ウメダ領が平和になって、はや三年。
僕ことカンサイ・ウメダは、今日も領民たちのために昼寝をしている。
……いや、誤解を招く言い方だな。
ちゃんと働いているのだ。
精神的に。
夢の中で政治のビジョンを描いているだけだ。
「カンサイさまーっ!」
どたどたどた、と、甲高い声とともに扉をぶち破って現れたのは、そう、あのハルミ・マクハリだ。
「お昼寝の最中失礼しますっ! いやあ、これは緊急事態なので! ハルミポイントを30点くらいください!」
「まず謝ろう? なんか壊したよね、ドア。ついでに点数の基準を教えて?」
「それはそれとして! たいへんです勇者さま! この世界の昼と夜が、また逆になりそうなんです!」
「え……?」
ハルミによると、最近になって“時の神”なるやつが「昼夜が固定されすぎているのはよろしくない」とかいうクレームを入れてきたらしい。
「そんなの、こっちにとっちゃ生活リズムがバグるだけなんだが」
「ですからまた〈昼夜逆転〉スキルで対抗するしかありません! しかも今回は“真”が付きます。〈真・昼夜逆転〉! それを発動するには――」
「まさか、また……?」
「はい! 今度はディープで濃厚なキスを、3分間耐久で!」
「……そのスキルほんとに昼夜逆転と関係ある? 愛の儀式になってない?」
「だって、勇者さまが太陽で、ボクが月なんですよ? つまり、ボクが太陽のキスを吸収して、その光を夜に変えるという――」
「さっぱりわからん!」
そして、またしても僕は神に頼ろうと振り向く。
カーミちゃんがパンケーキを焼いている。
「……がんばれ、カンサイ」
「お前、前回と同じリアクションしてない?」
そしてその夜、僕は領主の務めの一環として、ハルミとの3分間キスに挑むことになる。
時間を測っていたクロノスさん(時間管理スキル持ち・ギルドの事務員)が、途中で鼻血を噴いて倒れたけど気にしない。
すると……世界が揺れた。
空がぐるんと一回転して、東から昇っていた太陽が西に沈み、西から再び……月が昇ってきた。
「逆転成功、ですね」
ハルミが満足げに唇をぺろっと舐めたので、僕はもう一度神に相談した。
「カーミちゃん、なんでこんなことになってるの……?」
「……多分、前世の因果だな。前世でお前、太陽神とケンカしてたぞ」
「なんで覚えてるの神様」
◆ ◆ ◆
そしてある日。
事件はウメダ領で起きた。
「勇者カンサイ! おぬしを大宇宙カラオケ大会に推薦するッ!」
現れたのは、宇宙カラオケ連盟の使者・ギャラクティック小町(自称・歌唱で惑星を救う銀河の歌姫)。
「なんで僕がそんな大会に?」
「伝説の〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉が、音波として銀河系の果てにまで届いたのです。それはもう“奇跡の絶唱”と称えられ……」
「ちょっと待て、あれ“叫び声”だったぞ!?」
「いえ、周波数解析の結果、エルデ星では“ハイC(Hi-C)”を超えた“神域トーン”とされ……」
こうして、なぜか僕は銀河で行われる“宇宙カラオケ大会”に日本代表ならぬ“勇者代表”として参加する羽目になる。
宇宙にあるのかどうか不明なプロテインの街を離れ、宇宙船“カラオケ流星丸”に乗って旅立つ。
ハルミ、カーミちゃん、そしてカラオケに異様な情熱を持つ筋肉魔法使い・マッチョマリオ(新キャラ)と共に。
◆ ◆ ◆
大会当日。
観客は1兆人超え。審査員には銀河評議会の長老や、音の精霊、さらには伝説のポップアイドル“エルザ☆アポカリプス”などが並ぶ。
「では、ウメダ星代表、カンサイ・ウメダ選手!」
僕はステージに立つ。
頭の中は真っ白。けれど、僕の後ろではハルミとカーミちゃんが親指を立てている。
(そうだ……信じよう。ツッコミの力を!)
そして、僕がマイクを握った瞬間。
――ドゴォォォォン!!!
「ナンデヤネェェェェェェェェェェン!!!」
その叫びは音速を超え、銀河中に響きわたった。
観客は全員、絶叫ツッコミの爆風で吹き飛ばされ、ステージは崩壊。
音の神が顕現し、こう告げた。
「……優勝」
こうして、カンサイ・ウメダは、銀河最強の“絶叫ツッコミシンガー”として世界(宇宙)に名を残した。
◆ ◆ ◆
のちに“宇宙カラオケ大戦”と呼ばれるこの事件により、銀河は一度滅びかけるが、カーミちゃんのパンケーキで何とかなった。
そしてこの世界には、こう語り継がれる。
――昼と夜をひっくり返し、宇宙をもツッコんだ勇者がいた、と。