『望月くんが夜に逢ってるお友達なんだけどさぁ。
あの子には、気を付けたほうがいいよ』
バスに揺られる最中、脳裏にて紀野さんの言葉が蘇る。
憤然とした思いが心に湧き上がる。
今日になって初めて話をした紀野さん。
人目を惹く容姿に恵まれ、クラスの賑わいの真ん中に在り、日々を楽しく謳歌しているに違いない紀野さん。
そんな彼女に『友達』のことをとやかく言われるなんて腹立たしく思えてしまったのだ。
そんな彼女に僕の何が分かるというのだろう。
あの『友達』が、どれだけ僕の心の支えになっているか想像すら付かないのだろう。
そう思いつつも、脳裏に残る紀野さんの姿は未だに艶やかなままであって、右の掌には彼女の熱が留まっているように感じられた。
そのことには何とも遣りきれない思いを抱かされてしまう。
そんな気持ちを振り払うかのようにして、車窓を流れる情景に目を凝らす。
窓から見る空は夜の色に染まりつつあって、それは静かな海原を連想させるものだった。
僕の脳裏では、『友達』の姿が明瞭になりつつあった。