目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第4話

「ヒロをx、川をy、トをzとすれば、君の名前はxy+xz=x(y+z)となる」

「はあ?」


「この両辺を二乗して、(xy+xz)²=x²(y+z)²としてみる」

「いや、何やってるんですか?」


「同値性が保たれていると思うだろ?」

「それは当たり前じゃないですか」

「ところが、だ。今度は√ルートしてみる」


「は? 元に戻るだけじゃないですか」

「はっは、そう思うだろ。ところが、だ。今後はどちらかの辺のxが負の数でもいいことになってしまうんだ。そうなると、√した方程式は場合によっては等式が成立しない」

「はあ? それって反則じゃないですか?」


「そんなことはないぞ。というわけで、君の名前のヒロはプラスでもマイナスでもどうでもよくなった。すなわちモブだ」

「はあ……それなら最初から『広』引く『ヒロ』はゼロとでもすればよかったんじゃないですか。難しくしないで」

「う……まあ、結果は同じだ。君の名前もモブにふさわしいと認定しよう」

「はあ……」


「入部してくれるな?」

 なんなのこの人?

「あ、いや、ところで部員って何人いるんですか?」

「う……実は幽霊部員があと三人いるんだ。幽霊だけにみんなモブだ」

 ああ、正式な部員は二人だけってことか。


「ただ、部長の私でさえ誰が幽霊部員だかわからない」

「は?」

 それっていないのと同じですよ。

「彼らのことはニュートリノと呼んでいる。宇宙をスルーし続ける素粒子界のモブだ。電子、タウ、ミューの三種類。いずれも捕まえることは困難だ」

 なぜここでニュートリノ? ホントに存在するの? 幽霊部員。


「ミューニュートリノは私の友だちだよ! キャハ!」

 ギャルがまた変な突っ込みを入れてきた。


「あ、もういいです。でもまあ、入部は……一応検討します」

「おお! 本当か!? じゃあこれを持って行ってくれたまえ」

 ぶちょーはさっきの入部届の紙を前に突き出している。

「あ、はあ……考えときます」

「できるだけ早く持って来てくれたまえ」

「はあ……」


 俺は学校の昇降口へ向かったが、ぶちょーとギャルはニコニコして手を振っている。いや、あの人たち、ホントにモブって言えるのか?

 頭が混乱したまま俺は昇降口の前に張り出されたクラス表を見た。


「あれ? もしかして生徒会長じゃありませんか?」

「え?」

 俺はびっくりして振り返った。女子生徒が立っていた。見覚えはないけれど……。


「やっぱり生徒会長ですよね。一緒の学校だったなんてびっくりです」

「えーと……」

「なんか東京の超エリート校に行ったらしいってみんな噂してたんですけど」

 これはやばい。なんとかしなければ。


「あのさ、君」

「はい?」

「あのね、ここだとまずいから、ちょっとあっちに一緒に来てくれるかな?」


 おいおい、これじゃ口封じに人のいないところに連れて行くみたいだぞ。

「わかりました。生徒会長とお話しできるなんて、光栄です」

 なんかめっちゃ信頼されてるな俺。何かされるとか、微塵も考えてなさそうだ。

「じゃあほら、そっちの校舎の裏に行こう」

 ああ、俺これじゃあ変質者だよ。

「わかりました」

 女子生徒はニコニコして着いてきた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?