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第11話 最後の敵

 老人の左半身が爆発したように吹き飛ぶ。これで勝った、と思ったのも束の間、老人の体は一瞬で再生してしまう。


 ――再生能力まであるのか!?


 雅也が驚愕する中、ガイアは巨大な斧を横に振るい、老人の胴を真っ二つに両断した。今度こそ倒したか、と思いきや、老人の体は回転し、また再生し始める。

 やはり簡単には倒せない。ガイアは再び斧を振り上げるも、手がボロボロと崩れ出した。全身にヒビが入り、腕が砕け散る。

 神気解放の反動が出たのか。あまりにも強い力だっただけに、体が耐えられなかったんだ。

 雅也は亀裂の前で両手を構える。

 老人の体が完全に治る切る前に、決着をつけないといけない!


「バーニング・メガ・ブラスト!!」


 灼熱の業火は凄まじい速度で老人に向かう。体が再生しきっていないせいか、動きが緩慢かんまんで鈍い。火球はそのまま直撃した。

 激しい爆発が起き、光が広がる。

 近くにいたガイアは砕け散り、老人の姿は見えなくなった。雅也は全身の力が抜け、へなへなと尻もちをつく。

 気を張っていたせいか、どっと疲れが出てくる。

 手応えはあった。これで倒せなければ打つ手がない。雅也は座ったまま、通路の先に目を向ける。

 数秒も経たずに、光の柱が立ち上る。神々しい光を放つ六角柱のクリスタルが、横回転しながら浮かんでいた。

 やっと老人を倒すことができたんだ。

 雅也がハハと笑みをこぼしてから、「よっこいしょ」と立ち上がる。

 光の柱まで歩き、白く輝くクリスタルに触れる。光が弾け、体の中に情報が流れ込んできた。


『絶対神ウラヌスを撃破。アルティメットスキル【亜空間操作】を獲得しました』


「絶対神? 亜空間? なんだか怖い文字がおどってるな。まあ、なんにせよ。モンスターを倒せたのは良かった」


 雅也はパンパンと手を払い、亀裂の前に向かう。中を覗くも、新しいモンスターが出て来る気配はなかった。やはり、あの老人が最後のモンスターだったんだ。


 ――これで、モンスターにおびえる必要はなくなったな。


 雅也はホッと息をき、揚々ようようとした気持ちで自宅へと向かった。


 ◇◇◇


 如月きさらぎカイトは、目の前の光景に息を飲む。

 奥多摩のダンジョンを進み、そろそろ最奥なのではないか? と感じていた矢先、行く手をはばむ巨大な竜が現れた。

 大きな羽を広げ、太く長い尻尾を振るう。赤いうろこに覆われた体は、不気味な輝きを放つ。

 海外でも目撃例の少ないAランク・モンスター【火竜王】。

 何本もの禍々まがまがしい角が生えた顔をこちらに向け、牙の並んだ口を開ける。吐き出したのは灼熱の業火。冒険者たちは素早く避けるが、数人が炎に巻かれ灰となる。

 火竜王と邂逅かいこうしてから、すでに二十人以上の冒険者が死んでいた。

 百人以上いた冒険者だが、残りは五十人あまり。剣を構えるカイトは大粒の汗を掻き、かたわらにいる山神を見やる。


「山神さん、さすがにこの状況……まずいかもしれません」

「ああ、そうだな。あんまり後ろ向きなことは言いたくねえが、こいつは死を覚悟しなきゃ勝てない相手だ」


 山神は口の端をわずかに上げ、目をすがめて竜を睨む。

 同じように竜を睨んでいた宮本は、岩の上に登り拳を構えた。


「ちょっと二人とも! 弱気なこと言わないでよね。こっちのやる気にまで影響するんだから! 弱気なままだと、勝てるものも勝てなくなっちゃうよ」


 明るく言った宮本だが、左腕のナックルガードは壊れ、焼け焦げていた。もう左手は使えないだろう。それでも前を向いて戦う意欲を見せている。

 カイトは宮本に頭が下がる思いだった。

 さすがは東京支部の突撃隊長と呼ばれるだけのことはある。自分は到底、あんな前向きな思考にはなれない。

 カイトは一歩足を進め、岩場から竜のいる場所を覗く。

 ゴツゴツした岩に囲まれた洞窟。岩場には段差があり、十メートルほどの下の岩場に羽を広げた竜がいた。

 その足元は赤く光るマグマが流れ、洞窟内の温度も急激に上昇している。

 竜が吐く炎で岩が溶けているのだ。海外のA級冒険者が武器や魔法を使って攻撃するも、【火竜王】の硬いうろこを貫けない。

 こちらが手をこまねいている間にも、竜は炎を吐き、尻尾を振い薙ぎ払ってくる。


 ――強い、強すぎる……これで最奥のボスではないのか。


 カイトは絶望的な気持ちになる。ダンジョンの最奥に行く前に、これほどの犠牲が出てしまった。しかも、自分の氷魔法は、炎系のモンスターと相性が悪い。

 立ちはだかる火竜王は、まさに炎属性の頂点に君臨するような存在だ。

 自分の力では通用しない。いま、なんとか前線が維持できているのは、海外のA級冒険者が奮闘しているおかげだ。

 特にアメリカの冒険者アルフォンスとイギリスの冒険者ジェイミー、そしてフランスのマリー・ブロアの三人が積極的に攻撃を繰り出していた。

 稲妻が洞窟内を走り、竜巻が火竜王のブレスを阻害する。いくつもの水の龍がちゅうを舞い、赤い竜に襲い掛かっていた。

 同じA級冒険者のカイトだが、この三人とは明らかな実力差を感じる。

 他の冒険者も必死に戦いを挑む。それでも、こちらが押されているのは明らか。このままでは全員死んでしまう。

 なにもできない無力さをカイトが感じていると、洞窟内が揺れ始めた。


「なんだ!?」


 山神は周囲を見渡し、怪訝な表情を浮かべる。異変は揺れだけではない。火竜王も雄叫びを上げ、苦しそうに暴れ出す。体の至るところから煙が上がり、赤い鱗がボロボロと崩れ出した。

 火竜王はついに倒れ、粉塵が舞い上がる。


「どうして……」


 カイトは訳が分からず、呆然とした。まだ倒してもないモンスターが苦しみ、灰になって消えていくのだ。

 この状況には見覚えがあった。

 ダンジョンの最奥にいるボスを倒した場合、ダンジョンは揺れ始め、徐々に崩壊していく。さらにダンジョン内にいるモンスターも消えていくのだ。

 だが、最奥のモンスターなど、誰も倒していない。

 それどころか最奥に辿り着いてさえいない。


「なにが起きてるんだ?」


 立ち尽くすカイトの肩を、先輩冒険者である山神が掴む。


「考えるのはあとだ! このままじゃ崩落に巻き込まれるぞ、すぐ避難しないと」

「は……はい」


 カイトは後ろ髪を引かれる思いだったが、山神の指示に従い、他の冒険者と共にダンジョンの入口へと引き返した。

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