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第16話 世間は許してくれませんよ

「いやぁ、僕の風魔法もかなりの自信があったんだけどね?」

「あ、あの…………」


:お、おうサボリニキ…………

:そそそ、そうだな……?

:う、うむ。素晴らしい速さだったと思うぞ……?


「それとは比べものにならないくらいこのダンジョン広かったんだよね。いやぁ、こんな広いダンジョン、僕ですら見たことないよ」

「さ、サボリニキさん……いや、サボリニキ様?」


 俺の顎には草と土の感触。頭上にはサボリニキの靴の感触。

 胸、腹部、膝、足。その全てが地面についてる、いや押さえつけられている。


「あ、あの、あと……ちょっと痛いです」


 正確には、『風魔法で押さえつけられている』。

 明らかに初級魔法の『そよ風のちょっと強い版』を超えている気がするのだが……そこはサボリニキを信用する。

 ……信用するからな? さすがに中級以上を一般人に撃ったりしないよな???


「とりあえず今日はしばらく解放しないから」

「待って単位がまさかの『日』だと? 物理でも秒数以外の単位見ないのに、『日』だと!?」

「何か?」

「アッ……いえ、ナンデモ…………」


 全身がまったく動かないので、目線だけセッティングしているスマホに移す。


:スレ主強く生きるんだぞ

:死なないようにな

:お前らちょっと自分を守りに行ってるのマジ草

:当たり前だろ。スレ主の味方ついても踏み潰されるだけだからな

:サボリニキはドラゴンか何かなのかな?


 待って、俺バカスカに言われてね?

 サボリニキ2回殴っただけで信用無くなりすぎじゃね?

 ……当たり前か。


 閑話休題。

 閑話にまとめたくないけどこれ以上はサボリニキに殺されてしまうからしょうがない。いやマジで。


「俺のダンジョン、そんなにデカいのか?」

「うん、やばいよ。一般的なダンジョンの大きさなら一瞬で帰ってこれると思っていたんだけど、少なくともその10倍はでかいね」


 んんっ!?

 2倍デカいとかそのくらいかなって思ってたら、まさかの10倍?

 それはさすがに……いやというか。


「俺のこと騙してる?」

「よくこの状況で疑ってくるね。上級魔法に変えてあげようか?」

「あ、ごめんなさい信じます貴方様が嘘を言うはずがございませぬ。大変申し訳無い限りでございます」


:草

:立場逆転すぎる

:↑※なお、武力行使


 次のグレードアップ先が『上級魔法』ということは今使ってるの『中級魔法』じゃね?と思ったが、これこそツッコんではいけないと思い直す。


 しかし、そんなにデカいのか。

 そして、そこで思い出すは『階層……1階層』の文字。


 クソデカダンジョンがこれから2階層と続いていくとなると…………


 やっべめっちゃおもしろくなってきた!!


「これだけ大きけりゃ、山と海は問題ないんじゃないかな。スレ主、【範囲指定】で全マップ見せて」


 クッソさっきのサボリニキ殴る前の会話思ったより聞かれてるじゃねーかよおい。


 それはそうと、さすがに今はサボリニキに見せることが出来ない。

 だって…………


「とりあえず、頭に乗せてるその足どかして欲しいな?」

「……えぇー」

「そんなに俺を痛めつけたいんか!? ったく、ツンデレな・ん・だ・か……いて、いててて、ちょっ……風強くなってませんかサボリニキ?」

「大丈夫、安心して。ちゃんと強くしてるから」

「おい待てそれ安心できな……いってぇなクソ! 管理者ボード!」


 サボリニキの冷徹さに説得を諦めた俺は、管理者ボードを展開した。


 すると、右腕のあたりの風だけ消えた。

 なるほど、操作はさせてくれるらしい。そのまま全身解除してくれよ。


 【地形変更】→【山】→【部分変更】と進めていく。

 どうやら最初から【火山】や【氷山】といった【山】の亜種が設置できるわけではなく、【山】を設置してから条件を満たしていた場合、亜種に変更できるらしい。


 とはいっても、亜種の条件が厳しいというわけもなく、よほどのことが無い限り変更可能だ。


「ふむふむ。この耕作地の大きさからして、この見取り図がこのダンジョンの全体なのは合ってるみたいだね」


:ってか、なんか一部だけ白くね?

:広範囲を一気に草原にしたせいで一部だけバグって変更できんかったんかな

:いやでも、くり抜かれたみたいに白くなってるからそれも違う希ガス

:あ、これ【山】の設置範囲じゃね?

:あーそっか、これ【山】の【部分変更】の見取り図か

:ってことは、思ったより狭い?


 スレ民の推理通り、おそらく【山】の設置範囲だろう。

 ダンジョンの大半が潰されるのでは?と危惧していたが、サボリニキの言っていた通りダンジョンがクソデカなおかげで、思ったよりも圧迫されないみたいだ。


「スレ主。川で区画整理するのは確定なんだよね?」

「まぁそうだな。ある程度整理しておいた方が見栄えもいいし扱いやすいし。ちょうど半々に分けるくらいでいいか」

「え、半々? 畑の範囲そんなに取る?」

「あーいや、『居住区』と『その他』で分けようかなって。後々、『その他』エリアには畑以外にも倉庫とかできるなら工場とか建てたいなーって」


:スレ主がこの状況を受け入れているという新事実

:床に叩きつけてる犯人と被害者って、こんなに円滑な会話するんだな……


「うるさいぞお前ら」


 さすがに『居住区』と『畑』だけじゃ寂しいもんな。

 何を作るかはまだ決めてねーけど、現実世界に帰らなくても余裕で生活できるくらいには発展させたいと思っている。


「このダンジョン、縦:横が1:2くらいだからちょうど真ん中の上部に山置く感じがいいかな」

「あー、んで下に海を設置したら川がちょうど一直線になって均等にツーエリア区切れる、と……」

「そうそう」

「んでも、一直線の川ってのもなんかなぁ……」

「うねらせたりはできるんじゃない? だって、このスキルだよ?」


 うむ、世界で最も説得力のあるセリフだ。

 たしかにこのスキルならなんでもできそうな気はする。


 まぁ、できなきゃあとでまた考えればいいし、とりあえず山作るか!


 それが決まると、案外あっけなく風魔法の牢獄から解放してくれた。

 ったく、根が優しいんだからっ。

 ……声には出さないけど。


「それはそうとサボリニキ」


 ポチッ、ポチッと管理者ボードを操作しつつ、俺はサボリニキに話しかける。


「ん?」

「今回お前メインの回っぽかったけど、笑い少なくね?」

「違うんだよスレ主。君がボケすぎなの」


 おいそれ、遠回しに『真面目にできないバカ』って言ってるよな!?

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