「――で、なんで俺が“公務参加”って名目で婚活イベントに参加させられてんだよ!?」
「おっほっほっほっ、領主様ともあろうお方が、独身貴族を続けていては民が不安になるでしょう!」
そう声高に笑ったのは、ウメダ領の重鎮・オバハン長老。
齢七十を越えたとは思えぬ気力で、なぜか金ピカドレスに身を包み、会場中央でワインを煽っている。
「なぁ、せめてもうちょいマシなイベント企画できなかったのか……?」
「安心してください、勇者さま!」
と、割り込んできたのは、我らが魔法学園出身のサイキョー婚活コンサルタント・カーミちゃん(今日の肩書)。
「今回の婚活は、スキル診断相性バトルロワイヤル形式です! 初対面の相手とスキルでバトって、相性が良ければカップル成立です!」
「何その狂気の沙汰みたいなシステム!?」
「もちろん、カンサイさまには“無双勇者”のスキルセットでご参加いただきます♡」
うん。たぶんこの世界、いろいろおかしい。
◆
というわけで、僕は“領主としての公務”という名の婚活地獄に参加するハメになった。
ちなみに参加者は約300名。
男女半々。
そのうち冒険者経験者が230名、残りは商人、貴族、鍛冶屋、料理人、変な研究者、あと謎の「マッチング占い師」とかいう謎職も混じっている。
会場中央に、巨大な水晶玉が置かれており、そこに各ペアの“スキル相性”がパーセンテージで表示される。
なにこの技術、うちの国の軍事転用とかされてないだろうな?
「第一回戦、カンサイ・ウメダ VS ラブクラフト・ヨシコさん、開始ィィィ!」
「ちょ、名前からしてヤバくない!?」
ヨシコさんは目の周りに謎の黒いアイライン、スキルは〈情念の触手召喚〉。
僕は反射的に〈距離感バリア〉を展開したが、触手の追尾精度が高すぎて振り切れない!
「アァァァタタタタァァッ!」
〈真・距離感皆無封じ奥義・反転ブーメラン突撃〉でなんとか対処し、勝利。
水晶玉には「相性 3%(※精神的距離100m以上)」と表示された。
「なんだよこの仕組み……地獄かよ……」
◆
二回戦、三回戦と続き――気づけば僕のスキルバトル連勝記録は更新され続けていた。
完全に“婚活”じゃなくて“スキル無双トーナメント”になってる。
そんな中、会場の片隅である人物と目が合った。
「……ハルミ?」
「やっほー、カンサイくん! ボクも一般参加枠で申し込んだよ~♡」
「完全に最終ボスの登場パターンだよそれ!」
「さあ、いよいよ最終戦! カンサイ・ウメダ VS ハルミ=シャチホコ・テンノウジィィィ!」
ナレーションがそう叫ぶと、全会場が湧き上がる。まさかの、婚活イベントのフィナーレが“宿命の恋人同士バトル”。
ハルミが構える。右手に光るのは〈スキル:感情暴走型愛情増幅弾(Lv.999)〉。
僕も構える。持っているのは〈全否定ツッコミ(特級)〉。
「いくよ、カンサイくん!」
「来い、ハルミ!」
◆
――数十秒後、会場は静寂に包まれていた。
勝敗? そりゃあ……
「んぐっ……んむっ……ば、バカ! 今、みんな見てるって……っ」
「お前が先にキスしてきたんだろ!」
最終戦の結果は、文字通り“口で語る”ものとなった。水晶玉の表示は、こうなっていた。
「相性 999%(世界規模の爆発的感情干渉)※周囲に被害甚大」
「……え、これでカップル成立?」
「成立どころか、結婚式の準備も始めてますよ!」
「ちょっと待て、勝手に話を進めるなああああああ!」
◆
こうして――
カンサイ・ウメダ(勇者/領主)と、ハルミ=テンノウジ(世界一過激な婚活参加者)の愛の戦いは、今日も続いている。
それは世界を巻き込みながら、やがて伝説となるだろう。
いや、むしろもうなってる気がする。