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第5話 蘇る悪夢

 木の根が壁や床から突き出し、槍のようにとがった根の先がドラゴンに向く。

 敵が反応する前に、いくつもの根が竜に襲い掛かった。足や尻尾、腹や胸に根が突き刺さる。

 ドラゴンは断末魔のごとき咆哮を上げ、暴れ回った。

 雅也は手を緩めない。さらに意識を集中すると、壁から突き出た根がドラゴンの首に刺さる。別の根は首に巻きつき、ドラゴンの頭を壁に叩きつけた。

 相手の動きが一瞬、止まる。


 ――いまだ!!


 床から新しい根がいだし、一気に伸びてドラゴンに襲い掛かる。

 胴体や翼に突き刺さり、着実にダメージを与えていく。ドラゴンは雄叫びを上げ、その凶悪なあぎとから炎を吐き出す。

 亀裂の向こうにいる雅也さえ、炎の勢いに恐怖を感じた。

 神殿内は火の海となり、暗黒樹の根が燃えていく。やはり強力な炎にあらがうことはできない。

 それでもかなりのダメージを与えたはずだ。

 雅也は炎が収まるのを待った。二十分ほど経つと火の勢いは弱まり、神殿内の様子が見えてくる。

 火がくすぶり、煙が立ちめていた。

 木の根は焼き尽くされていたが、ドラゴンは壁に寄りかかってぐったりしている。攻撃が効いたんだ。


「今日倒せなかったとしても、明日もう一度スキルを使えば……」


 朝、仕事に行く前にここに来よう。そんなことを考えていると、目の前の通路に光の柱が立った。これは巨大な木を倒した時に出てきた光と同じもの。だとしたら、ドラゴンを倒せたってことか!?

 亀裂から見えるドラゴンはまったく動かない。完全に死んでいるようだ。

 目を向ければ、光の中に先のとがった六角柱のクリスタルが浮いていた。

 雅也は恐る恐る手を伸ばす。クリスタルに触れると、パンッと光が弾けた。


「……また、スキルを得ることができたのか?」


 雅也は戸惑うが、昨日と同じように情報が頭の中に流れ込んでくる。ズキリと痛みが走ったため、雅也はしゃがんで頭を押さえた。


『黙示録の火竜を撃破。エクストラスキル【バーニング・メガ・ブラスト】を獲得しました』


 黙示録の火竜? バーニング・メガ・ブラスト? なんだか仰々ぎょうぎょうしい名前のスキルが身についたようだ。これも一日一回だけ使えるらしい。

 頭を振って立ち上がると、またしても異変が起きる。

 亀裂の中が輝き出したのだ。


「これって、昨日と同じ――」


 雅也が亀裂をのぞくと、ぐったりしていたドラゴンはいなくなり、代わりに別のモンスターがいた。透明な羽を振動させ、空中に浮き上がっている。

 大きさは8メートルぐらいあるだろうか。

 後ろ姿しか見えないが、間違いなく巨大な〝蜂〟だ。腹部の先には、鋭い毒針が付いている。


「今度は蜂か……でも、どうして次々モンスターが現れるんだ?」


 なにがなんだか分からず、雅也は呆然と蜂を見つめる。巨大な木のモンスターを倒せば終わりだと思っていたのに、これでは切りがない。

 とは言え放っておく訳にもいかず、雅也は亀裂から蜂の様子をうかがった。

 ただ浮かんでいるだけで、やはりこちらには気づいていない。正面に大きな扉があるので、そちらに意識を向けているようだ。

 だとしたら、ふいを突いて攻撃することは可能。

 雅也は自分の手を見つめる。たったいま獲得したスキル【バーニング・メガ・ブラスト】を使うことができる。


 ――油断してる蜂になら当てられそうだ。試してみるか。


 雅也は亀裂の前で手をかざし、意識を集中する。手の前で小さな火球が生まれ、徐々に大きくなっていった。轟々と燃える火球を巨大な蜂に向ける。


「バーニング・メガ・ブラスト!!」


 放たれた火球は恐ろしい速度で飛んでいき、蜂の背中に直撃した。カッとまたたいたと思った瞬間、凄まじい爆発が起きる。

 神殿内は光でなにも見えなくなり、衝撃で地面が激しく揺れる。

 雅也は立っていられず、その場に尻もちを突いた。爆風や爆炎に巻き込まれてもおかしくなかったが、なぜか亀裂から炎などは入ってこない。

 まるで見えないバリアに守られているかのようだ。

 雅也は地面に手をついて立ち上がり、亀裂に顔を近づける。中を覗けば、そこにはなにもなかった。

 蜂はおらず、壁や床などが燃えている。

 とんでもない威力だ。ダンジョンのモンスターを倒すと、こんな凄いスキルが使えるようになるのか?

 いぶかしんでいると、またしても防空壕の通路に光の柱が立っていた。

 蜂を倒したことで、あのクリスタルが現れたのだ。雅也は手を伸ばし、七色に輝くクリスタルに触れる。

 頭の中に情報が流れ込んできた。


『エンペラー・ビーを撃破。エクストラスキル【大量虐殺の猛毒針ジェノサイド・ニードル】を獲得しました』


「また仰々ぎょうぎょうしい名前のスキルが……」


 困惑する間もなく、亀裂の中が輝き出す。雅也は目をすがめ、光が収まるのを待ってから中を覗く。

 そこには、また違うモンスターがいた。

 長い尻尾と、凶悪な牙。鋭い爪の生えた四本の足で大地を掴み、白いたてがみを優雅に揺らす。全長、10メートルはあるだろうか。

 まるでライオンのようなモンスター。見るからに強そうな怪物に、雅也は思わず身震いした。


 ◇◇◇


 奥多摩のダンジョンに入った冒険者たちは、開けた洞窟の中で死闘を繰り広げていた。高い天井には無数の飛竜が飛び交い、地上には火を吐きながらロックドラゴンが迫って来る。

 如月カイトは剣を構え、引きつった表情で叫ぶ。


「大神さん! こんな数の竜、見たことありませんよ!!」

「ああ、確かにな」


 大神は冷静に返し、長槍を頭上で回転させてから穂先をロックドラゴンに向け、相手を牽制する。

 落ち着いているように見える大神だが、カイトは見逃さなかった。

 大神のこめかみから大粒の汗が流れている。ベテランの冒険者でも、この状況は想定外なのだろう。

 海外のA級冒険者も、飛び回る飛竜に悪戦苦闘していた。

 カイトは剣を構えたまま、ゴクリと喉を鳴らす。


「これが……S級ダンジョンか」

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