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第8話 人間VS巨人

 神殿内の空間に、黒い巨人がそびえ立つ。

 禍々まがまがしい鋼鉄の鎧に覆われた巨躯の化け物。かぶとで顔は見えない。確か、頭に流れ込んだ情報では『アダマンタイト・ゴーレム』とあった。だとしたら、生物ではないということか。

 そんな巨大な怪物の前で、人型のモンスターは身じろぎもせずたたずんでいる。

 睨み合う二体のモンスター。ピリピリとした空気は、亀裂の前で見ている雅也にも伝わってきた。

 ゴクリと喉を鳴らした時、ガイアが右手を振り上げる。

 拳を握り込み、思い切り地面に叩きつけた。人型のモンスターは軽やかにかわし、わずかにかがんだ。足に力を込めると、一気に飛び上がる。

 人型の体からまばゆいオーラが放たれる。そのままガイアに突っ込むと、轟音と共にガイアが後ろに倒れた。


「ええっ!?」


 ガイアは背中から壁に激突し、尻もちをつく。地面が震え、破壊された壁が崩れ落ちてくる。

 あんなに体格差があるのに――

 信じられなかったが、人型のモンスターはさらに攻撃を仕掛けてきた。恐ろしい速さで駆け回り、ガイアの足や手を殴りつける。

 ガイアは膝をついて立ち上がり、再び殴りかかろうとする。だが、素早い人型のモンスターに当たることはない。

 空を切った拳をかわし、人型が突っ込んでくる。

 ガイアは防御することもできず、腹に蹴りを食らう。衝撃音が雅也の耳にまで届いた。ガイアはまたよろけ、壁に激突する。


 ――めちゃくちゃ強い! このままじゃ、ガイアが負けてしまう。


 あせった雅也は亀裂の前で手をかざす。あの人型のモンスターに勝つには、強力な援護が必要だ。

 手の前に光の粒子が集まり、三角錐さんかくすいの形になる。


大量虐殺の猛毒針ジェノサイド・ニードル!!」


 人型を狙ったが、簡単にかわされてしまう。不意打ちだったのに、恐ろしい反応速度だ。光の針は地面に辺り、緑色の煙となって周囲に飛散した。

 これで毒の煙が広がる。ガイアは生物ではないため、影響はないはずだ。

 問題は、あの人型モンスターに〝毒〟が効くかどうか。ほとんど賭けに近かったが、他の攻撃が当たるかどうかも思えない。

 これが効いてくれることを祈るしかなかった。

 ガイアは上から何度も拳を落とす。床を豪快に破壊していたが、人型モンスターは軽やかにかわしてしまうため、まったく当たらない。

 人型は床を蹴り、ガイアとの間合いを一気に詰める。

 手を殴りつけ、足を蹴り飛ばす。ガイアがフラつくと、とどめとばかりに飛び上がって頭突きをかました。

 腹に食らったガイアはゆっくりと後ろに倒れた。


 ――ダメか……毒が効いている気配はないし、ガイアも勝てそうにない。


 雅也はほぞを噛む。ガイアを巻き込む可能性はあるが、【轟雷覇王撃】を撃ち込むしかないか。そんなことを考えていると、人型モンスターに異変が起きる。フラつき始めたのだ。


「もしかして、効いてきたのか!?」


 人型は一歩、二歩と後ろに下がり、頭を振っている。【大量虐殺の猛毒針ジェノサイド・ジードル】の毒が回ってきたんだ。

 そんな人型モンスターの前で、ガイアがのっそりと立ち上がる。

 床を踏みしめると地面が揺れ、壁に手をつけば外壁が崩れ落ちる。規格外のパワーを持つ怪物。

 もしも、ガイアの攻撃をまともに受けたら……。

 黒い巨人は右腕を引き、地面に向けて拳を落とす。メガトン級のパンチが炸裂した――と思ったが、人型のモンスターはギリギリでかわしていた。

 それでも、さっきほどまでの機敏さはない。

 フラつきながら後ろに下がり、黒い巨人を見上げている。ガイアは右足を上げ、そのまま相手を踏み潰した。

 決まったかと期待したが、人型モンスターは両手でガイアの足を持ち上げ、必死に耐えているようだった。

 ガイアは再び足を持ち上げ、また踏みつける。

 それを何度も繰り返した。神殿内は震え、雅也がいる防空壕にも地響きが轟く。 ゆっくりと足を持ち上げたガイアは、仁王立ちで足元を見る。人型モンスターは、割れた床の上で倒れていた。

 死んだのか? 死んでいないにしても、虫の息であるのは間違いない。

 ガイアは右の拳を振り上げた。もう避けられることはない。振り落とされた剛拳は、容赦なく人型モンスターを叩き潰した。

 粉塵が舞い上がり、神殿内が揺れている。雅也はゴクリと喉を鳴らした。

 どんなモンスターでも、あの攻撃を食らっては一溜まりもないだろう。ガイアが拳を引くと、そこにはなにもなかった。

 雅也はキョロキョロと辺りを見回す。

 思った通り、防空壕の通路に光の柱が立った。人型のモンスターが死んだんだ。 光の中に浮かぶクリスタルは、やはり神々しい白い輝きを放っている。雅也は手を伸ばし、クリスタルに触れた。

 パンッと弾け、大量の光が体に流れ込んでくる。

 スキルの情報が頭の中に刻み込まれた。


『闘神ヘラクレスを撃破。アルティメットスキル【神気解放】を獲得しました』


 雅也は呼吸を整え、流れ込んだ情報を整理する。このスキルによって、身体が強化されるようだ。力、スピード、頑強さ、体力、その全てが100倍になるらしい。


「100倍って……むちゃくちゃ過ぎないか?」


 とは言え、40過ぎの中年の体力が100倍になったところで、大した効果はないかもしれない。ふぅと息を吐き、雅也は亀裂の向こうを見る。

 また神殿内が輝き出した。雅也は目を細め、手で光を防ぐ。

 再び見つめた神殿内には、またしても新しいモンスターがいた。いや、モンスターと言えるかどうかも分からない。

 そこにいたのは老人。長い白髪の、白い衣を纏った老人だった。


「あれが……七体目のモンスター?」

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