目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

後日譚 ①

 ウメダ領が平和になって、はや三年。


 僕ことカンサイ・ウメダは、今日も領民たちのために昼寝をしている。


 ……いや、誤解を招く言い方だな。


 ちゃんと働いているのだ。


 精神的に。


 夢の中で政治のビジョンを描いているだけだ。


「カンサイさまーっ!」


 どたどたどた、と、甲高い声とともに扉をぶち破って現れたのは、そう、あのハルミ・マクハリだ。


「お昼寝の最中失礼しますっ! いやあ、これは緊急事態なので! ハルミポイントを30点くらいください!」


「まず謝ろう? なんか壊したよね、ドア。ついでに点数の基準を教えて?」


「それはそれとして! たいへんです勇者さま! この世界の昼と夜が、また逆になりそうなんです!」


「え……?」


 ハルミによると、最近になって“時の神”なるやつが「昼夜が固定されすぎているのはよろしくない」とかいうクレームを入れてきたらしい。


「そんなの、こっちにとっちゃ生活リズムがバグるだけなんだが」


「ですからまた〈昼夜逆転〉スキルで対抗するしかありません! しかも今回は“真”が付きます。〈真・昼夜逆転〉! それを発動するには――」


「まさか、また……?」


「はい! 今度はディープで濃厚なキスを、3分間耐久で!」


「……そのスキルほんとに昼夜逆転と関係ある? 愛の儀式になってない?」


「だって、勇者さまが太陽で、ボクが月なんですよ? つまり、ボクが太陽のキスを吸収して、その光を夜に変えるという――」


「さっぱりわからん!」


 そして、またしても僕は神に頼ろうと振り向く。


 カーミちゃんがパンケーキを焼いている。


「……がんばれ、カンサイ」


「お前、前回と同じリアクションしてない?」


 そしてその夜、僕は領主の務めの一環として、ハルミとの3分間キスに挑むことになる。


 時間を測っていたクロノスさん(時間管理スキル持ち・ギルドの事務員)が、途中で鼻血を噴いて倒れたけど気にしない。


 すると……世界が揺れた。


 空がぐるんと一回転して、東から昇っていた太陽が西に沈み、西から再び……月が昇ってきた。


「逆転成功、ですね」


 ハルミが満足げに唇をぺろっと舐めたので、僕はもう一度神に相談した。


「カーミちゃん、なんでこんなことになってるの……?」


「……多分、前世の因果だな。前世でお前、太陽神とケンカしてたぞ」


「なんで覚えてるの神様」


 ◆  ◆  ◆


 そしてある日。


 事件はウメダ領で起きた。


「勇者カンサイ! おぬしを大宇宙カラオケ大会に推薦するッ!」


 現れたのは、宇宙カラオケ連盟の使者・ギャラクティック小町(自称・歌唱で惑星を救う銀河の歌姫)。


「なんで僕がそんな大会に?」


「伝説の〈真・気力封魔撃滅金剛烈破〉が、音波として銀河系の果てにまで届いたのです。それはもう“奇跡の絶唱”と称えられ……」


「ちょっと待て、あれ“叫び声”だったぞ!?」


「いえ、周波数解析の結果、エルデ星では“ハイC(Hi-C)”を超えた“神域トーン”とされ……」


 こうして、なぜか僕は銀河で行われる“宇宙カラオケ大会”に日本代表ならぬ“勇者代表”として参加する羽目になる。


 宇宙にあるのかどうか不明なプロテインの街を離れ、宇宙船“カラオケ流星丸”に乗って旅立つ。


 ハルミ、カーミちゃん、そしてカラオケに異様な情熱を持つ筋肉魔法使い・マッチョマリオ(新キャラ)と共に。


 ◆  ◆  ◆


 大会当日。


 観客は1兆人超え。審査員には銀河評議会の長老や、音の精霊、さらには伝説のポップアイドル“エルザ☆アポカリプス”などが並ぶ。


「では、ウメダ星代表、カンサイ・ウメダ選手!」


 僕はステージに立つ。


 頭の中は真っ白。けれど、僕の後ろではハルミとカーミちゃんが親指を立てている。


(そうだ……信じよう。ツッコミの力を!)


 そして、僕がマイクを握った瞬間。


 ――ドゴォォォォン!!!


「ナンデヤネェェェェェェェェェェン!!!」


 その叫びは音速を超え、銀河中に響きわたった。


 観客は全員、絶叫ツッコミの爆風で吹き飛ばされ、ステージは崩壊。

 音の神が顕現し、こう告げた。


「……優勝」


 こうして、カンサイ・ウメダは、銀河最強の“絶叫ツッコミシンガー”として世界(宇宙)に名を残した。


 ◆  ◆  ◆


 のちに“宇宙カラオケ大戦”と呼ばれるこの事件により、銀河は一度滅びかけるが、カーミちゃんのパンケーキで何とかなった。


 そしてこの世界には、こう語り継がれる。


 ――昼と夜をひっくり返し、宇宙をもツッコんだ勇者がいた、と。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?