ついカッとなって王国を消滅させた最上。国王から勇者になることを拒んでいたが、最上は実を言えば魔王を倒すつもりでいた。しかし勇者になる必要はないと考えていただけなのだ。
だがやるはやるにしても、モチベーションが必要である。何処か気分を上げられるような。例えば装備を整えるとかやったほうが良いのではと最上は考え、とりあえず隣町へ移動した。
「いらっしゃいませー」
「とりあえず全身装備買いに来ましたー」
「それはこちらになりますねー。一式セットで5000E(エーデル)になります」
5000E。この世界はどれだけの物価で、通貨は円に換算するとどうなるのか最上は知らない。さらに無一文であり、突然死活問題に直面する。だがしかし、金を稼ぐ必要は無い。最上にとってこの世界そのものが財布なのだから。
「
これを使ってしまえば、この世界のどこかにある金庫から金を盗むなど造作もないこと。最上は何もない空中に両手を突っ込み、ジャラジャラとおそらく硬貨同士がぶつかる音を頼りに、適当に鷲掴みし、適当な量をカウンターにぶち撒ける。
「これで足りる?」
「え? 空間保管ですか? 今のは……」
「まぁ、そんな所」
「はい。5000E頂戴しまーす。はいどーぞ」
「よし」
店員は少々最上の行動に驚くも、空間魔法がそれだけ珍しい物ではないのか。カウンターに置かれた硬貨を選び取るように丁度5000Eを取り、会計を終わらせる。
そうして最上が獲得したのは、フルプレートアーマー。兜も含めた完全装備である。
「おっも……。やっぱり要らねえや」
だが最上は気に入らなかった。これから魔王を倒すのに敏捷性を下げてどうするのかと。だからどうせ金はいくらでも手に入るので、鎧を脱ぎ、道端に捨てた。
そう言うわけでなんとなく気分が上がった最上は魔王討伐の旅を再開する。さてはてしかし、魔王の場所なんて知るはずもない。誰かに聞いたとて答えてくれるわけもないだろうが、最上はダメ元で書き込みをしてみる。
「ちょっとそこのお兄さん。魔王って何処にいるか知ってますか?」
「あ? 知らねーよ。勇者ならしってんじゃねぇか?」
「ですよねー」
あまりにも途方の無い旅だと察すれば、またしても帰りたい衝動に駆られる。しかし帰っても元の世界で最上に待つのは死のみ。
だからさらなる書き込みを兼ねて街の探索でもしようかと考えるが、それすらも面倒。なのでとりあえず場所を移動する。
「瞬間移動」
目的地は不明。適当に決めた方角へ一定距離瞬間移動。そこで見たのは、由緒正しそうな。また王都だった。そしてその国の名前は……。
「スタール王国……? どこかで……」
人の話をまともに聞いていない最上に、奇跡的に残っている記憶の中にその国の名前に合致するものがあった。
『スタール族が100人集まって魔王を弱らせる為に放った……』
それは最上が消滅させた王国のアンドレととばれていた教官の言葉だった。
ならばこの国は少なくとも魔王に関連する歴史を持っており、少なくとも勇者はいずれこの国に入るであろうと考え、最上は早速ここで情報を集めることにする。
「あーすいませーん。ちょっと入れて貰えますか?」
「☆€÷〆°・=>」
まさかの理解できない言語。パッと聞いても最上の知る言語ではなく、完全に異世界の言語だと察する。異世界に転生すれば大体言語理解スキルは常備されている物だが、今回は違ったようだ。
だからと言って今から言語を勉強したり、言葉がわかる人間を連れてくるのはあまりにも面倒。だから最上が下す判断は一つ。強行突破である。
「
氷属性の究極魔法。これを発動すればたちまち気温は急激に低下し、大地は凍りつき、猛吹雪が吹き晒す。それに対してスタール族だと思われる人は唇を青くし、小刻みに体を寒さで震わせる。急に何が起きたなど理解なんてできようもなかった。
「€+〒°#○:♪!?」
しかしこれではまだ弱い。さらに魔法を重ねがけする。
「
現在感じている不快感、得体の知れない恐怖を増幅させ、精神を崩壊。完全に屈服させる。闇魔法の一種である。
「ギャアァアア!!」
スタール族の人間は悲鳴をあげ、血相を変えて全力で逃げ出す。そんな光景に最上はゲラゲラと笑うのだった。
ということで無事に王国へ潜入。そのまま王宮まで何事もなくたどり着いた。そこですぐに怒りの形相で一人の兵士が近づいてくる。
「貴様が見張りを怖がらせた者か……」
最上は相手が何故怒っているかなど関係なく、軽く挨拶する。
「ヘーイ俺っすー」
「貴様は一体何者なんだ? 私の部下は、震えながら周囲の山や川が一気に氷の世界の様になった。と言った」
「精神崩壊と氷魔法ぶっぱしただけだよ……多分精神崩壊で、大袈裟に物が見えちゃったんでしょ」
「精神崩壊だと? 洗脳魔法を使える者は沢山いるが、一撃でしかも幻覚と復帰不能まで追い込むとは……」
「あらら、それはお気の毒に。それはともかく、俺は勇者になる筈だった者だ。プロトス王国って知ってる? 俺がね勇者にはなりませんって断ったらさ、拘束するなんて言い出すから……破壊魔法で国ごと消しちゃった」
部下の再起不能を起こした張本人が他人事のように、それはともかくと受け流したことに、兵士の額に青筋が立つが、さらなる最上の衝撃的な言葉に、兵士は激怒する、
「貴様がやったのかッ! 唯一の勇者を排出する国だったのだぞ! 最近連絡が途絶えたと思えば、遠方から王国さえも確認出来ないと騒ぎになっていたら! 国ごと消した……だと?」
「あぁ、お前らが過去魔王にぶっ放した究極合体魔法の上位魔法でね。俺を敵に回したらやばいぜー?」
たった一人で破壊魔法を発動出来ること言ってさらに脅す。最上はこんなこと言っているが、罪悪感が皆無という訳では無い。一度に1200万人を殺害した感覚は測り知れず、ちょっとだけ悪かったと思っていた。普通の人間なら制御できない力に絶望するはずだが、最上にとっては1割の罪悪感に対し、9割のストレス発散が勝っていた。
だから結果オーライとする。
「くっ……! にわかには信じられんが……。さっきの氷魔法といい……我々に何のようだ……」
「魔王って何処にいるか知ってる? 俺が今すぐ復活出来なくなる程ぶっ潰してあげるから」
「魔王は居ない……」
「へ?」
「魔王は勇者が勇者の力を手に入れるために、封印を解く事で復活する。物には順序という物が有るのだよ」
「よしならさっさとその封印を解きに行くぞ。何処にある?」
「この世界に8つ」
「が必要だ。それらを全て合体させる事で、勇猛なる力。即ち勇者の力が得られる」
あまりの情報量の多さに最上はまたしても話を聞いていなかった。つまり全て破壊すれば良いのだと結論つけた。
「理解したッ! 全部破壊してくるううう!!」
「は? おい! 待てッ!」