「お前ら、『海』に続く動詞って知ってるか?」
管理者ボードを操作しつつ、スレ民に問いかける。
いい暇つぶしの道具を見つけたとな、そんな感じではないぞ? うむ。
:答えが分かってる問題ほどやりたくないものはないぞ?
:けっ、どうせ『正解は『作る』でしたーw えw 分からなかったの?www』をやりたいだけだろ
:解像度高い。スレ主検定1級をやろう
:1級の難易度低いし、スレ主検定とか世界一欲しくねぇよおい
:めちゃくちゃに言われてて草
「俺泣いていいかな」
嘘だろ。質問1つすら許されないマジ?
「スレ主。僕がいるからね」
「さ、サボリニキ…………!」
お、お前だけは……お前だけはいつも俺の味方だな……!
「あんなに殴ったのに俺の味方でいてくれるなんて、お前最高かよ……!」
「……そうじゃんスレ主僕のこと殴ってるじゃん。やっぱなしで」
「サボリニキィィィィィ!!!!!」
自業自得とはまさにこのこと……。
……このセリフいつか言ってみたかった。
:スレ主! 俺がついてるぜ!!
:ば、バカニキ……!
「あー、うん……気持ちだけ受け取るわ」
:スレ主ィィィィィ!!!!
:な ん だ こ の コ ン ト
:こいつら似た者同士すぎるだろ
バカニキを適当にあしらいつつ、【地形変更】→【海】→【部分変更】を選択する。
そして、範囲選択画面。
「あー、こんな感じなのか」
このダンジョンを真上から見下ろしたような2Dマップが表示されるのは今までと同じ。
しかし、設置範囲が大きく異なった。
ちょっと前、サボリニキに教えてもらったように、ダンジョンには広さの限界がある。
地球のような球体ではなく、平面。
つまり、【海】が成立しないのだ。
【海】の設置範囲の周りが草原に囲まれていれば、それはもう【湖】だし。
しかし、この設置範囲を見ればすぐに納得した。
どうやら【海】は、ダンジョンの端に沿うようにL字型で設置できるようだ。
俺がいじることができるのは、そのL字型の位置を『西と南』や『東と北』といったように変えられることと、大きさを変更できるだけ。
あとは自動で自然な形に整えてくれるらしい。
相変わらずの有能さだ。
「ふむ……」
今、俺の中にある構想は、北にある山から南の海まで川を作り、ダンジョンを東西に区切る。そして、西に居住区、東にその他と決め、発展させることだ。
なので、南に【海】がくるのはひとまず確定。
あとはどちらのエリア端に【海】を作るか、だが…………
「海無し県住みの俺、オーシャンビューしたい」
:おい私情すぎるって
:もっと人の意見聞こうよ
:自分勝手はよくないぞ
おい俺のスキルだぞ。私情500%で何が悪い。
「スレ主さ…………」
:いいぞサボリニキ!
:お前からも言ってやれ!
「天才すぎない? それで行こう。となると、海岸沿いには高層ビルが欲しいね。ここはダンジョンだし地震が来る心配も無いはずだから、──」
:待てサボリニキ
:お手!
:↑なんで犬と同じ扱いなんだよw
:くっそこれが埼玉県民か……!
:それは700万人に喧嘩売ることになるからやめておこう
:待って、埼玉の人口把握してんのキモすぎるって
今後どう発展させるかはひとまず置いておき、【海】の設置範囲のであるL字型は『西と南』で確定だな。
もう何度目か分からない【地形変更】の操作を慣れた手つきで進めていき、【完了】をタップ。
ピンポーン
『巨大な地形変更を行おうとしています。本当によろしいですか? YES or NO』
さっきと同じ警告文。もちろん【YES】。
ピロン
『【海】を生成しています。完了まで、00:00:59』
これまた先ほどと同じく、1分間の生成時間に突入した。
ってか、海も1分で作り終えんの、普通にバケモンすぎないかこのスキル……。
1分後。
再び管理者ボードを開くと、右上に固定表示されていたタスクが少し変わっていた。
『【海】を生成が完了しました』
『【山】を生成が完了しました』
「きたっ!!!!」
ついつい子供らしく喜んでしまった。
:えっ、なに急に可愛いじゃん
://////////
:きゃっ、ワイのナ・ニ・カの扉が開いちゃうううううう♡♡♡
:うっわ
:ごめんて。一言でキレるなよ
「お前らいい加減にしろよ」
スレ民にツッコみつつ見渡してみる。
──北にそびえ立つ深緑の山、そして南にある海は何処までも青く、磨きたてた青銅の鏡の色をしている。
ごめん。適当言った。嘘すぎる。
「……地球だ」
「……地球だね」
:小学生でももう少しまともな感想言うぞ
:↑小学生に失礼
:草
いや……こんな感想にもなるって。
もちろんさっきまでの一面草原も、最初の無機質な空間と比べれば生命を感じていた。
だが、山と海という最高のアクセントが加われば……『いい』だとか『趣がある』という感想しかでてこない。
自然って……素晴らしいな。
「──バルごへあぁぁあああああ!!!!!!!」
突如頭上から襲われた強風に、俺は地面に叩きつけられる。
「なんかスレ主らしくないことしてそうだったから風魔法入れておくね」
「おい待ておかしいだろおおおおお!!!」
:よかったスレ主だ
:サボリニキよくやった
:スレ民として完璧の行動だ
◇ ◆ ◇
サボリニキに仕返しと言わんばかりの暴力を受けたところで、今日の配信は幕を閉じた。
今日は、全体の地形を整えることができた。川がまだだが、次回やればいい。
成果としては十分だろう。
────だが、今日は最後に1つ
背後に立つ人物の方に振り返る。
「サボリニキ」「スレ主」
「「……え?」」
ハモった。
絶対ハマるわけがないところで、ハモった。
つまり、サボリニキも俺に何か用事があるということ。
「あはは、ハモるとはね。スレ主からいいよ」
「いや、ちょっと……
「うーん……でも僕は僕で、
……どうやら俺の快適ダンジョンメイキングライフ、そう長くは続かないようだ。