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1.桜の下で【4】

『望月くんが夜に逢ってるお友達なんだけどさぁ。

あの子には、気を付けたほうがいいよ』


バスに揺られる最中、脳裏にて紀野さんの言葉が蘇る。

憤然とした思いが心に湧き上がる。

今日になって初めて話をした紀野さん。

人目を惹く容姿に恵まれ、クラスの賑わいの真ん中に在り、日々を楽しく謳歌しているに違いない紀野さん。

そんな彼女に『友達』のことをとやかく言われるなんて腹立たしく思えてしまったのだ。

そんな彼女に僕の何が分かるというのだろう。

あの『友達』が、どれだけ僕の心の支えになっているか想像すら付かないのだろう。


そう思いつつも、脳裏に残る紀野さんの姿は未だに艶やかなままであって、右の掌には彼女の熱が留まっているように感じられた。

そのことには何とも遣りきれない思いを抱かされてしまう。

そんな気持ちを振り払うかのようにして、車窓を流れる情景に目を凝らす。

窓から見る空は夜の色に染まりつつあって、それは静かな海原を連想させるものだった。


僕の脳裏では、『友達』の姿が明瞭になりつつあった。

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