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第15話 冒険者登録試験

「皆さんもご存じと思いますが、まずはダンジョンに関する説明をします」


 川北は冒険者志望者たちの前で、ピッと人差し指を立てる。


「十年前、世界各地に突如、ダンジョンと呼ばれる迷宮が出現しました。迷宮内には未知の生物が跋扈ばっこし、人々を恐怖させます。なにより厄介なのは、ダンジョン出現から一ヶ月ほど過ぎると、中にいる化け物たちが外に出てしまうことです。俗に〝ダンジョン・ブレイク〟と呼ばれる現象ですね」


 雅也はふんふんとうなずく。その辺の話は、テレビの『ダンジョン特集』で見たことがあった。

 川北はうふふふと微笑んでから話を続ける。


「当初は軍隊がダンジョン内に入って化け物を倒していましたが、効率が悪く、ダンジョン・ブレイクが起きることもしばしば。そんな中、軍人の中に異様な力を持つ者が現れます。体が筋肉質になり、傷や病気の治りも早くなる。なにより、魔法という空想上の力が使える者まで現れたのです。そう、これが冒険者の始まりですね」


 川北は言葉を切り、ふぅと息を整えてから雅也たちを見回した。


「いまから皆さんには、ダンジョンに入って化け物……俗にモンスターと呼称される個体を倒してもらいます。モンスターを倒せば、その近くにいる人間は魔力を得ることができます。もっとも得られる魔力の量には個人差がありますが」


 雅也は川北に向かい、まっすぐに手を上げる。


「はいはい、なんでしょう?」

「あの、魔力って必ず得られるんですか?」

「いい質問ですね。さきほども言った通り、魔力が上がるかどうかには個人差があります。わずかにしか上がらない人もいれば、まったく上がらない人もいます」

「と、言うことは――上がらない人、もしくは上がりにくい人が冒険者試験で不合格ということでしょうか?」


 川北はニッコリと微笑み「はい、その通りです」と答える。


「厳密に言えば、規定数のモンスターを倒し、まったく魔力が上がらなかった場合のみ、試験は不合格となります。わずかでも魔力が上がっていれば、問題なく試験はクリアですよ」


 なるほど、と雅也は思う。魔力がつきやすい人間ほど、優秀な冒険者と認められるのだろう。防空壕でモンスターを倒した時は、自分はダンジョンの外側にいた。

 そのため、魔力は得られなかったようだ。今回は間近でモンスターを討伐するので、魔力がつくかどうかハッキリする。

 自分に才能はあるのか? と不安になったが、ここまで来れば当たって砕けろだ。 緊張する雅也の隣で、湊崎も強張った表情をしていた。他の参加者も額に汗を浮かべている。

 そんな参加者の心理を見て取ったのか、川北は柔らかい口調で話す。


「皆さん、大丈夫ですよ。今回落ちたとしても、また再挑戦は可能です。魔力測定を改めて行い、合格したというケースも過去にはありますからね。もっとも、例は少ないですが」


 川北の後ろにいた冒険者が、黒い大きなケースを持ってきた。川北は「ではでは」とケースのふたを開け、中の物を取り出す。


「皆さん、これが今日、皆さんに使ってもらう武器です。一人につき、一本づつ持って下さいね」


 配られたのは両刃の剣。長剣というには短く、短剣というには長い。

 雅也も一本手に取り、重さを確かめながら刃の部分を眺める。これでモンスターを斬るのか。できるかな? と何度も振ってみる。


「では、行きましょうか……と言っても、私はただの県職員ですからね。ここからはプロの冒険者にお任せしましょう」


 川北は後ろを振り返る。腰に斧を装備した男性が前に出て来た。

 丸坊主で筋骨隆々の体。いかにも強そうだ。


「私はダンジョン協会・山梨支部の加賀といいます。後ろにいるのは相川と大野。二人とも冒険者です」


 加賀の背後で軽く頭を下げたのは、若い女性と男性だった。

 どちらも鋭い目つきでガタイがいい。さすがは冒険者、自分のような一般人とはまとっている雰囲気が違う。


「これからダンジョンに入ります。私から離れないように」


 加賀を先頭に、相川と大野が岩穴に足を踏み入れる。冒険者志願者たちもあとに続いた。

 川北は穴の横に立ち、にこやかに手を振っている。

 ダンジョンには入らないようだ。雅也は穴の中に目を向ける。盛り上がった岩のかたまりにポッカリと空いた穴。

 穴の直径は二メートルぐらい。人間が入るには充分な大きさだ。

 中は坂になっており、下へ下へと続いていた。暗い坂を下っていると、向かう先に明かりが見えてくる。

 近くまで行いくと、それがランプであることが分かった。

 独立して点灯するLEDランプ。それが岩壁の洞窟内の至るところに設置されていた。これがなければ辺りは真っ暗だ。


「足元に気を付けて下さい。起伏がありますから、転びやすいです」


 加賀の言葉に、雅也は足元を見ながら慎重に歩く。周りを見回せば、ゴツゴツとした岩壁がずっと続いていた。

 テレビで見たダンジョンは、人工的な建物や岩の洞窟、さらに土壁でできたものもあった。

 ここは岩のダンジョンらしい。前を歩く加賀はずんずんと前に進んで行く。冒険者からすれば、それほど危険な場所ではないのだろう。

 隣を見れば湊崎が剣のつかを握りしめ、強張った顔で前を見つめる。

 雅也と同じく、カチコチに緊張しているようだ。


「湊崎さん。大丈夫ですよ。プロの冒険者が三人もいますからね」

「え、ええ。そうなんですけど、モンスターが出ると思うと怖くって」

「そうですよね。でも、ここにいるのは弱いモンスターらしいですから。出てきたら私がやっつけますよ」


 引きつった笑顔で威勢を張ったが、膝が笑っている。

 集団がダンジョンを進んでいると、なにかが前方を駆けた。前を歩く冒険者も気づいたらしく、「止まって下さい」と声を発する。

 全員が足を止め、固唾かたずを飲んで岩場を見つめる。相手は岩陰に隠れていたが、しばらくすると一匹、二匹と姿を現す。

 猫ほどの大きさで、全身が白く、ひたいからは一本の角が生えていた。

 加賀は腰から斧を抜き、前に構える。


「あれは〝ホーン・ラビット〟。ダンジョンの浅い場所に出てくる、弱いモンスターですよ」

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