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第31話 近所で特訓

 攻略が終わり、雅也たち四人はC級ダンジョンを出る。

 畦道あぜみちに停めた車に向かう道すがら、相川が話し掛けてきた。


「今後のダンジョン攻略なんだけど、今週、来週と忙しくてさ。あたしと大野は同行できそうにないんだよ。さすがに二人だけじゃ心許ないし、しばらくお休みってことで納得してよ」


 雅也は「それはもちろん、構いませんが……」と言い淀んだあと「なにかあるんですか?」と相川に尋ねる。


「いやね。実は新しいダンジョンが山梨に出現したみたいなんだけど、まだ場所が特定されてないんだよ。いま冒険者協会や県の職員をあげて探してるところでさ。見つかり次第、攻略に入るから、ちょっと忙しくなりそうなんだ」

「そうなんですか」


 もしかすると家の近くにできたダンジョンのことかな? と考えた雅也の隣から、湊崎が口をはさむ。


「そのダンジョンって、ひょっとしてランクが高いんですか?」

「うん、そうだよ。A級じゃないかって予想が出てる」

「それは大変ですね。A級なんて想像もできません。山梨ではそんな高ランクのダンジョン、よく出現するんですか?」

「まさか! 滅多にないよ。だから支部の連中は大わらわだよ。Aランクダンジョンはあたしも一回しか入ったことないしね。まあ、いまから気合いが入ってる訳よ。ということで、しばらくのお休みは受け入れてね」

「もちろんです! 相川さんも大野さんもがんばって下さいね」


 湊崎に激励された相川は「任せといて!」と明るく応え、大野は無言で頷いた。なんにせよ、そんなランクの高いダンジョンなら、家の近所にできたダンジョンではなさそうだ。あれはどう考えてもDランクかCランクだからな。

 雅也たちは車で笛吹市にある山梨支部のビルまで戻り、そこで解散となった。


 ◇◇◇


 翌日の日曜日――雅也は朝からダンジョンに潜っていた。

 家の近くにあるため、通うのは楽ちんだ。薄暗い岩の洞窟を進みながら、出てくるスケルトンを倒していく。

 水魔法と亜空間操作を練習しまくったため、どちらもかなり上達した。

 雅也は空間に穴を空け、その中に手を突っ込む。洞窟の奥から走ってくる人型スケルトンに狙いを定める。


「喰らえ!」


 スケルトンの背後から水球が撃ち出された。虚を突かれたモンスターは避けることができず、骨を砕かれ転倒した。

 立ち上がれないまま、煙となって消えていく。


「よしよし、うまくいったな」


 亜空間操作を使い、スケルトンの背後に穴の出口を作ったのだ。これなら距離や方向は関係なく、モンスターに攻撃することができる。

 むちゃくちゃ便利な能力に気を良くした雅也は、いつも以上に洞窟の奥に進んだ。 少し開けた場所に出た時、雅也は顔をしかめた。なにか嫌な空気が漂っている。水流剣を左手に持ち、警戒して辺りを見回す。

 通路がいくつかに別れている。そのひとつから、重々しい足音が聞こえてきた。

 現れたのは三メートル以上あろう人型のスケルトン。だが、いままで見てきたモンスターとは違っていた。

 長い大剣を携え、銀の鎧を着込んでいる。さながら骸骨騎士といったところか。

 全身からかもし出される雰囲気は、強者であることを物語っている。

 雅也は右手を前にかざし、ハンドボール大の水球を作り出す。水球の大きさも、少しづつ大きくなってきた。水魔法が上達している証拠だ。

 骸骨騎士に狙いを定め、勢いよく放つ。

 発射速度も上がってきた。弾丸のような水球が当たると思った刹那――骸骨騎士は剣を振るい、水球を斬り飛ばしてしまう。

 そのまま地面を蹴ってこちらに向かってきた。

 予想以上に速い身のこなしに、雅也は面食らう。まごついているうちに骸骨騎士は目の前に立ち、剣を振りかぶった。


 ――まずい! 避けきれない。


 容赦なく振り下ろされる大剣。地面が割れ、衝撃音が周囲に広がる。だが、そこに獲物である雅也はいなかった。

 骸骨騎士は周囲をキョロキョロと見回す。

 雅也は骸骨騎士の後ろ、五メートルの位置にいた。


 ――危ない、危ない。もうちょっとで頭を割られるところだった。


 雅也は目の前にある〝穴〟を閉じる。初めて亜空間操作を使った〝瞬間移動〟が成功した。やはり、魔法やスキルは実戦で伸びるようだ。

 水流剣を両手に持ち、雅也は骸骨騎士を正眼にとらえる。

 剣を交差するように振り抜き、クロスした水の斬撃を生み出す。水魔法で使える最強の攻撃。

 骸骨も剣を振って迎撃しようとするが、水の刃は爆発したように弾けた。

 これには骸骨騎士もたまらなかったようで、一歩、二歩と後ろに下がる。


「まだまだ!」


 雅也は両剣を下段に構え、そのまま走り出した。相手が体勢を立て直す前に決着をつける!

 振り下ろしてくる大剣を剣で払い、右手に持った剣で相手の足を斬りつける。 

 水が派手に弾けるが、足鎧を破壊することができなかった。雅也は後ろに飛び退き、二刀の剣を構え直す。


 ――鎧以外の部分を攻撃すべきだ。それなら!


 雅也は目の前に亜空間の穴を空けた。その穴に剣を突っ込むと、剣先が骸骨騎士の頬骨に当たり、水が弾けた。骸骨騎士は戸惑ったように後ろに下がる。

 亜空間の穴をを相手の顔前に空けた。

 これなら距離を保ちつつ、四方八方から攻撃できる。今度は二つの穴を空間に空け、二刀の水流剣を穴に突き刺す。

 足と腕の、鎧に覆われていない部分に切っ先が当たって水が弾けた。

 さらにクロスに宙を斬りつけ、交差した水の斬撃が飛んでいく。骸骨騎士の胴体に当たって水が爆散した。

 モンスターは踏鞴たたらを踏み、後ろの岩肌に激突する。

 様々な攻撃パターンを織り交ぜ、相手に対応できないようにした。


 ――よし! 充分通用してるぞ!!


 雅也は自分の周囲に六つの穴を空けた。水流剣を消し、手をかかげて水球を作り出す。穴に向かって放ち、間を置かずにまた水球を作る。

 マシンガンのように穴に撃ち込んでいくと、骸骨騎士の全身に水球が当たった。 相手は戸惑い、剣を振り回すが水球は防げない。

 百発以上を撃ち込んだ時、骸骨騎士の鎧にヒビが入った。

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