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第27話 水流剣

「じゃ、じゃあ、もう一回やってみましょうか。的はあと四つありますから、全部狙ってみて下さい」

「分かりました」


 雅也は喜びいさんで『的』に手を向ける。水球を作りだし、意識を集中する。


「行けっ!!」


 放たれた水の弾丸はまっすぐに飛んでいき、的板を破壊する。雅也は続けて水球を作りだし、その横の板を狙って撃ち出す。

 またしても直撃して板を割る。残りの板も同じように破壊した。

 計四枚の板をあっと言う間に割った雅也が喜んでいると、甲野が戸惑った表情で話し掛けてきた。


「須藤さん、本当に冒険者になって一ヶ月ほどなんですか?」

「ええ、そうです。右も左も分からない状態でして……先輩の冒険者に頼ってばかりです」

「それにしては魔法の扱い方がうますぎますね。体力的にはどうです? 疲れてませんか?」

「う~ん、そんなに疲労感はありませんね。まだやれそうです!」


 甲野は呆れた顔をして「魔法を使うと普通は疲れるんですけど……須藤さんは魔力量が多いんですね」と微笑んだ。

 確かに〝空をゆくもの〟を倒しているため、そこそこの魔力量はあるだろう。

 なんにしても、疲れにくいのはありがたい。


「じゃあ、他の使い方も覚えていきましょうか。戦闘で水魔法はどんなふうに使ってますか?」

「はい! 剣に水をまとわせて、その剣でモンスターを斬ってます」

「見せてもらってもいいですか?」


 甲野に木剣を貸してもらい、いつものように刃に水を纏わせる。螺旋を描く水が剣身をクルクルと回っていた。


「なるほど、工夫のあとが見られますね。でも、効率という面ではあまりうまくないかもしれません。こういうのは見たことありますか?」


 甲野は腕を伸ばし、手を開く。手の中心に集まった水が弾けた瞬間――〝水の剣〟が出現する。甲野は握り締めた〝水の剣〟の切っ先を、雅也の鼻先に向けた。


「私は〝水流剣〟と呼んでいます。練習すれば切れ味も増していきますし、強度もなかなかのものです。そして、この剣にしかできない使い方もあるんですよ」


 甲野は体の向きを変え、水流剣を軽く振るった。すると剣身から水の斬撃が放たれ、五メートル先にある塀にぶつかって弾けた。

 水飛沫が舞い散り、キラキラと光を反射している。


「すごい……」

「魔力が強ければ、塀であっても破壊できますよ。なにより遠距離攻撃ができるのが〝水流剣〟のメリットですかね。やってみますか? 須藤さん」

「はい! もちろんです」


 雅也も同じように腕を伸ばし、手に意識を向ける。奥歯を噛み締め、力を込めると、荒々しく水が集まってくる。

 水は一気に増え、瞬く間に剣の形となった。


「ああ、できた! できましたよ、甲野さん!!」


 雅也は破顔して叫ぶ。手の中に収まった剣は、甲野が作った物より大きく、剣身は絶えず噴水のように動いていた。


「ちょっと剣っぽくないですけど……大丈夫でしょうか?」


 雅也が訊ねると、甲野は困り顔で眼鏡の位置を直す。


「いや~まあ、大丈夫だと思いますよ。と言うか、こんな早く剣の形にできた人は初めてみましたよ。須藤さん、本当に新人ですか? ちょっと信じられないな」

「いえいえ、そんな……私なんてまだまだですよ」


 社交辞令とは分かっていても、褒められれば嬉しいものだ。甲野が「斬撃を飛ばせるか試してみて下さい」と言うので「分かりました」と剣を構える。

 大きく振りかぶり、思い切り振ってみた。

 剣身から水の斬撃が放たれ、恐ろしい速さで飛んでいく。塀にぶつかると爆発したような衝撃が走った。

 塀の一部が粉々に砕け、向こう側が見えてしまう。


「あああああああああ!! す、すいません! 施設を壊してしまって、べ、弁償しますので……」

「い、いや、大丈夫ですよ。ここは壊れた時のために修繕費を積み立てていますから。威力が強すぎるのにビックリしましたけど」

「い、いいんですか? 本当に申し訳ありません」


 雅也は深々と頭を下げるが、甲野は「大丈夫ですよ」と笑顔で慰めてくれる。訓練はここで中止となり、雅也は何度も謝ってから静岡支部をあとにした。


 ◇◇◇


「あ~甲野さん、いい人で良かった~。とんでもない金額を請求されても文句言えなかったよ~」


 雅也は湯船に浸かりながらはぁ~と息を漏らす。浴槽の中で目を閉じ、上を向く。足を思い切り伸ばせないのが残念ではあるが、風呂に入るこのひと時が一番の癒やしだ。

 顔を擦ってまぶたを開け、そろそろ出ようかと思った時、わずかな揺れを感じた。


「ん? 地震か?」


 揺れはすぐに収まったので、雅也は特に気にせず風呂を出た。

 上下グレーのスウェットを着て自分の部屋に戻ろうとした雅也だが、ちょっと待てよ、と思い振り返る。

 せっかく静岡まで行って水魔法の練習をしたのだ。

 忘れないうちに復習をしてもいいだろう。そう考えた雅也は勝手口から外に出た。


「軽めの練習なら汗も掻かないよな」


 雅也は右手を前に突き出し、意識を集中する。手の中に水が集まり、一瞬で剣の形になった。さらに左手を前に出して、同じように意識を向ける。

 もう一本の剣が出現した。これで二刀流だ。

 雅也は思うままに剣を振り回した。剣道などを習ったことがないため、完全に自己流になってしまう。

 それでも魔力があれば強力な攻撃もできる。

 剣を飛ばすイメージをしてから、思い切り剣を振り下ろす。水の斬撃が飛んでいき、二十メートル先の木に当たった。

 みきに大きな傷が入ったようだ。さらに両手の剣をクロスさせるように振り切る。 バッテンの形のまま、水の斬撃が木に向かって飛んでいく。幹に当たった瞬間、爆発したように水が弾け、木を吹っ飛ばしてしまう。

 驚いた雅也は当たりを見回し、「まずい、まずい」と言いながら家に入った。

 クロスさせると、より強力な技になるようだ。今後は安易に使わないようにしようと心に決め、自分の部屋にいそいそと戻った。

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