「ぶちょーめいれいだよー。入部届持って来てくれないかなあ、ヒロヒロくん」
μ《みゆ》さん、顔近すぎますって。それに、その呼び名……。
とはいえまあ、せっかく友人ができそうな場面がグダグダになりそうなところに現れた助け舟のような気もするので、利用することにした。
「あの、絵美里お嬢さま、それから山際君。俺、入ろうと思ってた部活の部長から呼び出されちゃったみたいで……」
「そうだよー、ぶちょーが呼んでるから」
μさんが合いの手を入れてくれた。まさか空気読んだ? そんなわけないか。
「えーと、あなたどなたですか?」
絵美里は超絶不機嫌そうな顔でギャルに突っかかった。
「へへ、μはギャルだよ。テヘ?」
μさんが両手で猫耳を作ってそう言った。お見事なボケありがとうございます。
でも変なポーズやめて……。
「ギャ、ギャル?」
さすがの絵美里もちょっと圧倒され気味だ。
「あ、あの俺、ちょっとこの人と行ってきます。詳しくは後でお話ししますので、絵美里お嬢様」
絵美里はますます怖い顔をしている。
もしかして俺のこと取られると思って嫉妬してくれてるの?
なわけないか。
「ああそう。まあいいでしょう。しょうがないから貸してあげる」
やっぱり……完全に所有物ですね、俺。
ほんのさっき憧れとか言っていたのは一体どこに?
「じゃあ借りるね! 行こ! 『広』-『ヒロ』=0」
μさんも絶対名前ちゃんと呼ぶ気なさそうですね。
「広川、しっかりお勤めしてくるように」
ああもう、わけわかりませんって。
山際君は結局、呆気に取られて口を開けたままだった。
「ぶちょー、x(y+z)くん、連れてきました!」
俺の名前どこ行っちゃったんですか、μさん。
「ああ、よく来てくれた。広川君。そこに座りたまえ」
部長はちゃんと俺の名前を覚えてくれていたようだ。
それよりここ、備品倉庫じゃないの? まあ、丸イスはありますけど。
「入部届は書いてきた?」
「あ、ああ、いやまだ……」
「そうか。まあいい。改めてここで記入してくれないか?」
「……」
「どうした? 黙って突っ立って。私の顔に何かついているか?」
「あ、いや……さっきとなんか雰囲気が違うので……」
部長はマスクを外し、長い髪もきれいにまとまっている。
廊下を歩いていたら誰もが振り向きそうな颯爽とした黒髪美人だ。
「ああ、ここではモブをやる必要はないからね。改めて自己紹介する。私は冷泉院麗子。MO部の部長だ」
「はあ……」
それはさっきも聞きましたけど……。
「で、君はどうしてモブになりたいのかな? 千早市立千早第一中学校永世名誉生徒会長の広川博斗君」
「え、ええ!? な、なんでそれを!?」
「調べはついているよ。私を誰だと思っている」
いや、誰なんですか。
「朝方の会話で君がただ者ではないことに気づいたが、モブになりたいって言葉も嘘ではなさそうだと思ってな。悪いが調べさせてもらった」
あ、つい突っ込んだのがやっぱりまずかったのか……。
「あ、いやその……俺、注目されるのに疲れて……とにかく目立ちたくないんです」
「ははあ、そういうことか。なんだかぜいたくな悩みだな」
この人も勘がいいな。
「はあ、そう言われてしまうと確かにそうなんですが……」
「だが気に入ったぞ!」
「え?」
「私も似たようなものだ」