白い靄のかかるゲート中を潜り抜けると、そこは!!
「……どこ……ここ」
「俺の部屋」
ダンジョンへと続くゲートはファンタジーに習って森の中や洞窟だったり、観光名所の中だったり周辺だったりする。それと街中とかかな。
そんな中、個人宅、個人の部屋にゲートが出現したとは聞いた事は無い。……いや、正確には一般的にはあり得ないとされている。
「え゛!? 自分の部屋にダンジョンってヤバくないですか!? ダンジョンブレイクとか起きたらガチでヤバイじゃないですか!?」
「その心配は無用です。出口が俺の部屋なだけで、觔ちゃんで移動するか俺が念じないとゲートは出てこないんです。だからダンジョンブレイクは起きないですよ」
ダンジョンブレイク。それはダンジョン内部で異常が発生し、大挙してくるモンスターがゲートから溢れ出て来ることを総称している。
まぁそれはともかく。
「なんですかその俺だけ通れるダンジョンみたいなの……」
「別に俺だけじゃないですよ。仙人なら誰でも行けます」
「実質サトルさんだけじゃないですかそれ……」
「まぁ……」
そんな会話をしながらカレンさんを下した。
「うわ! 足裏に伝わるマットの感じ! めっちゃ現代文明って感じする!」
部屋のマットの肌触りが良いのか、カレンさんは少しだけ足踏み。その感触と無事に戻ってこれたの二拍子で嬉しいのか、大きな胸を揺らしてぴょんぴょん飛び跳ねた。
俺はスッと視線を外す。
「へぇ~ここがサトルさんの部屋かぁ~……。仙人だからそれっぽい所に住んでるのかなぁって思ったんですけど、なんかぁ普通ですね」
俺が視線を外している間、どうやらカレンさんは俺の部屋を見渡したようだ。
「それっぽいのは仙山のあそこだけです。広さにしてワンルーム8畳。仙人に生る前は日雇いランカーの一人ですからね」
「日雇いだったんですか!? 信じられない!? ……でもザ・一人男子部屋の感じを見るにそうなのかも……」
「等身大の一般人ですよ」
セミダブルのベッドにテレビ。テレビに繋がれたゲーム機とテーブルと一人用ソファ。机の上にはノートパソコンだってある。変哲のない普通の男子部屋だ。
仙人に生ってからは修行のために仙山に足繁く通うようになったから、部屋の掃除とかおろそかになったから妙に埃っぽい……。落ち着いたら窓開けて掃除だなこりゃ。
「うーむ……」
「ちょ、なにやってんスか」
「エッチな本とかあるかなぁーって」
掃除の算段をつけいていると、カレンさんが部屋を物色していたから焦りながら問いかけた。するとエロ本をさがしていると自白。
「スマホが普及している時代にエロ本は買わんて……」
「じゃあ電子書籍では買ってるんですか……」
「……それは…………」
なんとも答え難い質問に黙ってしまった。これじゃあ俺が電子書籍で買いまくって得る事が丸分かりじゃないか……。それを察したカレンさんは妙にニヤニヤしてる始末……。つか勝手に人の部屋漁るな。
「カレンさん。とりあえず日本には帰って来ましたけど、このまま家まで送りましょうか?」
「今話を逸らしましたよね」
「うぐっ」
「まぁサトルさんも男だしそう言った本の一つや二つ持っててもおかしくないですよ。とまぁさり気なくフォローを入れつつも、流石に家まで送ってくれるのは気が引けるって言うかぁ……」
後頭部を触りながら恥ずかしがるカレンさん。
……よく考えて見たら一人暮らしだったらこんな訳の分からん男に家なんて知られたくないだろうな。考えが甘かった。
「觔ちゃんでひとっとびと思いましたけど、さすがに――」
「雲で送ってくれるんですか!? 電車やタクシーよりそっちの方が絶対早いじゃないですか!! ぜひぜひ送ってください!!」
「は、はい」
眼をキラキラさせて嬉しがるカレンさん。どうやら俺が思った心配は杞憂だったかもしれない。カレンさんも一端のランカーだし、変な奴が来ても一発でしとめるだろう。
「あ、忘れないうちに電話番号とレインのID教えてください! 私はバッテリー切れてて点かないですけど、家帰ったら充電して速攻で登録と友達申請するんで!!」
「あぁ。えーっと……」
メモ用紙に電話番号とレインのIDを書いてカレンさんに手渡した。
(よっしゃああああああサトルさんの連絡先ゲットオオオオオ!! これで一歩前進!!)
「?」
紙を受け取って腰のバックに直したカレンさん。一瞬にんまりした顔が見えたけど、気づけば普通の顔に戻っていた。たぶん俺の気のせいだろう。
とりあえず下したカレンさんを再び胡坐にスポンと収め、ベランダを開けた。
(う~~ん。東京の汚い空気のニオイがするなぁ……)
久しぶりに吸った東京の空気の感想を心の内に述べた。
「カレンさんの家ってどのあたりですか」
「えっとぉ――」
觔ちゃんでビュンビュンと移動すると、なんとカレンさんの居住地は隣町だった。しかもセキュリティが過剰にまである女性限定のいい所の物件だ。正直俺の賃貸の二倍以上のところで驚いた。
「電車で二本隣ですね! お互いの家に行きやすいし、なおさらパートナー結ぶには最高じゃないですか♡」
とカレンさんは押しに押して来た。まぁ確かに家は近いのは間違いないけど、互いの家に行きやすいって俺の家にまた来るのかよ……。まぁ配信パートナーになったらそうなるか……。知らんけど。
そして分かれ。
「サトルさん。助けてくれて本当にありがとうございました。サトルさんが居んかったら、今頃死んでました。だから、この恩返しは絶対にします!!」
息を巻くカレンさんに、まぁまぁとそれとなく俺も会釈。
「ではサトルさん! ありがとうございました!! 絶対レインで友達申請するんで!!」
そう言ってカレンさんは厳重な敷地の門をくぐり、自分の部屋へと帰って行った。
「……なんか波乱な日々だったなぁ」
カレンさんとの邂逅が俺の道しるべになろうとは、この時は思わなかった。
「――嘘」
開口一番、私は虚無を口にした。
玄関を開けそそくさと部屋へと直行。すこし埃っぽいなぁと思いつつも、スマホやドローンを充電にぶっさし、パソコンを開いた結果が虚無だった。
「登録者数……100万人……?」
チャンネル登録者数が驚異の100万人越え。
そして最後の生放送の動画が、1000万再生を超えていた。