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第29話 成長する二人

 自宅に帰り、食事を終え、雅也は昨日と同じように家を出た。

 暗い夜道を早足で歩き、雑木林に奥にある盛り上がった丘の入り口からダンジョンの中に入る。薄暗い洞窟を慎重に進んだ。


「あ、出てきた出てきた」


 二体のスケルトンがこちらに向かって来る。雅也は両手に魔力を込め、水流剣を作り出した。二刀流で剣を構え、ゆっくりと敵に近づく。

 スケルトンの動きは緩慢で、攻撃を当てるのは簡単そうだ。


「どりゃあっ!!」


 剣で斬りつけると水が弾け、二体のスケルトンはバラバラになって砕け散った。雅也は剣を消し、手をパンパンと叩く。

 あまり奥には行かないつもりだったが、この程度のモンスターなら、もっと奥に進んでも大丈夫だろう。雅也は軽快な足取りで先に進む。

 次に出てきたのは動物のスケルトン。熊のような少し大きめのスケルトンが襲って来たが、水流剣で難なく倒す。

 この魔法は本当に役に立つな、と満足しながら歩き続ける。

 出現するのは人型のスケルトンと大きい動物型のスケルトンぐらい。張り合いがないため、少し拍子抜けする。


「あ! そうだ。【亜空間操作】の練習もしないと」


 雅也は手を前にかざし、念を込めるように目の前の空間を睨む。すると小さな穴が空き、徐々に大きくなる。

 自分の頭が入るぐらいの穴になると、雅也は中を覗き込んだ。

 以前に入れた文房具や服などが中空を漂っている。もう少し大きな穴にしたいが、いまはこれが限界のようだ。

 この亜空間操作は、いまのところ物を入れる〝アイテム・ボックス〟としてしか機能していない。


「もっと色々できそうなんだけどなぁ」


 雅也は亜空間の中に手を入れたり、頭を突っ込んだり、さらに念を送ったりしてみるが、大した変化は起きなかった。

 がっかりした雅也が視線を上げると、亜空間の先に小さな穴が空いていることに気づく。


「なんだ? あの穴?」


 雅也は穴を凝視する。すると、その穴の先に自分の部屋が見えた。

 驚いて「えっ!?」と思わず声が漏れる。まさか、別の空間に繋がったのか? だとすれば、この【亜空間操作】は空間と空間を繋げる能力ってことか?

 雅也は鳥肌が立つのを感じた。


「それって……瞬間移動ができるってことじゃないか!」


 いまは穴が小さく、中に入ることはできない。でも、もっと大きな穴にできれば、色んな場所に一瞬で行けるかもしれない。夢のような可能性を感じ、雅也のテンションは爆上がりする。

 穴を大きくできないか!? と試行錯誤してみるが、うまくいかない。

 ただ、亜空間の先にある穴も自分の頭ぐらいの大きさにはできた。さらに穴と穴の距離を近づけることにも成功した。

 手を伸ばせば、穴から自分の部屋の机にタッチできる。


「おお! すごい。こんな便利なスキルがあるなんて……他の冒険者も持ってるのかな。こんなスキル? 聞いたことないけど……」


 なんにせよ、もっと練習して色々できるようにしよう。

 雅也は洞窟を進み、奥へ奥へと足を伸ばす。すると、一際大きな人型スケルトンが出てきた。「こんな大きいのもいるのか」と呑気に考えていると、スケルトンは足を踏み込み、殴りかかってきた。意外に早いな。と思いつつ、雅也はその場を飛び退き、攻撃をかわす。

 水流剣を二本生み出し、交差するようにちゅうを斬りつけた。

 バッテンの形で水の刃が飛んでいく。クロスした斬撃はスケルトンの足に当たり、粉々に砕いてしまう。


「やっぱり威力が強いな」


 雅也は駆け出し、倒れてくるスケルトンに斬りかかった。頭と肩口を斬りつけると、水が弾け、骨を砕く。一歩飛び退き、もう一度クロスの斬撃を放つ。

 飛んで行った水の刃はスケルトンの頭部を破壊した。

 動かなくなったモンスターは白い煙となり、数分で消えてしまう。


「今日はこのくらいにしておくか」


 続きはまた明日にしようと思い、雅也はきびすを返して出口へと向かった。


 ◇◇◇


 週末の土曜――雅也は湊崎や相川、大野と共に、山中湖村に出現したダンジョンに来ていた。「最近、頻繁にダンジョンができるんだよね」と相川は苦笑いしながら頬を掻く。

 田んぼの上に出現した土塊つちくれのダンジョンはC級らしい。いままで入ったダンジョンの中では、一番ランクが高い。

 雅也と湊崎が先頭を行き、相川と大野が後ろを歩く。

 赤土でできた洞窟内には光源があり、洞窟の奥まで見渡せる。そんなダンジョンに出現したモンスターは、筋骨隆々で緑色の肌、鋭いキバをあわせ持っていた。

 雅也は現れた三体のモンスターにたじろぎ、一歩後ろに下がる。


「あれは……オークですか? けっこう強いって聞いたことありますけど……」

「大丈夫、大丈夫。須藤さんも湊崎さんも、だいぶ強くなってるから、あの程度のモンスターならちょちょいだよ。自信持って!」


 あっけらかんと言う相川に戸惑いつつ、雅也と湊崎は前に出た。

 ここでまごついていても仕方ないと思い、雅也は地面を蹴ってオークの胸元に飛び込む。湊崎も呼応するように地面を蹴る。

 雅也以上の速度で湊崎は走り、右にいたオークの足を斬りつけた。

 勢いを落とさないまま背後に回り込み、オークが振り向こうとした刹那――背中と脇腹を斬り裂き、喉元にも一撃を入れる。

 鮮やかな連撃に雅也は思わず息を飲む。


 ――また強くなってる! すごいな、湊崎さんは。


 自分も負けてられない。雅也も〝水流剣〟を出してオークに突っ込む。振り下ろされた大きな斧を避け、両手に持った剣で斬りつける。

 オークは絶叫しながら後ろに倒れた。あと一体!

 雅也は剣をクロスして構える。勢いよく振ると、クロスした水の刃が中空を飛んでいく。オークの足に当たり、派手に弾けた。

 悶絶した緑のモンスターが倒れる瞬間、走り込んでいた湊崎が剣を振るう。

 剣は美しい弧を描き、オークの喉を斬り裂いた。

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