「え?」
似たようなものってどういうことですか、部長さん?
「君の秘密を知ってしまったからには私のことも話そう」
「はあ……」
なんか勿体つけるなあ。
「私はRZIグループの総帥、冷泉院秀一郎の一人娘だ」
「えええ!?」
いや何それ唐突な。RZIと言えば西日本最大の企業グループだ。たしか総売り上げは一兆円を超えていたような……なぜそんなお嬢様がこんな遠くの学校に?
「私も中学までのお嬢様扱いに、ほとほと嫌気が差したんだ。それでこの、誰も知り合いのいない学校に進学した」
「はあ……」
確かに似てると言えば似てるかもしれないけど……俺、さすがにお坊ちゃま扱いはされてないし。
「幸いなことに父も、若い時は好きなように生きろと許してくれてな。まあ、私もぜいたくな悩みだ」
「はあ……」
「さっきも言った通り、この学校ではモブを貫いている」
ホントかなあ……。
「私の秘密も明かしたのだから、君はもはやMO部に入るしかないと心得てくれ」
「え? いや、まだ心の準備が……」
いやそれ、ぜんぜん理由になってないし。
そもそも勝手にしゃべったんじゃないですか。
「モブになりたいのだろう?」
「はあ……」
「まあ、さっきから、そのモブっぽい態度はなかなか板についているがな。永世生徒会長の広川君」
なんか嫌味だなあ。
「あの、俺のこと調べたって言ってましたけど、どうやって……」
「私はRZIの跡取りだぞ。どれだけネットワークがあると思っているんだ」
「え? それって個人情報保護法違反なんじゃ……」
「愛するMO部のためだ。致し方ない」
「そんないいかげんな……」
「それに、私がこの高校でモブがやれているノウハウを知りたいんじゃないのかな? 名誉会長君」
うわ、話そらしやがった。それに、なんか名誉会長になってるんですけど。
「あ、まあ確かに」
「君の過去がバレても、ごまかしてウヤムヤにする権力もある」
「はあ、それは確かに魅力的かもしれませんが……」
もう既に一人バレてひどい目に遭ってます。権力は通用しなそうだし。
加えて今度は本物のお嬢様と来た。
「それなら決まりだな。よろしく頼む、入部届だ」
そう言って麗子は用紙を再び俺に手渡した。
「はあ……」
「ところでな、ここにいるμだって実はただのギャルじゃないんだ」
「え?」
まさか宇宙人とかじゃないだろうな。もうなんでもいいけど。
「μは中学一年の時、物理学を根底から覆しかねない新たな理論を考え出して、アメリカの学者に送ったんだ」
「はあ!?」
いやまた話がおかしな方向に行ってるんですけど。
「ところが、その理論は握りつぶされた」
「えーと、話が見えないんですけど」
「危険すぎたんだ。μの理論は相対性理論と素粒子標準理論と量子力学をすべて統一してしまうものだった」
「はあああ!? ノーベル賞どころじゃないじゃないですか?」
「そうだ。だから封印された」
「え? なぜですか?」
「世界中の物理学者が食い詰めてしまうだろ」
「あ、ああ、そういうことですか」
「命も狙われかけた」
「え? マジですか……」
「だからμはこの学校でモブになって存在を隠しているんだ。RZIグループの力も借りて。まあ、ギャルだがな」
「はあ……」
「へっへー。でもμのギャルは天然だからね。天然たい焼きおいしいよねー」
μさんが無邪気な笑顔を見せた。
いや、この人が物理学の天才少女?
ああ、でも天才ってそういうものか。だいたい常軌を逸してるよな。アインシュタインだって相当な変人だったというし。
それにしても、この人たちのスケールに比べると、俺の悩みなんてたいしたことなかったのかも……。
「入るだろ? MO部」
麗子が俺に笑いかけた。
「は、はあ……」