奥多摩のダンジョンに入った百名あまりの攻略隊。
そのうち三十人以上が、モンスターとの戦いで犠牲になっていた。仲間の死を乗り越え、足を進める
上からいくつもの鍾乳石が垂れ下がり、岩壁がかすかに発光している。
神秘的な光景だったが、どこか不気味さもあった。
カイトは額の汗を
「ダンジョンに入って三日……もう中腹ぐらいまで来てるでしょうか?」
山神は黒い中折れ帽の位置を直し、ニヒルな笑みを浮かべる。
「さあな、このダンジョンの全貌は誰も知らん。いまどこにいるかは、最奥まで行ってみないと分からない」
確かにその通りだとカイトは思った。ここに来るまでに、数々の凶悪なモンスターと戦った。ドラゴン種に、ワーム、オーガやハイオークなど、通常のダンジョンなら、もっと奥にいるであろう種類のモンスターが序盤で次々に出てくる。
そのせいで多くの仲間を失った。これ以上の犠牲を出す訳にはいかない。
カイトが悲壮な決意を固めていると、後ろから声が飛んでくる。
「ちょっとカイト! 気負い過ぎだって。もっと肩の力を抜かないと」
振り向くと、そこには同じ東京支部の冒険者、宮本紫乃がいた。セミロングの髪がかすかに揺れ、愛くるしい表情を向けてくる。
年は28とカイトより上だが、見た目だけなら十代後半から二十代前半に見える。 芸能人のように整った顔立ちなのに、両腕にはナックルガードを付け、両足にも
身体を強化する、格闘型の冒険者。
Aランクに認定されており、東京支部では山神に次ぐ実力者でもある。
「これほど強力なモンスターが出て来るんです。緊張するのも仕方ないですよ」
カイトが苦笑を浮かべると、宮本はチッチッチと指を横に振る。
「困難な時ほど笑顔を作って乗り切らなきゃ。緊張でガチガチになったら、実力を発揮できないからね!」
ふふふと笑いながら宮本が肩を叩いてくる。面倒見のよい姉御肌の宮本は、山神と共に最も尊敬できる先輩の一人だ。
カイトたち三人は、海外冒険者のあとをついて洞窟の奥へと進む。すると、洞窟の天井からなにかが落ちてきた。それも一つや二つではない。
よく見れば、数十匹の巨大なコウモリが滑空してくる。
冒険者たちは武器を構え、臨戦態勢に入った。カイトたちも身構える。このダンジョンに弱いモンスターなどいない。
一匹、一匹が並の冒険者を瞬殺するほどの凶悪さ。
油断すればすぐさま殺されるだろう。山神が剣を抜き、虚空を切り裂く。見えない斬撃が空を走り、コウモリの一匹を両断する。
宮本も地面を蹴って飛び上がった。滑空してくる敵を殴りつけ、地上に落とす。 待ち構えていたカイトは剣に魔力を込める。クルクルと落下してきたコウモリを斬った瞬間――羽や胴体が凍りつき、地面に落ちて粉々に砕けた。
他のコウモリも倒そうとしたが、モンスターは一斉になにかを叫ぶ。
カイトや山神だけでなく、海外の冒険者も頭を押さえてしゃがみ込んだ。超音波による波状攻撃。頭が割れそうになりながら、冒険者たちは魔法を放つ。
まさに生きるか死ぬかの死闘。カイトも顔をしかめながら空中に氷の〝つぶて〟を撃ち込む。
コウモリの羽に当たり、凍りついて地面に落下する。
追い打ち掛けようとしたが、強烈な超音波で攻撃の手が止まる。まだ、最奥には程遠い場所にいるモンスターでこの強さ。
だとしたら、最奥にいる七体のボスはどれほど強いんだ!?
カイトは絶望的な気分になったが、かぶりを振って剣を握り直す。いまは目の前の敵を倒すだけだ。ボスのことは考えるな!
地面を蹴り、頭上のコウモリに斬撃を放った。
◇◇◇
雅也は亀裂の前で両手を構え、神殿内にいる老人を
この強すぎるモンスターを倒すには、たぶんこれしかない! 雅也は意識を集中し、両手に力を込める。
「ガイア召喚!!」
黒い巨人が神殿内に出現する。白髪の老人は身じろぎもせず、右手を高々と上げた。周囲が瞬く間に宇宙空間へと変貌する。
ガイアは足場をなくし、ふわふわと宙を
――ここまでは以前と同じ、問題はここからだ。
雅也は続けてスキル名を叫ぶ。
「神気解放!!」
神気解放の効果を、自分ではなく
右手を横に伸ばすと、掌に光の粒子が集まる。
雅也はなにが起きるのか? と
老人は危機を感じたのか、素早く手を交差させる。
二つの隕石がガイアに向かい突っ込んできた。直撃すればただでは済まない。
雅也は「大丈夫だろうか?」と心配になったが、ガイアは悠然と斧を振り上げ、唸り声を上げた。
隕石に向かい、巨大な斧を叩きつける。
ガイアは体を半回転させ、今度は斧を横に振るった。
もう一つの隕石もまっぷたつに砕く。割れた隕石は、明後日の方向へと流れていった。
凄まじいパワーに、雅也が驚愕して目を見開く。神気解放を使ったガイアはとんでもない強さになっていた。
ガイアは砕けた隕石の一部を蹴って、老人に突っ込む。
巨大な斧が振り下ろされたが、老人は両手をかかげ、バリアのようなものを展開した。轟雷覇王撃を防いだバリアだ。
またしても防がれるのか? と思った刹那――巨人の斧は、バリアもろとも老人の体を斬り裂いた。