彼の名前は
授業中突然奇声を上げたり、ムカついたから教師を殴り、男女カップルの問題を両成敗したり、存在感は溢れていたが……。彼は既にクラスから省かれていた。しかし本人にその自覚は一切無い。ただ最上はそんな学校生活に飽き飽きとしていた。
「あー面倒くせぇ……次の授業は校庭で体育だ。あー面倒くせぇもう死にてえ……」
そんなある日のことだった。あまりにもつまらな過ぎる最上は、死にたいと思うほどに項垂れていると、その願いは現実となった。
校内に不審者が侵入。まるで最初から最上を狙っていたかのように、真っ直ぐと最上の腹部をナイフで刺した。
「ッ……!? あー、滅茶苦茶痛ぇ……腹を刺される気分ってこんな感じなんだなぁ……なんか意識も遠のいて……」
激痛。すぐに引き抜かれるナイフと、滲み出る大量の血を必死に抑えながら、教室の床で倒れる。教室はクラスメイトの叫び声で騒然となり、いくら異常者として省いていた男でも、クラスはバタバタと教師を呼ぶなり慌てるが、時は既に遅かった。
だんだんと最上の意識は消えていき、ものの数分で息絶えた。
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最上が次に目を覚ました時には、体は浮き、四方全てが白に包まれた不思議な空間……では無く。四方赤く染まり、薄暗く、脈打つ空間にいた。一瞬地獄かと考え、因果応報かと簡単に状況を整理しようとした時、最上の頭の中に声が響く。
『糞漏らすつもりで力んでみ』
は……? 最上はなんのことかと頭に疑問符を浮かべるが、ここが地獄なら何でもいいかと考え、とりあえず感じる便意を素直に受け止め、思いっきり力む。
「あーやべっ……マジでなんか漏れそうだわ……いやこの感覚は糞じゃない。なんか、体の中心からブワーって感じ」
何かが体の中から出てくる。そう感じた時だった。最上の体は内側から眩しく発光し、視界を完全な白で埋め尽くす。しばらくして視界が空ければ、爆音と共に、その空間は爆発四散した。
ふと後ろを振り向く。そこにはもはや原型を留めていない。おそらくドラゴンだったであろう赤い鱗が特徴の生物が、横たわっていた。
つまり、自分はドラゴンの腹の中にいたのだと察する。
あまりの予想外な展開に唖然とする。そんな驚愕は正面から聞こえる拍手の音で掻き消える。そこには満面の笑顔で手を叩く老人がいた。
「おじちゃん誰……?」
「凄い! 凄いんじゃ! あんな巨大なドラゴンを……! あれ、なんじゃったかのぉ?」
老人はふと頭を抱え、目の前で起きた出来事を一瞬のうちに忘れた。しかしすぐに新たなことを思い出し、老人は最上に一つの言葉を言えと命じる。
「あぁ、そうじゃお主! すてぇたすぅと唱えてみ!」
はて、急になんの話かと思えば、また一つ状況を一瞬で理解する。老人の言うすてぇたすとは。異世界転生物語で良く聞くステータスのことであると思い、とりあえず老人の言い方を真似てその言葉を発する。
「すてーたすぅ」
すると、すぐに見たことがあるお決まりの展開である。ステータス画面が最上の目の前に現れる。
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名前:最上 稟獰
年齢:19歳
身長:175cm
体重:65kg
Lv 225
HP:多分無限?
MP:ヤバイ程ある
物攻:星破壊できんじゃね?
物防:核でもいけるんじゃね?
魔攻:最&強☆
魔防:世界滅亡しても生きてると思う
俊敏:光の速さと同じ
運:転生してる時点で無いでしょw
スキル:()内も含む。
・火(爆発)、水(氷)、風(衝撃)、雷(電撃)、地(地震、地変)、光(聖)、闇(呪)全て無効。効かない。
・精神(洗脳、魅了、混乱etc…)、状態(毒、腐食、感染、麻痺etc…)全て無効。
・次元(4次元、空間無視、時間操作、重力操作、能力操作、物理無視、粒子、分子の破壊etc…)これらの攻撃を無効。又は使用可能。
・お前の能力未知数だからこれ以上分かんね
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呆れるほどのチートだった。しかもステータスの文面は嫌になる程に軽く、煽られているのではと感じるほどだった。
そして老人は呆れる最上の表情をみて、ウキウキとした様子でその結果を聞き出す。
「どうじゃったかの!」
「いや、どうもこうもないよ……何これ? いやおかしくね? こんなのあったらゲームバランス崩壊するよ?」
「げぇむばらんすぅ?」
「いや、何でもない。所で俺これからどうすれば良いの?」
「…………はて? 何の事かの?」
「いやだから何をすれば良いのって……」
「ワシには分からん」
「えぇ……?」
異世界転生したからには、何か目的ややるべきことがあるのだろうと考え、先程がボケる老人にダメ元で聞いてみるが、想像通りだった。
老人はもう何も知らなかった。そこで老人の後ろ。遠くから若い男性の声が聞こえた。
「おーい! お爺ちゃん! そこの人もしかして転生者?」
「おぉ〜タケシ!」
「お爺ちゃん! 僕、セイト。息子だよ」
「うむぅ……そうじゃったかのぉ……」
「じゃあもうタケシで良いよ……」
「いや、タロウじゃったかの!」
「うんタロウだよ」
酷くボケた老人の相手をするセイトと名乗る青年は、老人の息子と言うが、最上でさえも気の毒だと思えるほどの光景だった。
そこでふと自分が置いてけぼりにされていることを思い出す。
「あの……俺は?」
「あぁ! ゴメンゴメン! 僕の名前はキリタニ・セイト! 君の様な転生者をずっと待ってんたんだ!」
「あぁそう……」
最上はこの瞬間に次に起こることを察する。自分を異世界に転生させただろう老人は酷くボケており、その息子さえも老人の面倒を見切れていない様子から察するに。おそらく帰ることは出来ないのだろうと考える。
「あれ、なんか凄く落ち着いてるね」
「うん……どうせ帰れないんでしょ? 俺を召喚したのこのお爺ちゃんだよね?」
「なに!? 人の所為にするでない!」
「そうだよ……ははは……」
そう、老人はもはや、最上を転生させたことすら忘れていた。とても落ち着いた最上の態度に一瞬不思議と感じるセイトだったが、まるで分かっていたかのような発言と、老人の態度を交互に、困るように笑うしかなかった。
だから今の最上が一番頼りにするのはセイトしかいなかった。
「あ、そうそう俺はこれからどうすれば良いの?」
「あ! それに関しては、これから行く所あるから追い追い説明するよ」
「あぁ、うん。分かった……」