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第7話 黒い巨人

 通路の先に明かりが見えてくる。土壁にある亀裂から、雅也は慎重に中をのぞく。

 予想通り、そこにはライオンとは別のモンスターがいた。だが、大きすぎて全身が見えない。

 黒い鎧をまとった巨人。巨大な木よりさらに大きい。

 三十メートルはあるんじゃないか? 雅也は眉間に皺を寄せ、亀裂に目を近づけて中の様子をうかがう。

 巨人は仁王立ちで、こちらに背を向けていた。

 警戒もしていないようだ。的が大きい分、攻撃を当てるのは簡単だろう。


「新しく得たスキル。さっそく試してみるか……」


 雅也は両手を亀裂の前にかざし、黒い巨人に意識を向ける。


「――轟雷覇王撃!!」


 神殿内部に稲妻が轟く。四方八方から降り注ぐ雷が、巨人の体に直撃した。巨人はグラリと体を揺らし、壁に手をつく。

 あの鎧は恐らく『鉄』。だとしたら、雷は効くはずだ!

 雅也はさらに意識を集中する。数百の雷が巨人に落ちた。

 これで倒せるだろうと思った刹那――巨人は両手を上げ、地響きのような唸り声を上げる。雅也の体はビリビリと震えた。


 ――このスキルだけでは倒せないのか!? だったら!


 再び意識を集中する。別のスキルでこの巨人をほふる! 手の前で炎が渦巻き、真っ赤な火球が生まれる。


「バーニング・メガ・ブラスト!!」


 火球は黒い巨人にぶち当たり、烈火のごとはじけた。

 とてつもない爆発が起こり、神殿内は光に包まれる。亀裂からは、やはり衝撃は伝わってこない。しかし、地面は震えていた。

 雅也は手を下ろし、炎と煙が晴れるのを待つ。

 しばらくすると神殿内の様子が見えてくる。巨人は地にし、起き上がる気配はない。どうやら倒せたようだ。

 雅也は横を向き、通路に目を移す。そこには光の柱が立ち上がっていた。

 光の中にクリスタルが浮いているが、いままでとなにかが違う。クリスタルは虹色ではなく、もっと神々しい、白い光を放っていた。

 雅也はゆっくりとクリスタルに近づき、手を前に出す。

 触れた瞬間、輝きはさらに強くなり、爆発するように弾けた。雅也は腕で顔を守り、腰を落として身構える。

 だが、なんの衝撃も感じない。見れば周囲には光の粒が舞っていた。

 光が飛び散っただけのようだ。


「スキルは……獲得できたんだよな?」


 困惑したまま立ち尽くしていると、いつものように頭に情報が流れてきた。いままで以上の激しい頭痛に襲われる。


『アダマンタイト・ゴーレム【ガイア】を撃破。アルティメットスキル【ガイア召喚】を獲得しました』


 雅也は頭を振って辺りを見回す。少しフラつくものの、頭や体に問題はないようだ。それにしても、アルティメットスキルって……。

 いままで獲得したスキルより、さらに強力ってことだろうか。

 雅也が考えている間に、亀裂の中がまた光り出した。新たなモンスターが出てくるようだ。何度も繰り返しているため、さすがに驚きはしない。

 それにしても、一体いつになったら終わるんだろうか?

 こっちはただ危険なモンスターを排除したいだけなのに。

 不満を抱きつつも、雅也は亀裂の穴を覗く。そこにいたのは、ごく普通の人間だった。

 褐色の肌で筋骨隆々。上半身は裸で、下半身にはみののようなものを巻いている。


「あれも……モンスターなのか?」


 不思議に思ったが、雅也はハッとして腕時計を見る。午後六時を回っていた。

 真紀が帰ってくる時間帯なのに、夕食用の食材を車に乗せたままだ。料理が作れないと怒り出すかもしれない。

 雅也はたたずんでいる人型モンスターに一瞥いちべつをくれ、そのまま防空壕を出た。

 車から買い物袋を取り出し、慌てて家に入ると、Tシャツと短パンに着替えていた真紀が台所から顔をのぞかせる。


「ちょっと! 夕飯の支度ができないんですけど。いままでなにやってたの?」


 真紀は不機嫌そうに目を細め、睨んできた。


「ああ、ごめん、ごめん。ちょっと色々あって……」


 謝りつつ台所の棚に買い物袋を置く。真紀は袋から食材を取り出し、ぶつぶつ言いながら料理の準備を始めた。

 雅也はネクタイをゆるめ、着替えをするため部屋に向かう。

 その時、真紀が声を掛けてきた。


「お父さん、さっき地震があったみたいだけど、気づいた?」

「え? あ、いや。ちょっと気づかなかったな。揺れたのか?」


 黒い巨人を倒した時の振動だろう。雅也がとぼけたふりをしていると、真紀は「知らないならいいや」とそっぽを向き、料理を続けた。

 真紀を怖がらせる訳にはいかないからな。気づかれないようにしないと。


 ◇◇◇


 翌日も役場の仕事は、ダンジョンに関する問い合わせが中心となった。

 窓口で丁寧に対応し、一日の仕事が終わる。同僚に挨拶してから庁舎を出ると、急いでスーパーに行き、買い物を済ませた。

 車で自宅に戻り、買った食材を冷蔵庫や所定の棚にしまう。

 食材さえあれば、真紀が文句を言うことはないだろう。父親にはあまり関心がないようなので、少しばかり外に出ても気にしないはずだ。


 ――それはそれで寂しくもあるけど。


 雅也は勝手口から外に出て、土手に掘られた防空壕に向かう。中に入って通路を進み、奥にある亀裂から中を覗く。

 そこには、昨日と同じように一人の人間が仁王立ちしていた。

 身長は二メートルぐらいはあるだろうか。人としては強そうだが、モンスターとしては迫力に欠ける。雅也はすぐに決着つけようと、手に入れたばかりのスキルを使うことにした。

 手を前にかざし、意識を集中する。

 いままで感じたことのない〝オーラ〟のようなものが手から溢れ出す。雅也は戸惑いつつも、まっすぐ前を見て叫ぶ。


「――ガイア! 召喚!!」

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