木の根が壁や床から突き出し、槍のように
敵が反応する前に、いくつもの根が竜に襲い掛かった。足や尻尾、腹や胸に根が突き刺さる。
ドラゴンは断末魔の
雅也は手を緩めない。さらに意識を集中すると、壁から突き出た根がドラゴンの首に刺さる。別の根は首に巻きつき、ドラゴンの頭を壁に叩きつけた。
相手の動きが一瞬、止まる。
――いまだ!!
床から新しい根が
胴体や翼に突き刺さり、着実にダメージを与えていく。ドラゴンは雄叫びを上げ、その凶悪な
亀裂の向こうにいる雅也さえ、炎の勢いに恐怖を感じた。
神殿内は火の海となり、暗黒樹の根が燃えていく。やはり強力な炎に
それでもかなりのダメージを与えたはずだ。
雅也は炎が収まるのを待った。二十分ほど経つと火の勢いは弱まり、神殿内の様子が見えてくる。
火が
木の根は焼き尽くされていたが、ドラゴンは壁に寄りかかってぐったりしている。攻撃が効いたんだ。
「今日倒せなかったとしても、明日もう一度スキルを使えば……」
朝、仕事に行く前にここに来よう。そんなことを考えていると、目の前の通路に光の柱が立った。これは巨大な木を倒した時に出てきた光と同じもの。だとしたら、ドラゴンを倒せたってことか!?
亀裂から見えるドラゴンはまったく動かない。完全に死んでいるようだ。
目を向ければ、光の中に先の
雅也は恐る恐る手を伸ばす。クリスタルに触れると、パンッと光が弾けた。
「……また、スキルを得ることができたのか?」
雅也は戸惑うが、昨日と同じように情報が頭の中に流れ込んでくる。ズキリと痛みが走ったため、雅也はしゃがんで頭を押さえた。
『黙示録の火竜を撃破。エクストラスキル【バーニング・メガ・ブラスト】を獲得しました』
黙示録の火竜? バーニング・メガ・ブラスト? なんだか
頭を振って立ち上がると、またしても異変が起きる。
亀裂の中が輝き出したのだ。
「これって、昨日と同じ――」
雅也が亀裂を
大きさは8メートルぐらいあるだろうか。
後ろ姿しか見えないが、間違いなく巨大な〝蜂〟だ。腹部の先には、鋭い毒針が付いている。
「今度は蜂か……でも、どうして次々モンスターが現れるんだ?」
なにがなんだか分からず、雅也は呆然と蜂を見つめる。巨大な木のモンスターを倒せば終わりだと思っていたのに、これでは切りがない。
とは言え放っておく訳にもいかず、雅也は亀裂から蜂の様子を
ただ浮かんでいるだけで、やはりこちらには気づいていない。正面に大きな扉があるので、そちらに意識を向けているようだ。
だとしたら、ふいを突いて攻撃することは可能。
雅也は自分の手を見つめる。たったいま獲得したスキル【バーニング・メガ・ブラスト】を使うことができる。
――油断してる蜂になら当てられそうだ。試してみるか。
雅也は亀裂の前で手をかざし、意識を集中する。手の前で小さな火球が生まれ、徐々に大きくなっていった。轟々と燃える火球を巨大な蜂に向ける。
「バーニング・メガ・ブラスト!!」
放たれた火球は恐ろしい速度で飛んでいき、蜂の背中に直撃した。カッと
神殿内は光でなにも見えなくなり、衝撃で地面が激しく揺れる。
雅也は立っていられず、その場に尻もちを突いた。爆風や爆炎に巻き込まれてもおかしくなかったが、なぜか亀裂から炎などは入ってこない。
まるで見えないバリアに守られているかのようだ。
雅也は地面に手をついて立ち上がり、亀裂に顔を近づける。中を覗けば、そこにはなにもなかった。
蜂はおらず、壁や床などが燃えている。
とんでもない威力だ。ダンジョンのモンスターを倒すと、こんな凄いスキルが使えるようになるのか?
蜂を倒したことで、あのクリスタルが現れたのだ。雅也は手を伸ばし、七色に輝くクリスタルに触れる。
頭の中に情報が流れ込んできた。
『エンペラー・ビーを撃破。エクストラスキル【
「また
困惑する間もなく、亀裂の中が輝き出す。雅也は目をすがめ、光が収まるのを待ってから中を覗く。
そこには、また違うモンスターがいた。
長い尻尾と、凶悪な牙。鋭い爪の生えた四本の足で大地を掴み、白いたてがみを優雅に揺らす。全長、10メートルはあるだろうか。
まるでライオンのようなモンスター。見るからに強そうな怪物に、雅也は思わず身震いした。
◇◇◇
奥多摩のダンジョンに入った冒険者たちは、開けた洞窟の中で死闘を繰り広げていた。高い天井には無数の飛竜が飛び交い、地上には火を吐きながらロックドラゴンが迫って来る。
如月カイトは剣を構え、引きつった表情で叫ぶ。
「大神さん! こんな数の竜、見たことありませんよ!!」
「ああ、確かにな」
大神は冷静に返し、長槍を頭上で回転させてから穂先をロックドラゴンに向け、相手を牽制する。
落ち着いているように見える大神だが、カイトは見逃さなかった。
大神のこめかみから大粒の汗が流れている。ベテランの冒険者でも、この状況は想定外なのだろう。
海外のA級冒険者も、飛び回る飛竜に悪戦苦闘していた。
カイトは剣を構えたまま、ゴクリと喉を鳴らす。
「これが……S級ダンジョンか」