑顔を私に向けて来た。
「それは良かったです。その茶葉と沸いたお湯には純度の高い仙気が豊富に含まれてるんです。疲労回復や滋養強壮に持ってこいなんで、ちゃんと効いていて良かった」
「ッ!」
天道さんのパッと明るい笑顔に私は思わず頬を染めてしまう。
(イケメンスマイルキターーーーーー!!)
あ~ヤバイ。イケメンスマイルでマジでご飯三杯いける。マジでクンクンしたい。衣類からチラリズムしてる鎖骨とかマジで舐め回したい。
そう思っていると。
――ぎゅるるううぅぅ。
「!?!?」
突然私のお腹の虫が鳴り響いた。赤面してしまうのは仕方がない。
「ハハ。もう日が暮れるし、そろそろ夕食にしましょうか」
「ごはん!! 頂いていいんですか!?」
「もちろんです。それとここで寝泊まりしてください。気疲れもあるだろうし、モンスター除けがあるとは言え外が危ないことには変わりないんで」
そもそもここはダンジョン。万全じゃない状態で外に放り出されないだけでも嬉しいのに、ご飯も食べれるなんて最高以外の何物でもない。
と言うか、追い出されそうになったら泣いて懇願するまであった。それこそちょっとだけエッチな要求までなら許容するまであった。
「いただきます!!」
それからすぐにご飯を用意された。串に刺した焼き魚と暖かいお茶だ。
「ンン~めちゃうま!!」
モンスター以外のダンジョンに生息する食べれる生き物は少ない。各々のダンジョンにはそれに適応した生き物がいるけど、毒を持っていたりするのが大半。でも食べるとめちゃうまだからダンジョン産のお店専門店まであるし、美食家には人気だったり。
そして身がブリブリに詰まった謎の魚の塩焼きが美味いのなんの!! バクバク食べれる!!
「食べやすいでしょ。小骨は全部取り除いてるんです。かぶりついて食べるのが最高なん……で……?」
「びゅおーーーーー!!」
ウマいウマい!!
「ほ、星のナンタラって言われないですか……? 食べるというより吸い込んでる……」
「視聴者にもよく言われます!! びゅおーーーーー!!」
「米はないですけど、魚は沢山あるんでいっぱい食べて下さい」
お言葉に甘えて沢山食べた。