通路の先に明かりが見えてくる。土壁にある亀裂から、雅也は慎重に中を
予想通り、そこにはライオンとは別のモンスターがいた。だが、大きすぎて全身が見えない。
黒い鎧を
三十メートルはあるんじゃないか? 雅也は眉間に皺を寄せ、亀裂に目を近づけて中の様子を
巨人は仁王立ちで、こちらに背を向けていた。
警戒もしていないようだ。的が大きい分、攻撃を当てるのは簡単だろう。
「新しく得たスキル。さっそく試してみるか……」
雅也は両手を亀裂の前にかざし、黒い巨人に意識を向ける。
「――轟雷覇王撃!!」
神殿内部に稲妻が轟く。四方八方から降り注ぐ雷が、巨人の体に直撃した。巨人はグラリと体を揺らし、壁に手をつく。
あの鎧は恐らく『鉄』。だとしたら、雷は効くはずだ!
雅也はさらに意識を集中する。数百の雷が巨人に落ちた。
これで倒せるだろうと思った刹那――巨人は両手を上げ、地響きのような唸り声を上げる。雅也の体はビリビリと震えた。
――このスキルだけでは倒せないのか!? だったら!
再び意識を集中する。別のスキルでこの巨人を
「バーニング・メガ・ブラスト!!」
火球は黒い巨人にぶち当たり、烈火の
とてつもない爆発が起こり、神殿内は光に包まれる。亀裂からは、やはり衝撃は伝わってこない。しかし、地面は震えていた。
雅也は手を下ろし、炎と煙が晴れるのを待つ。
しばらくすると神殿内の様子が見えてくる。巨人は地に
雅也は横を向き、通路に目を移す。そこには光の柱が立ち上がっていた。
光の中にクリスタルが浮いているが、いままでとなにかが違う。クリスタルは虹色ではなく、もっと神々しい、白い光を放っていた。
雅也はゆっくりとクリスタルに近づき、手を前に出す。
触れた瞬間、輝きはさらに強くなり、爆発するように弾けた。雅也は腕で顔を守り、腰を落として身構える。
だが、なんの衝撃も感じない。見れば周囲には光の粒が舞っていた。
光が飛び散っただけのようだ。
「スキルは……獲得できたんだよな?」
困惑したまま立ち尽くしていると、いつものように頭に情報が流れてきた。いままで以上の激しい頭痛に襲われる。
『アダマンタイト・ゴーレム【ガイア】を撃破。アルティメットスキル【ガイア召喚】を獲得しました』
雅也は頭を振って辺りを見回す。少しフラつくものの、頭や体に問題はないようだ。それにしても、アルティメットスキルって……。
いままで獲得したスキルより、さらに強力ってことだろうか。
雅也が考えている間に、亀裂の中がまた光り出した。新たなモンスターが出てくるようだ。何度も繰り返しているため、さすがに驚きはしない。
それにしても、一体いつになったら終わるんだろうか?
こっちはただ危険なモンスターを排除したいだけなのに。
不満を抱きつつも、雅也は亀裂の穴を覗く。そこにいたのは、ごく普通の人間だった。
褐色の肌で筋骨隆々。上半身は裸で、下半身には
「あれも……モンスターなのか?」
不思議に思ったが、雅也はハッとして腕時計を見る。午後六時を回っていた。
真紀が帰ってくる時間帯なのに、夕食用の食材を車に乗せたままだ。料理が作れないと怒り出すかもしれない。
雅也は
車から買い物袋を取り出し、慌てて家に入ると、Tシャツと短パンに着替えていた真紀が台所から顔を
「ちょっと! 夕飯の支度ができないんですけど。いままでなにやってたの?」
真紀は不機嫌そうに目を細め、睨んできた。
「ああ、ごめん、ごめん。ちょっと色々あって……」
謝りつつ台所の棚に買い物袋を置く。真紀は袋から食材を取り出し、ぶつぶつ言いながら料理の準備を始めた。
雅也はネクタイを
その時、真紀が声を掛けてきた。
「お父さん、さっき地震があったみたいだけど、気づいた?」
「え? あ、いや。ちょっと気づかなかったな。揺れたのか?」
黒い巨人を倒した時の振動だろう。雅也が
真紀を怖がらせる訳にはいかないからな。気づかれないようにしないと。
◇◇◇
翌日も役場の仕事は、ダンジョンに関する問い合わせが中心となった。
窓口で丁寧に対応し、一日の仕事が終わる。同僚に挨拶してから庁舎を出ると、急いでスーパーに行き、買い物を済ませた。
車で自宅に戻り、買った食材を冷蔵庫や所定の棚にしまう。
食材さえあれば、真紀が文句を言うことはないだろう。父親にはあまり関心がないようなので、少しばかり外に出ても気にしないはずだ。
――それはそれで寂しくもあるけど。
雅也は勝手口から外に出て、土手に掘られた防空壕に向かう。中に入って通路を進み、奥にある亀裂から中を覗く。
そこには、昨日と同じように一人の人間が仁王立ちしていた。
身長は二メートルぐらいはあるだろうか。人としては強そうだが、モンスターとしては迫力に欠ける。雅也はすぐに決着つけようと、手に入れたばかりのスキルを使うことにした。
手を前にかざし、意識を集中する。
いままで感じたことのない〝オーラ〟のようなものが手から溢れ出す。雅也は戸惑いつつも、まっすぐ前を見て叫ぶ。
「――ガイア! 召喚!!」