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第6話

 「あれ? クラス一緒です」

 掲示板を見た彼女が言った。


「え?」

「1年2組。良かったですね」

 いや良くないような気が……。

「そうだ。同じクラスなら、私はとある名家のお嬢様で、生徒会長は私に奉仕するため同行してきた執事ってことにしましょうか」


 もうどうでもいいです。モブならば。下僕よりはましだし。

 あ、誰も聞いてないよな。

 俺は周囲を見回したが、俺たちに注意を払っているやつはいなそうだった。


「私の名前は上沢絵美里うわさわえみりです。よろしくお願いします」

「あ、ああ俺は……」

「もちろん知ってます、広川博斗生徒会長。私の憧れなんですから」

「ああ……でももう生徒会長って呼ぶのはやめてくれないかな」

「ああ、そうですね。じゃあなんて呼べば……ヒロヒロとか?」

 またそれか。落差ありすぎだろ。


 俺が困った顔になったのを見て彼女が続けた。

「はは、冗談ですよ。じゃあ、執事だから広川って呼び捨てにしていいですか」


 呼び捨て! 

 ああ、それは俺の憧れだ。思い起こせば中学最後の年、俺の名前を呼んでくれる人は誰一人いなかった。しまいには生徒会長どころか会長になって……俺は会社の創業者かっての。


「どうしたんですか?」

 俺が遠い目をしていたのを見て彼女が言った。

「あ、ああなんでもない。それでいいです」

「ホントにいいんですか。じゃあ私のことは絵美里様って呼んでくれますか?」


 さま!? 

 なんだか足蹴にされている感が強いけど。

 そう言えば中学時代は俺、人を下の名前で呼んだことなんてなかったな。

「あ、はい」

 まあどうせ断る選択肢なんて俺にはないみたいだし。


「じゃあ、呼んでくれる?」

「は?」

「今すぐ!」

 お嬢様じゃなくてもはや女王様だよ。


「あ、はい、あの、絵美里様……」

「気軽に私の名を呼ばないで、広川!」

 いや呼べって言ったじゃん。


「はは、ホントにいいんですかこれで?」

「ああ。俺、モブならなんでもいいよ」

 もうヤケクソだ。


「なんだか申し訳ない気もしてきたけど……面白くなりそう」

 絵美里は不敵な笑みを見せた。やっぱヤバいやつに絡まれちゃったよ。


 まあでも、改めて見ると容姿端麗で、いかにもお嬢様って感じではある。モブ顔の俺とは違って。まあ、こういうやつこそ天下を獲るべきなんだよな。


「まず手始めに、勉強教えてくれませんか?」

「え?」

「生徒会長、じゃなかった、広川も寮ですよね」

「あ、まあそうだけど」

 二人だけなのにもう呼び捨てかい。


「食堂は男女共用ですから、そこで教えてくださいよ」

「え? そんなことすると目立つんじゃ……」

「だから、私が目立つのはいいんですって。執事は世話してるだけなんだから、周りからは空気に見られるでしょ」

「あ、ああ……」

 そうかあ?

「まあ、誤解を呼ばないように、二人が付き合ってるわけじゃなくて主従関係だっていう情報を徹底しましょう」

「はあ……」

 いやそっちの方が変な誤解を呼ぶんじゃないの?


 それにしても、いきなり俺の命運はこの絵美里様に握られてしまったのか?

 まあ目立たなければいいけれど、これじゃあモブじゃなくてMだよ……。



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