神殿内の空間に、黒い巨人がそびえ立つ。
そんな巨大な怪物の前で、人型のモンスターは身じろぎもせず
睨み合う二体のモンスター。ピリピリとした空気は、亀裂の前で見ている雅也にも伝わってきた。
ゴクリと喉を鳴らした時、ガイアが右手を振り上げる。
拳を握り込み、思い切り地面に叩きつけた。人型のモンスターは軽やかにかわし、わずかに
人型の体から
「ええっ!?」
ガイアは背中から壁に激突し、尻もちをつく。地面が震え、破壊された壁が崩れ落ちてくる。
あんなに体格差があるのに――
信じられなかったが、人型のモンスターはさらに攻撃を仕掛けてきた。恐ろしい速さで駆け回り、ガイアの足や手を殴りつける。
ガイアは膝をついて立ち上がり、再び殴りかかろうとする。だが、素早い人型のモンスターに当たることはない。
空を切った拳をかわし、人型が突っ込んでくる。
ガイアは防御することもできず、腹に蹴りを食らう。衝撃音が雅也の耳にまで届いた。ガイアはまたよろけ、壁に激突する。
――めちゃくちゃ強い! このままじゃ、ガイアが負けてしまう。
手の前に光の粒子が集まり、
「
人型を狙ったが、簡単にかわされてしまう。不意打ちだったのに、恐ろしい反応速度だ。光の針は地面に辺り、緑色の煙となって周囲に飛散した。
これで毒の煙が広がる。ガイアは生物ではないため、影響はないはずだ。
問題は、あの人型モンスターに〝毒〟が効くかどうか。ほとんど賭けに近かったが、他の攻撃が当たるかどうかも思えない。
これが効いてくれることを祈るしかなかった。
ガイアは上から何度も拳を落とす。床を豪快に破壊していたが、人型モンスターは軽やかにかわしてしまうため、まったく当たらない。
人型は床を蹴り、ガイアとの間合いを一気に詰める。
手を殴りつけ、足を蹴り飛ばす。ガイアがフラつくと、
腹に食らったガイアはゆっくりと後ろに倒れた。
――ダメか……毒が効いている気配はないし、ガイアも勝てそうにない。
雅也は
「もしかして、効いてきたのか!?」
人型は一歩、二歩と後ろに下がり、頭を振っている。【
そんな人型モンスターの前で、ガイアがのっそりと立ち上がる。
床を踏みしめると地面が揺れ、壁に手をつけば外壁が崩れ落ちる。規格外のパワーを持つ怪物。
もしも、ガイアの攻撃をまともに受けたら……。
黒い巨人は右腕を引き、地面に向けて拳を落とす。メガトン級のパンチが炸裂した――と思ったが、人型のモンスターはギリギリでかわしていた。
それでも、さっきほどまでの機敏さはない。
フラつきながら後ろに下がり、黒い巨人を見上げている。ガイアは右足を上げ、そのまま相手を踏み潰した。
決まったかと期待したが、人型モンスターは両手でガイアの足を持ち上げ、必死に耐えているようだった。
ガイアは再び足を持ち上げ、また踏みつける。
それを何度も繰り返した。神殿内は震え、雅也がいる防空壕にも地響きが轟く。 ゆっくりと足を持ち上げたガイアは、仁王立ちで足元を見る。人型モンスターは、割れた床の上で倒れていた。
死んだのか? 死んでいないにしても、虫の息であるのは間違いない。
ガイアは右の拳を振り上げた。もう避けられることはない。振り落とされた剛拳は、容赦なく人型モンスターを叩き潰した。
粉塵が舞い上がり、神殿内が揺れている。雅也はゴクリと喉を鳴らした。
どんなモンスターでも、あの攻撃を食らっては一溜まりもないだろう。ガイアが拳を引くと、そこにはなにもなかった。
雅也はキョロキョロと辺りを見回す。
思った通り、防空壕の通路に光の柱が立った。人型のモンスターが死んだんだ。 光の中に浮かぶクリスタルは、やはり神々しい白い輝きを放っている。雅也は手を伸ばし、クリスタルに触れた。
パンッと弾け、大量の光が体に流れ込んでくる。
スキルの情報が頭の中に刻み込まれた。
『闘神ヘラクレスを撃破。アルティメットスキル【神気解放】を獲得しました』
雅也は呼吸を整え、流れ込んだ情報を整理する。このスキルによって、身体が強化されるようだ。力、スピード、頑強さ、体力、その全てが100倍になるらしい。
「100倍って……むちゃくちゃ過ぎないか?」
とは言え、40過ぎの中年の体力が100倍になったところで、大した効果はないかもしれない。ふぅと息を吐き、雅也は亀裂の向こうを見る。
また神殿内が輝き出した。雅也は目を細め、手で光を防ぐ。
再び見つめた神殿内には、またしても新しいモンスターがいた。いや、モンスターと言えるかどうかも分からない。
そこにいたのは老人。長い白髪の、白い衣を纏った老人だった。
「あれが……七体目のモンスター?」