「なんとか倒せましたね」
カイトが言うと、山神は槍を引いて姿勢を正す。
「ああ、なかなか骨のあるヤツだった。この先も強いのが大勢いそうだな。気を引き締めないと」
カイトは洞窟の奥を見やる。通路は三つに分かれており、どれが最奥の間に通じているか分からない。カイトが「どっちに進みますか?」と訊ねると、山神は腕を組んで考え込んだ。
戦力を三つに割る余裕はないため、全員で同じ方向に進む必要がある。
カイトは黙って山神の判断を待った。冒険者全員が
加賀が眉根を寄せ、「どうして右なんですか?」と聞いてくる。
当然の疑問だろう。だが、同じ東京支部の冒険者であるカイトや宮本はその判断に異論はなかった。
顔を上げた山神は加賀と視線を合わせる。
「私は魔力感知能力が高いんですよ。ダンジョン内なら、どこからより強力な魔力が漂っているか判断できます。右の通路は魔力濃度が高いので、恐らく〝最奥の間〟は右の通路を進めば辿り着けます」
言い切った山神に、加賀も頷くしかなかった。
「そうでしたか。それなら私も納得です。右の通路を行きましょう」
「ご理解いただき、感謝します」
他の冒険者も納得し、全員で右の通路を進む。しばらく歩けば、カイトや宮本でも魔力濃度が上がっていることに気づく。
やはり山神の言った通り、こちらの道が正解のようだ。
その後も攻略を進め、何体かの鎧スケルトンを倒した。さらに奥には動物型の鎧スケルトンもおり、かなりの苦戦を強いられた。
一日目の探索はこれぐらいにしよう、と山神が提案した時、反対する者は誰もいなかった。それほど、全員が気力、体力を削られていたのだ。
東京支部の冒険者がしんがりを務め、全員で洞窟を引き返す。
多少のモンスターは出てきたものの、無事にダンジョンを出ることができた。
◇◇◇
水曜日――雅也が役場に出勤すると、塚口と団野がなにやら話し込んでいた。
雅也はデスクの横に
課長の団野が雅也に気づき、「ああ、須藤さん。実は……」と説明しようとすると、塚口が前に出てきた。
「須藤さん、それが大変なんですよ!」
「またなにかあったんですか? もしかして、例のダンジョン?」
雅也が当たりをつけると、塚口は「そうなんですよ!」と興奮気味に声を出す。
「昨日、冒険者の攻略隊が七ッ石山のダンジョンに入ったんですけど、一日では攻略できなくて、今日、改めて入るそうなんですよ! ちゃんと成功するか心配で心配で、心配で。須藤さんも気になりますよね?」
「え、ええ……まあ、そうですね。自宅からも近いですし、心配ですね」
「やっぱりそうですよね。山梨にA級ダンジョンができるのは久しぶりなんで、村役場の職員はみんな不安になってるんですよ」
なるほどな、と雅也は思った。以前、県境にS級ダンジョンができた時も大騒ぎになった。あの時ほどではないものの、今回も不安になるのは当然だ。
けっこう簡単に攻略できるダンジョンかとも思っていたが、恐らく、奥に行けば行くほど強いモンスターが出て来たのだろう。
――あれ以上、奥に行かなくて良かった。私じゃ、きっと大怪我していた。
塚口の後ろにいる団野も心なしか顔色が悪い。県や住民に説明するのも団野の仕事であるため、そうとうストレスを感じているのだろう。
「課長、大丈夫ですか? 顔色が良くありませんけど……」
雅也が声を掛けると、団野は「ああ、私は大丈夫ですよ」と弱々しく答える。
「とにかく、いまはダンジョン攻略が成功するのを祈るしかないです。住人から問い合わせがあったら、対応をお願いしますね。須藤さん、塚口さん」
団野の言葉に、雅也は「はい」と答え、塚口も「任せて下さい!」と力強く返した。
◇◇◇
攻略二日目――A級ダンジョンの前に、昨日と同じように冒険者が集まっていた。 居並ぶ面々の前に歩み出たのは、東京支部の冒険者、山神だった。
「みなさん、聞いて下さい! 今日で最奥の間にいるボスを倒し、このダンジョンを攻略します。過去のA級ダンジョンのデータを参考にする限り、ボスは【スケルトンナイト】であると推測できます。
東京支部の
全員に行き渡ると、山神が再び口を開く。
「そのボールの中には、特殊な粘着液が入っています。モンスター投げれば、中身が飛散し、相手の行動を抑制する効果があります。完全に足止めすることはできませんが、多少であってもモンスターの動きが遅くなれば儲けものです。ボス戦は我々、東京支部の人間が前に出ますので、みなさんには周囲からサポートをお願いします。ボールはそのための道具と考えて下さい」
山神の話を聞き終え、相川は改めてオレンジ色のボールを見る。
確かに、A級ダンジョンのボスともなれば、自分たちのようなB級、C級の冒険者は足手まといになるだろう。
これで少しでも役に立て、ということか。
若干、気に
午前十時――攻略隊は東京支部の冒険者を先頭に、ダンジョンへと入っていく。
二度目の探索、今日で決着をつけなきゃな。と相川は軽快に足を進めた。