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第30話 Cランクのボス

「やりましたね。湊崎さん!」


 雅也が喜ぶと、湊崎は剣をさやに収めてニッコリと微笑む。


「はい、須藤さんが先制攻撃をしてくれたおかげです。相手の反撃を受ける前に倒せて、本当に良かったです」


 雅也も水流剣を消すと後ろにいた相川が、「すごい、すごい」と手をパチパチ叩きながら歩いて来た。


「二人ともほんとにすごいよ。ここまで強くなったなら、D級やC級のダンジョンを任せても大丈夫そうだね」

「いえ、そんな……」


 湊崎が驚いた表情で否定するが、相川は「いやいや」とかぶりを振る。


「こんなに早く成長する新人は珍しいよ。今年は何人か冒険者試験に受かってるけど、実戦に耐えうる力を付けてるのは二人ぐらいだよ。湊崎さんは身体能力も剣の腕もぐんぐん伸びてるよね。関心しちゃった」

「い、いえ……私なんてまだまだで……」


 謙遜する湊崎を、相川はふふふと笑いながら暖かい眼差しで見つめる。その視線を雅也にも向けてきた。


「須藤さんもすごいよ。さっき使った水の剣……静岡支部の甲野さんに教わったんだよね?」

「あ、はい、そうです。甲野さんには色々教わって、本当に有意義で発見のある講習になりました。紹介して下さった相川さんにも感謝してます」

「ちょっとやめてよ、堅苦しい。同じ支部の仲間が強くなるのは、こっちだってメリットがあるんだから。恩に着る必要なんてないよ。それに甲野さんが言ってたけど、須藤さんは物覚えがよくて教え甲斐があるって。やっぱり才能があるんだよ、須藤さんは」

「そ、そうですか……なんともこそばゆい限りです」


 相川に褒められ、雅也は照れて頭を掻く。自分より若い人に認めてもらうのは、村役場ではなかなかない経験だ。

 雅也と湊崎はその後もモンスターを倒し続け、ダンジョンの最奥を目指す。

 相川や大野の力を借りずとも、二人で順調に攻略を進めることができた。四時間ほど歩き、ついに辿り着いた最奥の間。

 巨大な金属の扉の前で、雅也と湊崎は足を止める。


「……行きましょうか」


 雅也が問いかけると、湊崎は静かにアゴを引く。雅也はゆっくりと扉を押した。低い音を鳴らし、鉄扉は内側に開く。

 足元には白いモヤが広がり、心なしか気温が下がったような気がする。

 広い部屋の中心にいたのは、緑色の肌をした大柄なモンスター。オークに似ているが、どこか違う。より大きく、より禍々まがまがしい雰囲気をまとっている。

 後ろにいた相川がチッと舌打ちした。


「ハイオークだ。けっこう面倒なモンスターだよ」


 その言葉を聞いて、雅也は唾を飲み込む。ハイオークはオークの上位種。いままで倒したモンスターより、かなり強いはずだ。

 湊崎も緊張の色合いを濃くしていく。

 ハイオークはこちらを向き、鋭い眼でギロリと睨んできた。3メートル以上あろう巨体を動かし、まっすぐに歩いて来る。

 右手には大きな刃物を持っていた。中華包丁のような、変わった形の刃物。あんな物で斬りつけられたら、ただでは済まない。

 雅也はゴクリと喉を鳴らし、左手で水流剣を作り出す。

 背後にいた相川が「大丈夫?」と聞いてきたので、雅也は「やれるだけやってみます」と答えた。

 それは湊崎も同じだったようで、剣を構えたまま、まっすぐにハイオークを睨んでいる。雅也たちから七メートルほどの距離で、ハイオークは足を止めた。

 互いに睨み合い、ピリピリとした時間が過ぎる。

 先に動いたのは雅也だ。右手をかかげ、手の中に水球を作り出す。魔力を込めて一気に放った。

 水球は恐ろしい速さで飛んでいき、ハイオークの顔面で弾ける。

 顔を押さえてフラつく怪物。その隙を突き、湊崎がハイオークの足元に走り込む。剣を振るって三度斬りつけた。

 だが傷は浅かったようで、ハイオークは大きな刃物を振り下ろす。

 湊崎は後ろに飛び退き、相手の攻撃をかわした。刃物は地面に突き刺さり、床を砕いて粉塵を巻き上げる。

 割れた床の破片が湊崎の頬に当たる。軽い傷を付けるが、湊崎は手をかざして回復魔法を発動する。淡い光が頬の傷を一瞬で治してしまった。

 すごいな。と思いつつ、雅也は立て続けに三発の〝水球〟を放つ。

 ハイオークの顔や肩、腹に当たり、相手をらせる。湊崎はもう一度、駆け出し、鮮やかな剣閃で怪物の足を斬りつけた。

 これにはたまらず、ハイオークは踏鞴たたらを踏む。

 雅也は両手に〝水流剣〟を持ち、クロスに構えた。この一撃で決める! 交差するように振るった剣は、水の刃となって飛んでいく。

 クロス型の斬撃はハイオークの腹に直撃し、爆発するがごとく弾けた。

 ハイオークは吹っ飛び、そのまま転倒する。

 湊崎は敵の死角から回り込み、倒れたハイオークの首に一撃を入れる。血が噴き出すも、まだ致命傷には至らない。さらなる斬撃を繰り出すが、ハイオークは手で首や頭を守る。


「くっ!」


 湊崎は顔を歪め、一歩後ろに引いた。それを見た雅也は地面を蹴って空中に飛び上がる。

 剣を振り上げ、ハイオークに突っ込んだ。


「おおおおおおおおおおおお!!」


 雅也が振り下ろした水流剣が、ハイオークの腕を斬り落とす。防御が空いたのを見逃さず、湊崎が踏み込んだ。

 剣を突き出し、ハイオークののどつらぬく。

 湊崎が剣を抜くと大量の血が流れ出した。怪物は手で血を止めようとするが、叶うはずもない。ハイオークは大の字に倒れた。

 Cランクのボスモンスターを、雅也と湊崎だけで討伐したのだ。

 雅也が右手をかかげると、湊崎も手を上げ、パチンッと叩き合う。満面の笑みを浮かべる湊崎を見て、雅也も自然と頬を崩した。

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