最上は死に、異世界に転生した。その事実は簡単に受け止めてつつ、そこで出会ったセイトと名乗る青年の案内にされながら、全く別のことを考えていた。
転生させた張本人であるセイトの恐らく父親である老人は、そのことを忘れていたからもう帰れないことは分かった。しかしそもそももし帰れたとして、生きたまま帰れるのだろうかと疑問を持つ。何せ、既に一度死んでいるのだから。
「って言う訳なんだ!」
「あ、ごめん。全く聞いてなかったわ……もう一回説明して?」
「えぇ!? もう目的地着いちゃうよ!? まぁ、良いや。これから行く所で色々教えて貰えると思うから」
「わかった」
そうしてセイトに案内されて来た場所は、豪華絢爛な装飾が施された王城だった。そこで初めて最上は理解する。自分はいつの間にか王都に入っていたことを。
「そこの者立ち止まりなさい。この先は王の間だ。関係者以外、用の無い者は入る事は許されない」
「あ、キリタニ・イチローの息子。キリタニ・セイトです。代わりにお迎えしました」
「あぁ、あのお爺さんの使いね。はいはい通って良いよ」
はて、そういえば老人はどこへ行ったのか。途中から姿を見ていないがと最上は考えるが、また王城を守る兵士のセイトに対する反応に、ただのボケ老人ではなかったと知る。
そして中に入るや否や、黄金の床や壁が目に突き刺さる。あまりの眩しさに目がやられてしまいそうだった。
「眩しい……」
「うん此処は、王の間だからね。最初入った時も同じ反応したよ」
一国の王は、その威厳をたらしめるために、王城の外観までもこだわることがある。しかしだからこそ最上は決して分かり合えない存在だろうと考えていた。
「王様! 転生者を連れて参りました!」
「うむ。宜しい。さて、そこの者。話は聞いておるな?」
「何にも聞いてないっす。てか聞く気も無いっす」
「うむ。ならば改めて教えよう……」
そう何も聞いていないし、最上は興味すらなかった。だから話半分に王様の話を聞くことにした。
「此処は、いやこの世界は今! 魔王の力で滅ぼされかけておる! 歴代1000万年も続く時代があり、魔王が復活する度に、勇者がそこにはおった。
勇者は、魔王が復活する度に封印し、この世界を守って来た。しかし! 今回の勇者は魔王の封印に失敗し、魔王の力は一気に増大。我らに打つ手は無くなってしまった。
そこで我々が唯一、一つだけ世界を救う方法を見つけた。それは別世界の死者をこちらへ転生させ、勇者とさせる事! そう、お主の事だ……」
予想通りだった。話半分に聞いていたものの、異世界転生したらよくある展開である。勇者に選ばれて魔王を倒して来いという物。最上はあまりの典型的展開に呆れるように返事する。
「はぁ……なるほど……へぇ〜」
「どうせ自分には力が無いと思っておろう? 安心せよ。転生の際、お主には何らかの能力がつけられたであろう?ステータスは見たかな?」
「まぁ……」
「どんな能力だった?」
「あーマジでヤバイっす」
「ヤバイ? とは?」
「ちょっと説明しきれないんで、だれか此処に1人能力知れる能力とか持ってる人居ないの?」
「そうか分かった。アオス! 頼めるか?」
「了解しました……」
そう王は相手の能力を鑑定することが出来る者を呼び出し、最上の能力を鑑定させる。この時も最上は呆れていた。どうせ驚いて腰を抜かすのだろうと。
「っ!?!?!? お、おおぉ……王様ッ!! この者、訳が分かりません!」
「ど、どう言う事だ?」
「今、王様に提示します……。」
「はぁあぁ!?? お主! なんじゃこれは! ……聞いても分からないって顔しとるな」
当然最上にも分からなかった。どうしてこんな力を持っているのか。なぜこんなにも化け物じみた強さなのか。
「いやしかし、恐らくステータスにあるだけで使いこなせないという可能性は高いだろう」
「じゃあ教えてくれよ」
「分かっておる。お主の右の扉入って通路を抜ければ、訓練場があるから、実技教官のアンドレを当たるが良い」
「はいはい」
最上はどこまでも呆れる。もし丁度良い強さならば、魔王を倒すことや、訓練することに多少はウキウキしていただろう。だがそんなことはない。こんな訓練なんてする意味があるのだろうかと疑うほどに。
「私がアンドレだ。国王から話は聞いているな?」
「何となく」
「能力を知る事が出来るアオスから君には未知なる能力が隠されていると言っていた」
「へぇ〜」
その時だった。最上の頭の中にピロリンッと通知音がなる。何事かと最上はおもむろにステータスを開くが、そこにはその呆れぐあいをさらに加速させるものがあった。
「ん? ステータス」
「どうした? 何かあったか?」
「いや、今ステータスでなんか新しいの入ったから……」
──────────
スキル:
・火(爆発)、水(氷)、風(衝撃)、雷(電撃)、地(地震、地変)、光(聖)、闇(呪)全て無効。
☆NEW:火、水、風、雷、地、光、闇に関連する技を使用可能に。
・精神(洗脳、魅了、混乱etc…)、状態(毒、腐食、感染、麻痺etc…)全て無効。
・次元(4次元、空間無視、時間操作、重力操作、能力操作、物理無視、粒子、分子の破壊etc…)これらの攻撃を無効。又は使用可能。
・お前の能力未知数だからこれ以上分かんね
───────────
「全ての魔法が使えるようになったってさ」
「はぁ!? 今このタイミングで?」
「うん……」
呆れを通り越してなんとやら。最初からチート能力を持つのに、さらに強くなってどうするんだと。
「それならば話は速い。これから一つ一つ格属性魔法の使い方を教えてやろう」
「あぁ頼む」
「先ずは基本中の基本。無属性・無詠唱魔法だ。単に、衝撃波を纏った気弾を手から発射する技だ。
魔法を扱える者は皆これを最初に学ぶ。魔力の容量によって威力と連射速度が変わるからな」
「ふ〜ん」
「それでは手を前にだし、気弾を発射するイメージを頭の中に思い浮かべる。そして、気合いで出せ」
最上はただちょっとだけ期待していた。魔法発動の仕方は正直言って分からなかったので、教えてくれるならば。そしてアンドレの話を聞いてなにか術式でも組むのかと思えば、それは単なる気合いだということに一気にテンションは下がる。
しかし、ならば自分で楽しめば良いじゃないかと考え、技名を叫びながら魔法弾を発射する。
「
そうすれば、まるで機関砲のような凄まじい連射速度と、爆音を響かせながら、魔法弾が最上の手から発射される。
「……。ははは……気弾をここまで速く撃つとはとは……いや、まぁ、この国に一応いるぞ?」
「なんだつまんねぇな」
「じゃあ次は、炎魔法だな。最も簡単な技でファイアブラストという魔法がある。対象に小さな爆発を与える魔法だ。イメージでやって見ると良い」
次は火属性魔法。そして爆発系と聞けば最上は強くイメージする。爆発、爆発、凄まじい大爆発とは……。
そうすれば空中に火の玉が召喚され、それは甲高い音を鳴らしながら急速に魔力を高め、だんだんと大きく、膨れ、巨大化していく。
流石に不味いかと思ったのか、最上は慌てて魔力の出力を止める。
「あ、やべ。止まれ止まれっ……ふぅ……」
「んー。途中で止めたのは正しい判断だ。あれを放って居たら、この国丸ごと吹き飛んでいたからな」
「今のは?」
「魔王の力を弱らせる為に、古代のスタール族が、100人集まって放った究極合体魔法グランド・サンという技だ。
それを今一人で放とうとしていたな……もう君の能力には参ったね」
「グランド・サン……名前からしてヤバそうだ……」
「次は、氷魔法だ。もう簡単とは言わない。氷の結晶を作って見ると良い」
次は氷魔法。また最上は強くイメージする。氷、結晶、吹雪……。極寒。その時だった。最上とその周囲の気温が急激に低下。そして雪が降り始めた。
「おや? さっきとは全く違うね……へ? あー……なるほどね」
「何が?……あ……」
機関砲レベルの魔法弾、国を吹き飛ばしかねない究極魔法、そして氷どころか気候を変えてしまう魔法。こんな信じられないことや、現象を見ればアンドレも最上の力を理解しつつ、そしてこんな奴はいますが訓練を終わらせて帰らせた方が良いと考えるようになっていた。
「んー。はいはい次行こうか。次は風魔法だね。上手い人は風の向きを変える事が出来る」
だからあえて大袈裟に言ってみる。気候を変えられるのなら、次は風向きを変えることが出来るのではと。しかしその予想は大きく外れることになる。
風魔法。風、突風、嵐……。強くイメージしたその結果は、一見何も起こらないと思えば、怪しげな風切音がなる。
「ん? なんか聞こえるぞ……」
それはどんどん強くなり。
「なんの音だろうな……」
遠くの視界に超巨大ハリケーンが形成され、王国に向かって来ていた。たちまち王国は暴風警報を鳴らし、国民に危険を知らせる。
「竜巻だ! てか滅茶苦茶でけぇ!」
『超大型ハリケーン接近中! 直ちに避難して下さい!』
「えぇっと君の名前は……」
「稟獰だ」
「早く止めろ!」
「えーっとこれには……」
アンドレは慌てふためきながら最上に命令する。今すぐこれを止めろと。だから最上は魔法ではなく、4次元能力を感覚的に発動する。
『空間無視・時間操作』まず最上からまだ距離のある竜巻に対して能力の効果がのる範囲を無視させ、竜巻対して時間逆行を発動。周囲の時間はそのままに、竜巻が発生する前まで時間を戻すことで止めることに成功した。
「止まったね」
さぁ、もうここまでこれば最上とこれ以上付き合ってられないと感じるアンドレは、訓練も適当に終わらせたいのか、説明も適当にする。
「冷や汗が……よしよしさっさと終わらせよう。次は、雷魔法だね。適当にビリビリっとやるんだ!」
あまりの雑さに最上は苦笑するが、変わらず次は雷魔法をイメージする。
電気、電流、雷、落雷……。その結果、王国上に暗雲が立ち込め、雷電が轟き、そして轟音を鳴らして雷が落ちる。それはただの落雷ではない。周囲を激しく明滅させ、地面と激突する雷で地面が揺れ、衝撃波が巻き起こる。
「うわああああ!! 早く終わってくれええええ」