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第34話 鎧スケルトン

 洞窟の奥に進むにつれ、様々なスケルトンが出て来た。

 人型のスケルトンに動物型のスケルトン。どうやら、ここはアンデッド系のモンスターが出てくるダンジョンのようだ。

 相川は自分の持つ剣に炎を灯し、向かってくるスケルトンを薙ぎ払う。

 骨を砕いても、あっと言う間に再生し、また立ち上がってくる骸骨ども。よほど強い魔力でないと一撃で倒せない。

 さすがA級ダンジョンだな、と相川は舌打ちする。

 それに対し、前を行く東京の冒険者はさすがの強さだった。全てのスケルトンを一撃で倒し、涼しい顔をしている。

 かなりの魔力を消費しているはずなのに、疲れた様子も見せない。


 ――C級のあたしとは違うってことだね。


 相川はハハと空笑いして先に進む。なんにせよ、味方が強いのはいいことだ。

 それに、いつか自分の冒険者ランクも上がるかもしれない。実際、強い『クリスタル』を手に入れ、強力なスキルを得てランクアップした冒険者はいくらでもいる。 歩きながら、相川は口の端を持ち上げる。


 ――待ってろよ、如月カイト! あたしもあんたみたいに、スター冒険者になってやるからな。


 ◇◇◇


 モンスターを倒しながら洞窟の奥に進んだ一行は、少し開けた場所に出た。

 相川は周囲を見回して顔をしかめる。先ほどまでより、かなり濃い魔力が漂っている。こういう場所に出てくるのは、決まってレベルの高いモンスターだ。

 それはこの場にいる全員が理解していた。

 緊迫した空気が流れる中、通路の奥から足音が聞こえる。金属がすれるような音も聞こえ、魔力の濃度がさらに上がる。

 暗い影から姿を見せたのは、銀色の鎧をまとったスケルトン。

 右手に剣をたずさえた大型のスケルトンだ。相川は息を飲んで後ろに下がる。一目見て、強力なモンスターであることが分かった。

 迂闊うかつに手を出せばやられる。そんな緊張感を全員が共有した。

 モンスターと冒険者たちが睨み合う。一分以上の沈黙を破ったのは、東京支部の冒険者だった。

 山神が左に走り、如月と宮本が右に走る。

 加賀も前に出た。全員で一斉攻撃すれば、あの鎧スケルトンもすぐに倒せるだろう。相川はそんな甘い考えを抱いたが、一瞬で間違いだと気づく。

 鎧スケルトンが動き出すと、その速さに衝撃を受ける。

 剣を横に振り、山神を薙ぎ払った。あまりのスピードに山神は槍で攻撃を防ぐのが精一杯。

 吹っ飛ばされる山神を見て、如月は「山神さん!」と叫び、敵に向かって走った。

 氷の剣を振るうも、鎧スケルトンは体を回転させ斬撃をかわす。その勢いのまま、スケルトンは剣を振り下ろしてきた。

 防御が間に合わない如月に代わり、宮本が鉄甲で斬撃を受ける。

 だが勢いを殺すことはできず、如月と一緒に吹っ飛ばされてしまう。あまりの出来事に加賀や相川を始め、冒険者の面々は絶句した。

 A級冒険者の山神たちが倒されるなど、想像もしていなかったからだ。

 鎧スケルトンはこちらに体を向け、ゆっくりと歩いて来る。加賀は恐怖を噛み殺し、「行くぞ!」と相川たちに告げた。


「おう!」


 相川は呼応し、大野と共に剣を構えた。それを見ていた他の冒険者も武器を構え、鎧スケルトンを睨み付ける。

 先んじて駆け出したのは加賀だった。

 手にしていた斧に炎が灯る。屈強な体から振るわれた斧は、鎧スケルトンの剣とぶつかり合う。

 甲高い衝突音。炎が舞い散り、加賀が後ろに飛ぶ。

 代わるように前に出たのは相川と大野だ。炎を宿した相川の剣が相手の足に当たる。だが、足鎧に弾かれ、ダメージが通らない。

 大野も稲妻を宿した大剣を振るうが、鎧スケルトンの剣にいなされてしまう。

 二人が驚いたのは、やはり驚異的なスピードだ。これだけ大きな体躯で、剣を軽々と振るっている。

 自分たち以上の速さに手をこまねいていると、後ろから雄叫びが聞こえてきた。

 他の冒険者が一斉に駆け出して来たのだ。静岡の甲野は手をかかげ、水の弾丸を何発も放っている。

 他の冒険者も武器に魔力を宿し、モンスターに狙いを定める。

 全員の攻撃が当たると思った刹那――鎧スケルトンは素早く剣を振るい、冒険者のことごとくを弾き飛ばす。

 相川は顔を歪めた。このモンスターは本当に強い。

 やはりA級ダンジョンの攻略は、一筋縄ではいかないんだ。相川は奥歯を噛み締め、剣を中段に構えて走り出す。


 ――とにかく、一撃入れないと!


 相川は攻撃をもらう覚悟で突っ込んだ。その時、鎧スケルトンの足が急激に凍りつき、弾けるように粉々になった。


「えっ!?」


 相川は足を止め、地面に倒れた鎧スケルトンを見る。なにが起きたんだ? 疑問が脳裏をかすめるも、その答えはすぐに出た。

 スケルトンの向こうから、剣を下ろして歩いてくる如月カイトが見えた。

 氷の魔力をまとっているのか、体の周りがキラキラと光っている。氷の結晶、ダイヤモンドダストが舞っている。

 ゆっくりと近づく如月に、鎧スケルトンは怯えているようにも見えた。

 なんとか上体を起こしたスケルトンだが、別の方向から飛びかかってくる人影があった。東京支部の宮本だ。女だてらに鉄甲を装備した格闘型冒険者。


「おおおおおおおおおおおお!!」


 相手との間合いを一気に詰めた宮本は、燃えさかる拳を七発打ち込む。

 鎧ごと相手の骨を砕き、再生することを許さない。スケルトンは声にならない悲鳴を上げ、ゴロゴロと転がって逃げようとする。

 だが、そこには東京支部のA級冒険者――山神アキラがいた。

 長い槍を頭上で回し、地べたを這いずり回る鎧スケルトンを見下ろす。穂先に〝風〟の魔力を集め、まっすぐに突き下ろした。

 鎧もろとも貫かれたスケルトンは爆散し、小さな破片となって消滅した。

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