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第10話 空にある

 水も滴るいい男。それを体現した自分物が、今私の視界にある。


 濡れた髪、悩ましい視線、細身だけど鍛え上げられた筋肉はまさにダビデ像を彷彿とさせる代物。

 そして浴びている水はまるで生き物の様に肢体を撫で、絹よ宝よ子供等よと、丁寧かつ勢いがあり、一切の不純物を許さないと言わんばかりに体に纏う。


 そんな幻想的なシーンを目撃した私は限界まで目を見開き。


(うひょぉおおおッ!! エッロッ!! エロ過ぎるッ!!)


 鼻息を荒くして興奮していた。


(男の裸体なんて調べれば幾らでも出て来るけど、私好みのドストライクな裸体はネット上にはほぼ無いッ!! それが今ッ!! あるッッ!!)


 私のストライクはまさに薄くしかしハッキリと見える程度の腹筋細マッチョ。だと思っていたのは今までの話。


 サトルさんは細マッチョなのは細マッチョだけど、体格のいいガチマッチョをギュギュっと絞りに絞った感じの細マッチョッ!!


 いい。


 いいッ!!


 だがしかし足りないッ!!


 否!! 見えないッ!!


(チンチンが見えないだろオレンジ雲おおおおおおおおおッッ!!)


 日本人の平均的なモノでもいい。


 デカくても小さくてもいい。


 それこそ国民的5歳児の純粋なゾウさんでもいい!!


 好きな人のチンチンが見たいって想いは純粋だろうがあああ!!


「!?」


 瞬間、緊張感。なぜか身震いした。


 なぜ。


 その答えはなんと、腰のオレンジ雲からだと本能的にわかった。


 ただのチンチンかくした雲なのに、妙な視線を感じてしまう……。これはもしやサトルさんの息子が私をッ!? なんてのは冗談で、本当に雲から視線を感じる。


 そう思っていると。


 ――シュイン。


 サトルさんが腕をスッと払うと、瞬く間に白い着物がサトルさんを包んだ。と同時に雲がモクモクと移動し、シュン! とオレンジの尾を残して空へと飛んで行った。


 それを見届けると。


「ふぅ……。カレンさんも水浴びしますか?」


「にゃっ!?」


 普通に覗きがバレていた。



「――びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛!!」


「ふ、古いネットミームを知ってるんですね……」


「ンク。これでも配信者なんで多少知ってたら視聴者が喜ぶんで! まぁさすがに全部は知らないですけどね」


 私の覗きから場面は変わり、朝食。


 昨日に続き焼き魚。そして桃が追加で用意されていた。


 某〇〇〇さんみたいな声が出る程に美味しい焼き魚は最高として、サトルさんが摘み取って来た桃も格別に美味しい。


「んん~!! この桃マジで美味しいですぅ!!」


 私の素直な反応にサトルさんは笑顔を見せてくれた。


 って言うか、桃丸まる一つなんて超久しぶりに食べた気がする……。片手間にフルーツ食べたいなぁって思ったら、普段はコンビニのカットフルーツが定番だからマジで久しぶりに食べた。


「ふぅ……ごちそうさまです」


「ごちそうさま」


 そして食べ終わる。感謝を述べた後のサトルさんは湯呑を傾けてお茶を飲んだ。この後はいよいよ日本へ帰るだけだけど、私は一つ、ある重大なミッションが残っている。


 それは。


「サトルさんッ」


「?」


「私の配信パートナーになってくれませんかッ!!」


「――」


 バッと机を乗り出して高々と叫んだ。


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするサトルさん。それもそうだろう。だって私自身も驚いている。だってご飯を頂いている間に脳内で思考した選択肢なのだから。


 大型ギルドが総出で対処するようなクソつよ龍こと護龍? を単独で鎮圧。その圧倒的戦闘力はなるほどの例のアレ経験者であり、更にはイケメンときた。


 戦って良し、ビジュアル面でも良し、私を守ってくれた+114514点の三段尽くめ。


(こんな超優良物件ッ!! 絶対に他に渡したくないッッ!!)


 そんなシャカリキMAXな感じでお願いししてみたけど……。


「あ~~……やめときます。すみません」


 眉毛をハノ字にして困り顔で謝って来た。


 だけど断られるのは想定の範囲内。


「ッフッフッフ。助けられてばかりの私ですけど、こう見えて登録者数10万人のダンジョン配信者です! エッヘン!」


 ――ポイン♪


「はあ……」


 自尊心を見せて胸を張る。当然私の武器である胸もポイン♪ と揺らして女性らしさをアピール。これでサトルさんの視線を釘付けだ!


「私とパートナーになれば、色んなダンジョンに入れますし未知なる冒険への出発が可能です!」


「ランカーなら大体のダンジョンには入れるのでは……」


「うぐっ!! そ、そうですけど、配信枠を設けながら探索するダンジョンは一味も二味も違いますよ! なんてったって大勢の視聴者が一緒に冒険してくれるんです!! エッヘン!」


 ――ポイン♪


「まぁ……」


 再度胸を張って自己主張しても、サトルさんは曖昧な回答で後頭部を掻いている。


(なんで女の武器が通用しないの!? あれか! 仙人だからチンチン反応しないのか!?)


 これでもスタイルには自信がある方なのに鼻の下すら伸ばさない……。女としての自信がなくなりそう……。


 ならばッ!!


「ッフッフッフ。わかりましたよサトルさ~~ん。もうエッチなんだからぁ……」


「?」


 そう言いながら私は着ている服を徐々に脱ぎだす。


「俺だけ裸見られたから不公平だって言いたいんでしょ? しょうがないなぁ~私の裸で良ければいくらでも見させてあげますよ~。あ、なんならお触りしてもよかですよ? ぐふふ」


 ワザとらしく胸の谷間を見せつけて誘惑。もちろん体をくねらせてプリプリしながらだ。


(これで落ちない男はいないんだよッ!! 落ちてしまええええええ!!)


 私の必殺技、ハニートラップをしかけた!


 だと言うのに。


「カレンさん。女性がそんなことするのはしたないですよ」


 この男ときたら全然反応しない永遠真顔。


 さすがに私はブチっとキレる。


「かわいい女の子がここまでしてるのに無反応するなッ!? 泣きそうになるでしょ!?!?」


「す、すみません……」


 泣きそうに、いや、目じりに涙が浮かんで泣いた。


「ま、まぁ暴走したのは謝りますけど、何で私と一緒に配信したくないんですか」


 脱ぎかけの服を直しながらそう問いかけた。


 するとサトルさんは湯吞を机において、視線を合わせて来た。


「ストレートに言うと、時間が惜しいんです。んん~でも語弊があるなぁ……。配信事態には興味ない訳じゃないんですけどぉ、それしてるなら修行して強くなりたい。って感じですね」


「――」


 ――時間が惜しい――興味ない訳じゃない――修行して――強く成りたい――――


 この瞬間、私の脳は加速。


 サトルさんが言ったキーワード。それらを考慮して、ある可能性を導き出した。


「わかりました。でも私、諦めません。今は無理でも絶対に説得してみせます!!」


「はぁ……」


「サトルさんは言いましたね、興味ない訳じゃないって。ね。ね!」


「は、はい。言いました」


「よし言質取った!! あ! 日本に帰っても、私以外の配信者とパートナー結ばないで下さいよ!! 絶対ですよ絶対!!」


「わ、わかりました……」


「もし裏切ったらサトルさんに乱暴されたって生放送で告白するんで」


「えぇぇ……」


 そんなこんなあり。


「あの……、この雲って……」


觔斗雲きんとうんです。觔ちゃんってニックネームで呼んでます」


 支度を終えいざ戻るぞって時に、サトルさんは大声で叫んだらオレンジ色の雲が空から現れた。


「生き物なんですか……これ?」


「ちゃんと意志を持つ生き物ですよ」


「ですよね……」


 この觔斗雲、もこもこしてるのに妙に私を睨んでるというか何と言うか……。学生時代に合った他グループのリーダーの女の子って感じがする……。


「よいしょっと。ほら、カレンさん」


 觔斗雲に乗り胡坐をかいたサトルさんが私に手を伸ばして来る。手むとヒョイと体が浮き、ストンとサトルさんの胡坐に収まった。


「普通に一人用って感じですけど、私もいつか乗ってみたいです」


「ん~難しいかなぁ」


「え、乗せたくないんですか? 新車買ったから靴脱いで乗れやみたいな」


「なにその俺ルール……。そもそも觔ちゃんは仙人しか乗れないんです。それか觔ちゃんが認めた人だけかなぁ~」


「そういう感じなんですね……」


 そんなやり取りをして。


「よし行きますか」


 ――ッシュイン!!


「ッ!?」


 瞬間、感じたのは風。


 まるでジェットコースター。体にGがかかるのを感じると景色がどんどん後ろへと流れていき、やがて飛行機の離陸の様に浮遊を感じた。


(か、風が強い!)


 正面からくる風に眼を瞑り、抱き寄せてくれてるサトルさんの服を強く握ってしまう。


 そんな折。


(ぅん……? 風が)


 不思議と風を感じなくなり瞼を開くと、風から守る様にオーラの様なものが私たちを包んでいた。


「大丈夫ですか」


「え!? あ、はい大丈夫……です……」


「それはよかった」


 にっこりと笑うサトルさんが優しく語り掛けて来る。


(っていうか、顔が近い……♡♡)


 抱き寄せられてる都合上、自然とサトルさんの顔が近くなる。見れば見るほど惚れ惚れするイケメン度。もう私のアソコはキュンキュンですよ♡♡


 って言うか!?


「どぅうえええええ!? めっちゃ高いいいいいいいい!?!?」


 広い広い桃林。聳え連なる苔むす山々。気付けばもの凄い高さを飛んでいることに気付く。


「!?」


 遠くの方に見覚えしかないクソつよ龍が山に巻き付いている。くわばらくわばら。


「そ、そもそも帰りのゲートってどこにあるんですか!?」


「あそこ」


 正面を指差されて向くと、空中に楕円形の見覚えしかないゲートがあった。


「ゲートって空の上にあるんですか!?」


「そうですよ? 来る時も帰る時もここを通ります」


「ダンジョンに入ったら落下死確定じゃないですか!?」


「浮遊スキルとか無かったらそうですね。俺は空中闊歩くうちゅうかっぽできるし、そもそも觔ちゃんに乗ってくるんで問題ないです」


「そう言う問題じゃないいいいいいいいい!!!!」


 ――――ッドゥン。


 私の叫び声がそれに響き、ゲートへ入った。

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