一年二組の俺の席は窓際で、隣は上沢絵美里だった。
隣の席の女の子が俺を……っていう妄想は早くも打ち砕かれたが、そんなラブコメが始まるとモブじゃなくなるから、まあ仕方ないか。
「新入生は体育館に移動してください」
放送が入り、俺たちは入学式に臨んだ。
「えーと、広川だっけ」
入学式の日の一連の行事が終わり、前の席の男子が声を掛けてきた。もう帰れるのにわざわざ俺に……ああ、こんな普通が一番うれしい。
あ、でも名前覚えられてるってことは……さっきの自己紹介で俺、何か目立っちゃったわけじゃないよな。
「なんかさ、普通に普通を絵に描いたみたいなやつだよね、君」
「え?」
普通ならムカつく言葉なのかもしれないが、今の俺にとっては最大級のほめ言葉だぞ、それ。
「あ、ごめん。俺もまあ別に取り柄もないし、ちょっと親近感ってとこかな」
「ああ、そうだったんだ」
俺は取り柄がありまくりだったわけで、ちょっと罪悪感を抱いたが……。
でも! 俺はそれで不幸になったんだ。すべてを捨ててモブ王に俺はなる! 引け目を感じる必要はないぞ! そう思い直した。
でもやっぱちょっとごめん。
「改めてよろしく。俺、山際大吾」
「あ、こちらこそ」
「でもさ、君、わざわざ隣の県から来たんだね」
「あ、ああ、でも寮があったからよかったよ」
「へえ。俺もさ、親が春から遠くに転勤しちゃった関係で寮に入ったんだ。これからよろしくね」
「あ、うん」
うう、こいつとは友達になれそうだ。
友達もちゃんといるモブ……ああ、おれの憧れが実現できそうだ。
「広川。ちょっといいかしら」
隣の絵美里が突っ込みを入れてきた。
「は、はい、絵美里お嬢様」
ここでも執事やらされるのかよ。
「え? 何?」
山際君はちょっと驚いた顔でそう言った。
「広川はね、私のものなの。ちょっかい出さないでくださる?」
うわあ。それじゃあ誤解を呼ぶって。
「私のものだけど、別に付き合っているわけじゃないから誤解しないでね」
「はあ?」
いやそれ、余計誤解するって。山際君が困惑してるよ。まったくもう……。
「あ、はは。ごめんね。びっくりさせて、俺、絵美里お嬢様にお仕えするためにこの学校に来たんだけど……」
「え? さっきのあいさつではそんなこと言ってなかったじゃん?」
突然の展開なのに山際君、鋭いな。
「あ、まあ、わざわざ言うことでもないし……」
「あー、いたいた。μ《みゆ》が光の速さで入部届取りに来たよー」
突然ギャルが乱入して俺のところに小走りで近づいてきた。
教室に残っていた同級生たちがこっちを見ている。
だから、目立ちたくないんだよ、俺は!
まあ、目立っているのはギャルだけど。