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第17話 合格者

 地面が割れ、岩壁が吹き飛ぶ。激しい稲妻が周囲を走り、ウサギたちを薙ぎ払っていく。

 だが、あまりにも威力が強すぎたため、雷撃の影響で岩が崩れ落ちてきた。


「わあああああああ!!」


 雅也は振り返って逃げようとしたが、地面が揺れ、足元がおぼつかない。

 岩の柱が倒壊し、行く手をふさぐ。洞窟の天井からも岩が落ち、雅也は絶叫しながら頭を守った。生きた心地がしなかったが、しばらくすると静かになる。

 雅也は恐る恐る目を開けると、凄惨な光景が広がっていた。

 広い範囲が崩れ落ちた岩でおおわれ、煙が立ち上っている。落石に巻き込まれたら死んでいた。

 雅也が尻もちをついたままでいると、後ろから声が飛んでくる。


「大丈夫ですか!?」


 いの一番に駆けつけたのは冒険者の加賀だ。雅也の元に駆け寄り、「私につかまって」と体を支えてくれる。

 加賀の力を借りて立ち上がると、他の冒険者や参加者たちも走って来た。


「す、須藤さん! どうしたんですか? 凄い音がしましたけど……」


 湊崎が慌てた様子でやって来たが、崩落した洞窟を見て絶句する。不安がる参加者たちに向かい、加賀が口を開く。


「どうやら、崩落があったようです。こんなことはいままでなかったんですが……。とにかく、また崩落するかもしれません。すぐにダンジョンを出ましょう」


 加賀の指示に従い、全員がダンジョンの出口を目指す。隣を歩く湊崎が「なにがあったんですか?」と怪訝な顔で聞いてくる。


「い、いや、ホーン・ラビットを追いかけてたら、突然、天井が崩れてきて……死ぬかと思いましたよ」


 ハハハと空笑そらわらいで誤魔化そうとしたが、湊崎の顔はますます曇る。

 それはそうだろう。加賀が言うように、突然ダンジョンが崩落することなど普通はないはずだ。自分がやりました、と言って大丈夫だろうか?

 いまは事故と思われてるけど、スキルを使って壊したのがバレたら、めちゃくちゃ怒られるかもしれない。

 雅也は「まずいまずい」と思いながらかぶりを振る。

 余計な問題を起こさないため、いまは黙っておくことにしよう。一行は一時間ほど歩いてダンジョンを出る。

 日はまだ高く、燦々さんさんと陽光が降り注ぐ。

 雅也は手でひさしを作りながら歩いた。全員が加賀と二人の冒険者の前に集まる。加賀は「お疲れ様でした」と志願者たちをねぎらい、ニッコリと微笑む。


「皆さん。途中、アクシデントもありましたが、全員、無事に戻ることができてなによりです。参加者の方は三匹づつホーン・ラビットを討伐していますから、いまから簡易の魔力測定を行います。しばらくお待ち下さい。それと須藤さんは――」


 加賀は雅也に目を向け、言いにくそうな顔をする。


「まだホーン・ラビットを三匹討伐していませんね。今回はトラブルがあったため残念でした。また日を改めて挑戦しましょう」

「あ、いや」


 雅也は慌てて口をはさむ。


「じ、実は崩落が起きる前に、三匹目のホーン・ラビットを倒したんです。岩陰にいたのを剣で叩いて……」


 咄嗟とっさに口から出たが、決して嘘ではない。三匹から数十匹は倒しているはずだ。

 遠くにいたウサギはともかく、比較的近くにいたウサギの魔力は浴びているんじゃないだろうか?

 それなら自分の魔力も増えているはずだ。


「そうですか、それなら大丈夫ですね。須藤さんも魔力の測定を行いましょう」


 加賀は納得し、仲間の冒険者になにかの指示を出した。若い男性の冒険者が持ってきたのは銀色のアタッシュケースだ。

 ふたを開けると、見たことのない装置が入っている。あれが魔力測定器だろうか? 若い男性の冒険者――確か大野と言ったか。は、すぐに準備を整え「それではこちらに来て下さい」と声を上げた。

 志願者たちは一人ずつ大野の前に並び、短い棒のような物を向けられていた。

 測定は思いのほか迅速に進み、湊崎が終わったあと雅也も受け、志願者七人分の測定が終わる。


「ありがとうございます。計測の結果、魔力が確認できたのは田中さん、湊崎さん、須藤さんの三人ですね。おめでとうございます」


 加賀はほがらかな表情で祝意をべる。湊崎は目を見開いて驚き、こちらに視線を向けてきた。雅也は湊崎と共に喜び合い、なんとか試験をクリアできたことに胸を撫で下ろす。

 外で待っていた川北も満面の笑みを浮かべた。


「いやいや、良かった。今回は三人の合格者ですね。ああ、他の方も落ち込む必要はありませんよ。いま行ったのは簡易の測定ですから、県庁にはもっと精密な測定器もあります。希望する方は測ることができますので、私のほうに申し出て下さい」


 数人が川北の元に歩み寄る。精密測定を希望するようだ。

 そんな人たちを横目に、加賀が歩み寄って来る。


「湊崎さん、須藤さん。試験合格、おめでとうございます」


 雅也は「ありがとうございます」と頭を下げ、湊崎も「本当に嬉しいです」と感謝を述べた。


「お二人は魔力値がけっこう高かったです。湊崎さんが魔力値『7』で、須藤さんは魔力値『5』でした。ホーン・ラビット三匹でこの数値は、けっこう高いほうなんですよ」

「そうなんですか? だとしたら、なおさら嬉しいです」


 湊崎は相好そうごうを崩した。雅也も喜びたいのはやまやまだが、実際は三匹ではなく十数匹は倒している。

 どれぐらい反映されたか分からないが、それで湊崎より低いのなら、魔力が身につく才能はかんばしくないのだろう。

 まあ、合格したからいいか。と気持ちを立て直す。

 周囲を改めて見渡せば、落ち込んでいる参加者が散見された。不合格を受け入れた人たちだ。

 合格したのは自分と湊崎、それに大学生っぽい男性の三人だけだ。


「精密検査をすれば、何人かは合格できるんですか?」


 雅也が訊ねると、加賀は渋い表情をする。


「大きい声では言えませんが、再測定というのは形だけです。実際に判定が覆ることは、まずありません」

「え!? そうなんですか?」


 驚く雅也に、加賀は囁くように声を出す。


「ああでも言わないと、クレームを入れてくる人がいるんですよ。精密測定をしても、結果が変わることはないんですけどね」


 苦笑いする加賀に、雅也も苦笑で返す。その後、一行はバスに乗り込み、県庁まで戻った。

 川北は「それでは、私はこれで」と早々に庁舎に帰り、精密検査を希望する者も県庁に入って行く。残った雅也たちに対し、加賀が今後についての説明を始める。


「合格された須藤さん、湊崎さん、田中さん。三人は都合がつく日に山梨県の冒険者協会に来て下さい。そこで正式な手続きをしますので。それでは、我々はこれで失礼します」


 加賀は頭を下げ、他の二人と共にマイクロバスに乗って帰って行った。少々のトラブルはあったものの、無事に試験をパスできた。

 雅也はホッと息を吐き、改めて喜びを噛み締めた。

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