老人の左半身が爆発したように吹き飛ぶ。これで勝った、と思ったのも束の間、老人の体は一瞬で再生してしまう。
――再生能力まであるのか!?
雅也が驚愕する中、ガイアは巨大な斧を横に振るい、老人の胴を真っ二つに両断した。今度こそ倒したか、と思いきや、老人の体は回転し、また再生し始める。
やはり簡単には倒せない。ガイアは再び斧を振り上げるも、手がボロボロと崩れ出した。全身にヒビが入り、腕が砕け散る。
神気解放の反動が出たのか。あまりにも強い力だっただけに、体が耐えられなかったんだ。
雅也は亀裂の前で両手を構える。
老人の体が完全に治る切る前に、決着をつけないといけない!
「バーニング・メガ・ブラスト!!」
灼熱の業火は凄まじい速度で老人に向かう。体が再生しきっていないせいか、動きが
激しい爆発が起き、光が広がる。
近くにいたガイアは砕け散り、老人の姿は見えなくなった。雅也は全身の力が抜け、へなへなと尻もちをつく。
気を張っていたせいか、どっと疲れが出てくる。
手応えはあった。これで倒せなければ打つ手がない。雅也は座ったまま、通路の先に目を向ける。
数秒も経たずに、光の柱が立ち上る。神々しい光を放つ六角柱のクリスタルが、横回転しながら浮かんでいた。
やっと老人を倒すことができたんだ。
雅也がハハと笑みを
光の柱まで歩き、白く輝くクリスタルに触れる。光が弾け、体の中に情報が流れ込んできた。
『絶対神ウラヌスを撃破。アルティメットスキル【亜空間操作】を獲得しました』
「絶対神? 亜空間? なんだか怖い文字が
雅也はパンパンと手を払い、亀裂の前に向かう。中を覗くも、新しいモンスターが出て来る気配はなかった。やはり、あの老人が最後のモンスターだったんだ。
――これで、モンスターに
雅也はホッと息を
◇◇◇
奥多摩のダンジョンを進み、そろそろ最奥なのではないか? と感じていた矢先、行く手を
大きな羽を広げ、太く長い尻尾を振るう。赤い
海外でも目撃例の少ないAランク・モンスター【火竜王】。
何本もの
火竜王と
百人以上いた冒険者だが、残りは五十人あまり。剣を構えるカイトは大粒の汗を掻き、
「山神さん、さすがにこの状況……まずいかもしれません」
「ああ、そうだな。あんまり後ろ向きなことは言いたくねえが、こいつは死を覚悟しなきゃ勝てない相手だ」
山神は口の端をわずかに上げ、目をすがめて竜を睨む。
同じように竜を睨んでいた宮本は、岩の上に登り拳を構えた。
「ちょっと二人とも! 弱気なこと言わないでよね。こっちのやる気にまで影響するんだから! 弱気なままだと、勝てるものも勝てなくなっちゃうよ」
明るく言った宮本だが、左腕のナックルガードは壊れ、焼け焦げていた。もう左手は使えないだろう。それでも前を向いて戦う意欲を見せている。
カイトは宮本に頭が下がる思いだった。
さすがは東京支部の突撃隊長と呼ばれるだけのことはある。自分は到底、あんな前向きな思考にはなれない。
カイトは一歩足を進め、岩場から竜のいる場所を覗く。
ゴツゴツした岩に囲まれた洞窟。岩場には段差があり、十メートルほどの下の岩場に羽を広げた竜がいた。
その足元は赤く光るマグマが流れ、洞窟内の温度も急激に上昇している。
竜が吐く炎で岩が溶けているのだ。海外のA級冒険者が武器や魔法を使って攻撃するも、【火竜王】の硬い
こちらが手をこまねいている間にも、竜は炎を吐き、尻尾を振い薙ぎ払ってくる。
――強い、強すぎる……これで最奥のボスではないのか。
カイトは絶望的な気持ちになる。ダンジョンの最奥に行く前に、これほどの犠牲が出てしまった。しかも、自分の氷魔法は、炎系のモンスターと相性が悪い。
立ちはだかる火竜王は、まさに炎属性の頂点に君臨するような存在だ。
自分の力では通用しない。いま、なんとか前線が維持できているのは、海外のA級冒険者が奮闘しているおかげだ。
特にアメリカの冒険者アルフォンスとイギリスの冒険者ジェイミー、そしてフランスのマリー・ブロアの三人が積極的に攻撃を繰り出していた。
稲妻が洞窟内を走り、竜巻が火竜王のブレスを阻害する。いくつもの水の龍が
同じA級冒険者のカイトだが、この三人とは明らかな実力差を感じる。
他の冒険者も必死に戦いを挑む。それでも、こちらが押されているのは明らか。このままでは全員死んでしまう。
なにもできない無力さをカイトが感じていると、洞窟内が揺れ始めた。
「なんだ!?」
山神は周囲を見渡し、怪訝な表情を浮かべる。異変は揺れだけではない。火竜王も雄叫びを上げ、苦しそうに暴れ出す。体の至るところから煙が上がり、赤い鱗がボロボロと崩れ出した。
火竜王はついに倒れ、粉塵が舞い上がる。
「どうして……」
カイトは訳が分からず、呆然とした。まだ倒してもないモンスターが苦しみ、灰になって消えていくのだ。
この状況には見覚えがあった。
ダンジョンの最奥にいるボスを倒した場合、ダンジョンは揺れ始め、徐々に崩壊していく。さらにダンジョン内にいるモンスターも消えていくのだ。
だが、最奥のモンスターなど、誰も倒していない。
それどころか最奥に辿り着いてさえいない。
「なにが起きてるんだ?」
立ち尽くすカイトの肩を、先輩冒険者である山神が掴む。
「考えるのはあとだ! このままじゃ崩落に巻き込まれるぞ、すぐ避難しないと」
「は……はい」
カイトは後ろ髪を引かれる思いだったが、山神の指示に従い、他の冒険者と共にダンジョンの入口へと引き返した。