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第3話 訓練・2

 訓練は続く。いや最上にとっては能力のお披露目会にしかならないだろう。残るは光と闇とその他の魔法訓練。


「はぁ……次は光だな。私はそろそろ本気を出させて貰う。君の力を侮っていたようだ。私の全力を見るがいい! 聖十字剣ディバインクロス!」


 アンドレは半ば息を切らしながらも、ようやく本気を出す。そうしなければ舐められて終わりだからだ。ならば実戦程度の。いや、大戦時のより強力で、広範囲の魔法ならばと、最上に見せつけるようにして魔法を発動。

 地面に勢いよく剣を突き刺せば、地面に円と神々しい大十字の光の紋章が現れ、次の瞬間にその範囲だけ浄化の光が溢れる。

 物理的な力はないが、魔王の力が宿る魔物に特化した聖魔法である。


「おぉ〜……格好いい割に攻撃判定狭そう……」


「なら君もやって見るといい」


 この魔法は聖騎士でありながら、その血を受け継ぐ者にか使えない技。これならばとアンドレは自慢げにかつ、最上の反応をみてふんぞり返る。


 だから最上はイメージする。光、聖なる、神……。


迫害の十字架ゴッド・ホーリークロス!」


 最上が叫ぶと空から超巨大の十字架が落下。着地した衝撃で、周囲の地面が抉れ、黄金の閃光がパチパチと煌めけば、丁度訓練場全域を光の力で埋め尽くす。


「なんか落ちて来たあああ!!?? こんな魔法見た事が無い……見るからにとんでもないが……神クラスの魔法とでも言うのか……?」


 神クラスと言われても最上はピンと来なかった。魔力も消費している感覚もなければ、疲労感も無い。


「おっほん! さぁ、次だぁ……? 次は恐ろしい闇魔法だ。暗黒、呪い、洗脳と言った事が可能だ。先ずは私の見本を見たまえ……。黒い太陽ブラックサン


 闇魔法。それはこの世界で禁忌と言われる種類。しかし学習すること自体は可能であり、ただ恐ろしいからという理由で禁忌と呼ばれているだけである。

 そしてアンドレは最後の闇魔法を発動。空中に両手サイズの黒い球体が現れれば、突然周囲の空間を歪ませ、まるで球体がブラックホールのように、その景色ごと吸い込んでいるように見せる。


「わぁ……真っ黒な太陽だなぁ……」


「超重力魔法だ……一応闇の部類なんだが……全く感じないのか?」


「あ? 何が?」


「押しつぶされるような感覚は……?」


「あーすまん。重力操作無効だから」


「………へぇー」


 もはやアンドレの目から光が消える。もう勝てない。コイツにはどんな強い力も通用しないだろうと完全に諦めた。


「なら次は俺だな……」


「う、うむ……」


 なので今回も最上はイメージする。闇、暗黒、深淵……。


堕天の教会アンダー・カテドラル!」


 次の瞬間に起こるは地中深くから鳴り響く唸り声と地響き。地面から漆黒の光が溢れ出し、それは一つの身体を形成する。


「あれは……サタンッ!? いや、不完全なサタンだ!! 地獄から呼び出したってのか!?」


 深い闇。吸い込まれそうな黒。その眼光を見れば全身が凍りつきそうな恐怖を感じさせる。しかしそれは誰が見ても分かるような不完全体だった。


『我を呼びせし主は、何処の誰だ……』


「いや、お帰り頂いて大丈夫です」


『貴様! 我を呼び出しながら、何もせぬか! 愚か者めぇ!』


封印おすわり


 しかし無情にも最上はサムズダウンしてサタンを強制送還する。


『ぬわあああああ!!!』


「ふぅ……これで属性系は全てかな……ってあれ、教官……?」


「……今日は終わりだ……戻って良いぞ……」


 ふと気がつけばアンドレは項垂れ、力のない声で最上に訓練の終了を言い渡す。完全に意気消沈と戦意喪失。流石の最上も気の毒だと思った。


「戻ったか勇者稟獰よ……」


「いつ俺勇者になった?」


「今じゃ」


 帰ると最上は何故か勇者となっていた。当然だが最上にそんな重荷を背負うつもりは毛頭ない。


「はいはい分かったよ……魔王倒さないと返してくれないんだろ?」


「む? 何を勘違いしておる? 最初からお前を返す方法など知らんぞ? だって、お前はあちらの世界で死んでいる筈なんだから」


 予想はしていた。だからこそやる気をなくす。ならば尚更勇者なんてやるべきではないと最上は考える。


「まぁ。お主のやるべき事は、魔王を倒すことじゃ。頼むぞ?」


「断る」


「は……? 今なんと?」


「断るって言ったの」


「ほほぅ? ならば、お主はこの国の侵入者として、拘束させてもらおう。勇者ではないんだからな」


 王は勇者になることを断る最上に飄々とした態度で、その処置を下す。勇者でなければただの一般人であり、一般人は許可なく王城に入ることは出来ない。だから犯罪者として最上を拘束することを命ずる。

 しかしそこで最上の後ろをついてきていたアンドレが血相を変えて大声で王に警告する。


「国王様! 彼に喧嘩を売ってはなりません! 国が滅びます!」


「アンドレではないか。滅ぶとはどう言う事じゃ?」


 しかし時既に遅し。最上は軽く究極魔法を発動していた。


超究極破壊魔法スーパーグランド超新星ライジングサン!」


 巨大な火の球体が召喚されれば、甲高い音を響かせながらさらに魔力が急速に上昇。赤色は白に変わり、それだけで凄まじい熱気が謁見の間を包む。


「駄目だ! もう間に合わないッ!」


「この魔法は……!」


 そしてそれは大爆発を起こす。周囲の兵士も王も、なす術なく唖然とし、断末魔を叫ぶ暇もなく、無情に命の灯火を文字通り消滅させる。


「いやっほう! マジで爽快!」


 こうして、最上稟獰が転生した国は完全消滅した。


プロトス王国消滅(最上が消した国)

死者 1200万人

生存者 1名

最上 稟獰 19歳

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