攻略が終わり、雅也たち四人はC級ダンジョンを出る。
「今後のダンジョン攻略なんだけど、今週、来週と忙しくてさ。あたしと大野は同行できそうにないんだよ。さすがに二人だけじゃ心許ないし、しばらくお休みってことで納得してよ」
雅也は「それはもちろん、構いませんが……」と言い淀んだあと「なにかあるんですか?」と相川に尋ねる。
「いやね。実は新しいダンジョンが山梨に出現したみたいなんだけど、まだ場所が特定されてないんだよ。いま冒険者協会や県の職員をあげて探してるところでさ。見つかり次第、攻略に入るから、ちょっと忙しくなりそうなんだ」
「そうなんですか」
もしかすると家の近くにできたダンジョンのことかな? と考えた雅也の隣から、湊崎が口を
「そのダンジョンって、ひょっとしてランクが高いんですか?」
「うん、そうだよ。A級じゃないかって予想が出てる」
「それは大変ですね。A級なんて想像もできません。山梨ではそんな高ランクのダンジョン、よく出現するんですか?」
「まさか! 滅多にないよ。だから支部の連中は大わらわだよ。Aランクダンジョンはあたしも一回しか入ったことないしね。まあ、いまから気合いが入ってる訳よ。ということで、しばらくのお休みは受け入れてね」
「もちろんです! 相川さんも大野さんもがんばって下さいね」
湊崎に激励された相川は「任せといて!」と明るく応え、大野は無言で頷いた。なんにせよ、そんなランクの高いダンジョンなら、家の近所にできたダンジョンではなさそうだ。あれはどう考えてもDランクかCランクだからな。
雅也たちは車で笛吹市にある山梨支部のビルまで戻り、そこで解散となった。
◇◇◇
翌日の日曜日――雅也は朝からダンジョンに潜っていた。
家の近くにあるため、通うのは楽ちんだ。薄暗い岩の洞窟を進みながら、出てくるスケルトンを倒していく。
水魔法と亜空間操作を練習しまくったため、どちらもかなり上達した。
雅也は空間に穴を空け、その中に手を突っ込む。洞窟の奥から走ってくる人型スケルトンに狙いを定める。
「喰らえ!」
スケルトンの背後から水球が撃ち出された。虚を突かれたモンスターは避けることができず、骨を砕かれ転倒した。
立ち上がれないまま、煙となって消えていく。
「よしよし、うまくいったな」
亜空間操作を使い、スケルトンの背後に穴の出口を作ったのだ。これなら距離や方向は関係なく、モンスターに攻撃することができる。
むちゃくちゃ便利な能力に気を良くした雅也は、いつも以上に洞窟の奥に進んだ。 少し開けた場所に出た時、雅也は顔をしかめた。なにか嫌な空気が漂っている。水流剣を左手に持ち、警戒して辺りを見回す。
通路がいくつかに別れている。そのひとつから、重々しい足音が聞こえてきた。
現れたのは三メートル以上あろう人型のスケルトン。だが、いままで見てきたモンスターとは違っていた。
長い大剣を携え、銀の鎧を着込んでいる。さながら骸骨騎士といったところか。
全身から
雅也は右手を前にかざし、ハンドボール大の水球を作り出す。水球の大きさも、少しづつ大きくなってきた。水魔法が上達している証拠だ。
骸骨騎士に狙いを定め、勢いよく放つ。
発射速度も上がってきた。弾丸のような水球が当たると思った刹那――骸骨騎士は剣を振るい、水球を斬り飛ばしてしまう。
そのまま地面を蹴ってこちらに向かってきた。
予想以上に速い身のこなしに、雅也は面食らう。まごついているうちに骸骨騎士は目の前に立ち、剣を振りかぶった。
――まずい! 避けきれない。
容赦なく振り下ろされる大剣。地面が割れ、衝撃音が周囲に広がる。だが、そこに獲物である雅也はいなかった。
骸骨騎士は周囲をキョロキョロと見回す。
雅也は骸骨騎士の後ろ、五メートルの位置にいた。
――危ない、危ない。もうちょっとで頭を割られるところだった。
雅也は目の前にある〝穴〟を閉じる。初めて亜空間操作を使った〝瞬間移動〟が成功した。やはり、魔法やスキルは実戦で伸びるようだ。
水流剣を両手に持ち、雅也は骸骨騎士を正眼に
剣を交差するように振り抜き、クロスした水の斬撃を生み出す。水魔法で使える最強の攻撃。
骸骨も剣を振って迎撃しようとするが、水の刃は爆発したように弾けた。
これには骸骨騎士も
「まだまだ!」
雅也は両剣を下段に構え、そのまま走り出した。相手が体勢を立て直す前に決着をつける!
振り下ろしてくる大剣を剣で払い、右手に持った剣で相手の足を斬りつける。
水が派手に弾けるが、足鎧を破壊することができなかった。雅也は後ろに飛び退き、二刀の剣を構え直す。
――鎧以外の部分を攻撃すべきだ。それなら!
雅也は目の前に亜空間の穴を空けた。その穴に剣を突っ込むと、剣先が骸骨騎士の頬骨に当たり、水が弾けた。骸骨騎士は戸惑ったように後ろに下がる。
亜空間の穴をを相手の顔前に空けた。
これなら距離を保ちつつ、四方八方から攻撃できる。今度は二つの穴を空間に空け、二刀の水流剣を穴に突き刺す。
足と腕の、鎧に覆われていない部分に切っ先が当たって水が弾けた。
さらにクロスに宙を斬りつけ、交差した水の斬撃が飛んでいく。骸骨騎士の胴体に当たって水が爆散した。
モンスターは
様々な攻撃パターンを織り交ぜ、相手に対応できないようにした。
――よし! 充分通用してるぞ!!
雅也は自分の周囲に六つの穴を空けた。水流剣を消し、手をかかげて水球を作り出す。穴に向かって放ち、間を置かずにまた水球を作る。
マシンガンのように穴に撃ち込んでいくと、骸骨騎士の全身に水球が当たった。 相手は戸惑い、剣を振り回すが水球は防げない。
百発以上を撃ち込んだ時、骸骨騎士の鎧にヒビが入った。