「あの……」
俺は手をまっすぐ横に、腰を九十度曲げて頭を下げた。
「え? どうしたんですか?」
驚く女子生徒に構わず俺は言った。
「すいません。中学でのことは他の人に言わないでほしいんです」
「え? あんなにすごかったのに?」
「あ、あれは……ホントの俺じゃないっていうか……とにかく」
「あの、顔を上げてください」
「あ、はあ」
俺は頭を上げ、彼女の顔を見た。
困惑の表情を浮かべている。まあ当然か。
「なにか……事情があるんですか?」
「あ、はい……実は……もうあんな生活嫌なんです」
「え? みんなの憧れだったんですよ、生徒会長は」
「それが重くてモブになりたくて……それでこの高校に……」
「ああ、そうだったんですね」
「はい。そうなんです……」
なんだか物分かりがいいな。
「でも、なんでですか。普通にヒーローになれるのに」
「いや、その……注目されるのはもうつらくて……」
「ああ、わかりました」
いやマジ物分かり良すぎない?
「え? ホント? 黙っていてくれる?」
少し間があり、女子生徒が何かを思いついたように切り出した。
「条件付けさせてもらっていいですか?」
「え? まあ、俺ができることなら……」
「私、生徒会長に憧れてたんです」
「え?」
まさか交際してくれとか!?
なわけないか。
「だから、人生を変えたくて、誰も知り合いがいないと思ってこの高校に来たんです」
「は?」
「そしたら生徒会長がいて……でも私、この高校で中学の時の生徒会長みたいに天下を獲りたいんです!」
「へ?」
ああ、そういうことか、憧れって。
「私の手伝いをしてくれませんか」
「え?」
「ダメですか?」
「あ、だから俺、目立つのはもう嫌だって……」
「それはわかりました。まあ、能ある鷹は爪を隠すっていいますから、その心情はわかります」
いや、そういうわけでもないんだけど。
「私を裏で支えてくれませんか?」
「え?」
「隣県の同じ中学から来た二人ってどうせすぐばれるでしょうから」
「あ、はあ……」
「その前に手を打ちましょう」
偽の恋人になるとかなんとかそういうことだろうか。
「生徒会長は私の下僕としてこの高校についてきたってことにしてください」
「へ?」
いやなんでそうなる。
「私の言うことは何でも聞いてもらいます」
「はあああ!?」
「嫌ですか?」
「え、そりゃあ、いくらなんでも……」
「じゃあ、バラしますよ」
「え? それは困る……」
トンデモ女子に絡まれちゃったよ。
「下僕ってことにしておけば、注目はみんな私の方に集まるんじゃないですか」
「……それはそうかもしれないけど」
「モブになれますよ」
「はあ」
「じゃあ、そういうことにしましょう」
「いや、俺まだ返事してないし」
「バラしますよ」
「う、それだけは……」
「じゃあ決まりですね」
「う……」
これってあの、イエスかはいで答えなさいってやつ?
「じゃ、クラス分け見に行きましょうか」
「はあ……」
俺は気のない返事をするしかなかった。