二つある月が顔を出し夜も更ける頃、まさかのお客人をもてなし歓迎した。
この霊山を守護する
まぁ頭に如意棒ブチかましてしまったのはやりすぎ感あるけど、継承した知識で知ってたとは言え実物が思ったより怖かったから仕方ないと思う。うん。
「すー……すー……」
怖い思いをし無事生還。そして美味い魚もたくさん食べて安心したのか、しぶりんこと渋川カレンさんは敷いた布団に横になるとすぐに眠りについた。
自分で言うのもアレだけど、ランカーとはいえ女子一人で見知らぬ男の家で無防備に寝るのは警戒心が無さ過ぎやしないか……?
(いや、この警戒心の無さは俺への信頼感によるものか……)
命の危機に瀕していた絶望的な状況。そんな時に助けられたんだから、吊り橋効果もあって一定の信頼を置いてくれてるんだろう。久しぶりに俺以外の人間に会ったから、どういった対応が良いのかわからなくなったのもあるから、信頼してくれるのは嬉しい限りだ。
「――私、渋川カレンっていいます!! ランカーダンジョン配信者です!! カレンって呼んでください! あ、配信中はしぶりんでお願いします!」
「改めて。俺は天道悟。こっちも悟でいいですよ」
「わかりましたサトルさん!!」
焼き魚を食べている時にいろいろと話を聞いた。出会った時、彼女の周囲には撮影用のドローンが浮遊していたからもしやと思ったけど、案の定ダンジョン配信者だった。
「改めて、助けてくれて本当ありがとうございました!! 生きてこんなに美味しい魚を食べれるし、お高いドローンも無事壊れずに済みました!! って、お魚の次にドローンのお礼がが出るのはもう職業病ですね! えへへ!」
そう言って小さく舌をだしてテヘペロするカレンさん。
「そう言えば、カレンさんはどうやってここに?」
「ンク。……ここ『仙界の霊山』には転移事故で来たんです」
焼き魚を頬張りながらそう切り出してた。
俺と同じで例のアレで来たんだと思ったら、まさかの転移事故でここに来たとは思わなかった。確か事故が起きるのは天文学的数字の可能性だったと思うし、なにより国連が事故が無いように徹底的に監視しているはずだ。それでも事故が起きるんだから、運命はわからない
「最初は驚きましたけど、これはチャンス! って思ってすぐに配信開始したんです!」
「しょ、商魂逞しいですね……」
ランカーであるがダンジョン配信者でもある。その配信者魂が疼いた結果、すぐさま配信したと。それと配信開始された時点で空気中に魔力があると確認。コメントを見ながら徘徊していったらしい。
「って言うかぁ知らないダンジョンでも配信できるって、国連の技術凄すぎません? 空気中の魔力は次元を超えて波及するから配信できるって一般論ですけど、一応国連の闇の一つって言われてますよねぇ……」
うんうんと首を振って相槌ちしていると。
「あの、サトルさんもここに転移事故で来たんですか? 身なりからして、もう何年もここに居るって感じですけど……」
俺は首を横に振り、霊山に辿り着いた経緯を簡単に説明した。
「ええ!? サトルさんは例のアレでいつの間にかここに居たんですか!? それも一ヵ月前から!? ……意外と最近なのか。……え!? いや何も言ってないですよ?」
思ったより最近だなぁ。と取れるニュアンスの小声はバッチリ聞こえたけど、そこはあえて追加で言及しないでおこう。
気付くとカレンさんの眼が輝いていた。
「ゲキヤバ龍をぶっ倒せるほど強いってことは! やっぱり例のアレって実在したんですね!! ヤバーテンション上がるうぅ!!」
「……」ッス
テンション爆上がりなカレンさんは腕を高く上げてガッツポーズした。それと同時に俺はカレンさんから視線を外した。性格には彼女の胸部から視線を外した。
カレンさんはダンジョン配信者。まだ見ぬダンジョンに挑戦とか、協力してダンジョンに挑むとか、ダンジョンでキャンプしてみた、みたいな動画を世に送り出しているのは想像に難くない。
無論数多の配信者が跋扈する界隈。実力もそうだけど配信スタイルやキャラ付けも重要。むしろそれだけじゃ視聴者は付かないと思う。でもカレンさん女性。しかもファッション誌に乗りそうな程の美形でさることながら、抜群のプロポーションを誇っている。何がとは言わないけど、
まぁ俺はゲーム実況とかばっかりだから、そっちの動画はあんまり見ないから知らんけど。
「あの! サトルさんの強さの秘密とか、空飛ぶ雲の秘密とか! それとゲキヤバ龍のこともここ霊山のことも、サトルさんが知ってることいろいろ聞きたいです!!」
私、興味あります! そう感じ取れるカレンさんの期待に満ちた視線。でも俺は彼女の瞳の奥に、不安の色が見えた。
俺は湯呑を手に取り傾け、一息。カレンさんの瞳に眼を合わせた。
「ンク。……まぁそれは追々ね。でもさ、カレンさんが今一番知りたいのはそれじゃないよね」
「ッ!!」
「大丈夫。明日にはちゃんと東京に帰れるよ。俺が責任もって送るから」
「ッ!!!!」
揺らいだ眼。息を飲む表情。
それは徐々に緩んでいき、眼には潤んだ涙が溢れ出てきた。
誰だって転移事故に遭えば不安だし、命の危機に瀕したら涙が出るに決まってる。当然カレンさんもそうだっただろう。でも俺に助けられてから今の今までそれを押し込んできた。だから安全安心の東京に、家に帰れると言われたら、俺だって泣いてしまう。
「うううぅぅう!! っひぐ! うぅうぅぅ!!」
「大丈夫。ほら、大丈夫だからね」
泣きじゃくるカレンさんを介抱していたら、いつの間にかカレンさんは寝ついてしまった。