角の生えたウサギは、ぴょんぴょんと飛び跳ねてこちらに来た。
見た目だけならかわいらしいが、モンスターと聞いているので油断はできない。斧を持った加賀は一歩後ろに下がり、雅也たちを見る。
「では、倒してみましょう。まずは……あなたから」
加賀が指差したのは雅也だった。驚いて「わ、私ですか!?」と上擦った声を出してしまう。
「大丈夫ですよ。このホーン・ラビットは力の弱いモンスターですから、大怪我をするなんてことはありません。剣で叩きつけて下さい」
「は、はあ……」
雅也は仕方なく前に出て、両手で剣を持ち、高々と振り上げた。
赤い目のうさぎは、小首をかしげて見つめてくる。なんとも愛くるしい表情だ。
こんなかわいい動物を殺すのか? 雅也はなんとも言えない苦々しい気持ちになったが、これも冒険者になるためだと思い直し、目をつぶって剣を振るう。
「ていっ!」
剣はカンッと高い音を鳴らして弾かれた。狙いを外して岩に当たったのだ。驚いたホーン・ラビットは飛び跳ね、雅也に向かって突っ込んで来る。
フラついたため避けることができない。
角の部分が
「大丈夫ですか? 角は
心配した加賀が上から
雅也が騒いでいる間に、ウサギもどきは逃げてしまった。臆病なモンスターで助かったと思う反面、そんなモンスターにも反撃を喰らってしまう自分が情けなかった。
加賀に
頭を斬られたウサギは飛び跳ねてから地面を転がり、煙となって消えてしまう。
モンスターが死体を残さないのは知っていたが、こんなふうに死ぬのか、と今さらながら関心する。
「じゃあ、須藤さん。もう一度挑戦してみましょうか」
加賀に声を掛けられ、雅也は「は、はい」と前に出る。
今度こそ倒さないと。自分だけ何度も失敗しては、他の冒険者志望者のも笑われてしまう。雅也は剣を前に構え、ぴょこぴょこと飛びながら向かって来るホーン・ラビットに狙いを定める。
「緊張しないで。当てるだけでいいですから」
「はい!」
加賀のアドバイスを背中に受けつつ、雅也は一歩踏み込み、ウサギの頭に向かって剣を振るった。今度は直撃し、ウサギはぴょ~んと飛び跳ねたあと、地面に転がって動かなくなる。
どうだ? と思っていると、体から煙が出て、数秒ほどで消えてしまった。
「や、やった……」
体から力が抜け、その場に座り込みたくなる。後ろで見ていた湊崎は、「やりましたね、須藤さん!」と喜んでくれている。あんな若い子に心配されるなんて情けない限りだが、なんとか倒せてホッと息を吐いた。
「がんばりましたね。その調子です。ノルマまで、あと二匹ですよ」
加賀の言葉に、雅也は眉間に皺を寄せる。
「あと二匹も倒すんですか!?」
「ええ、一人三匹倒してから、魔力の計測を行います。なあに、すぐに終わりますよ。がんばっていきましょう!」
はっはっはと明るく笑う加賀に対し、雅也は苦笑いを返す。一匹でも大変だったのに、もう二匹も倒さなくちゃいけないのか……。
しんどいな、と思ってしまうが、仕方ないと割り切り気合いを入れ直す。
その後も全員でホーン・ラビットを探し、倒して行くという作業を繰り返した。何匹も倒しているため、見つけるのが大変になってくる。
数が少なくなったのか、はたまた警戒して出てこなくなったのか。
なんにせよ、雅也はまだ二匹しか倒せていなかった。あと一匹を求めてダンジョン内を歩き回る。
「皆さん、もう少し奥に行きましょう。絶対、私たちの側を離れないで下さいね」
加賀と二人の冒険者が洞窟の奥へと足を向ける。あまり奥には行きたくないと思っていた雅也は、集団の最後尾で様子を
湊崎は前のほうで積極的にホーン・ラビットを狩っている。
女性なのに凄いな、と雅也が感心していると、背後に気配を感じた。振り返って目についたのは、岩陰に隠れるホーン・ラビットだ。
「あんなところにいたのか」
雅也はゆっくりと近づき、剣を構える。斬りかかろうとした瞬間――ウサギは後ろに跳んで逃げてしまった。
「あ! こら、逃げるな」
雅也は剣を構えたままウサギのあとを追いかける。頭に一撃入れるだけで倒せるモンスターだ。恐れる必要はない。
十メートルほど進むと、大きな岩の陰にウサギが隠れていた。
雅也はそっと近づき、剣を振り上げる。今度は失敗しない。ウサギの頭に剣を振り下ろそうとした瞬間――ウサギの後ろに無数の光が見えた。
二つずつ並んだ赤い光。何匹ものホーン・ラビットがこちらを睨んでいた。
「うぅ……こんなところに仲間がいたのか。これはマズい!」
振り返って冒険者を呼ぼうとしたが、みんなの姿が見えない。雅也が道を
すぐ引き返そうとするも、戻る道先にもウサギがいた。
いつの間にか囲まれている。雅也の全身からどっと汗が噴き出す。弱いモンスターとはいえ、こんな数で襲われたらただでは済まない。
どうしよう、とオロオロしていると、ウサギたちは目をギラつかせ、一斉に飛びかかって来た。
雅也はビクッと肩を震わせ、
「――轟雷覇王撃!!」
数百の雷撃が洞窟内を駆け巡る。