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第7話

 一年二組の俺の席は窓際で、隣は上沢絵美里だった。


 隣の席の女の子が俺を……っていう妄想は早くも打ち砕かれたが、そんなラブコメが始まるとモブじゃなくなるから、まあ仕方ないか。


「新入生は体育館に移動してください」

 放送が入り、俺たちは入学式に臨んだ。


「えーと、広川だっけ」


 入学式の日の一連の行事が終わり、前の席の男子が声を掛けてきた。もう帰れるのにわざわざ俺に……ああ、こんな普通が一番うれしい。

 あ、でも名前覚えられてるってことは……さっきの自己紹介で俺、何か目立っちゃったわけじゃないよな。


「なんかさ、普通に普通を絵に描いたみたいなやつだよね、君」

「え?」


 普通ならムカつく言葉なのかもしれないが、今の俺にとっては最大級のほめ言葉だぞ、それ。


「あ、ごめん。俺もまあ別に取り柄もないし、ちょっと親近感ってとこかな」

「ああ、そうだったんだ」


 俺は取り柄がありまくりだったわけで、ちょっと罪悪感を抱いたが……。

 でも! 俺はそれで不幸になったんだ。すべてを捨ててモブ王に俺はなる! 引け目を感じる必要はないぞ! そう思い直した。

 でもやっぱちょっとごめん。


「改めてよろしく。俺、山際大吾」

「あ、こちらこそ」

「でもさ、君、わざわざ隣の県から来たんだね」

「あ、ああ、でも寮があったからよかったよ」

「へえ。俺もさ、親が春から遠くに転勤しちゃった関係で寮に入ったんだ。これからよろしくね」

「あ、うん」


 うう、こいつとは友達になれそうだ。

 友達もちゃんといるモブ……ああ、おれの憧れが実現できそうだ。


「広川。ちょっといいかしら」

 隣の絵美里が突っ込みを入れてきた。

「は、はい、絵美里お嬢様」

 ここでも執事やらされるのかよ。


「え? 何?」

 山際君はちょっと驚いた顔でそう言った。

「広川はね、私のものなの。ちょっかい出さないでくださる?」

 うわあ。それじゃあ誤解を呼ぶって。


「私のものだけど、別に付き合っているわけじゃないから誤解しないでね」

「はあ?」


 いやそれ、余計誤解するって。山際君が困惑してるよ。まったくもう……。


「あ、はは。ごめんね。びっくりさせて、俺、絵美里お嬢様にお仕えするためにこの学校に来たんだけど……」

「え? さっきのあいさつではそんなこと言ってなかったじゃん?」

 突然の展開なのに山際君、鋭いな。


「あ、まあ、わざわざ言うことでもないし……」


「あー、いたいた。μ《みゆ》が光の速さで入部届取りに来たよー」

 突然ギャルが乱入して俺のところに小走りで近づいてきた。


 教室に残っていた同級生たちがこっちを見ている。

 だから、目立ちたくないんだよ、俺は!


 まあ、目立っているのはギャルだけど。

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