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第36話 最強クラスのアンデッド

 五時間ほどかけ、攻略隊はダンジョンの最奥に辿り着く。

 カイトは大きな鉄の門扉を見上げ、ひとつ息を吐いた。

 ここまで多くのスケルトンが立ちはだかってきたが、東京支部以外の冒険者が奮起し、協力しながら倒してきた。

 そのため、カイトや山神たちは魔力消費を最小限に抑えることができた。


 ――ボス戦は僕らが頑張らないと。


 カイトは山神と宮内の顔を見る。二人がコクリと頷いたので、カイトが門扉に手をつけ、ゆっくりと押した。

 唸り声を上げながら、鉄の扉は徐々に開く。

 足元に白いモヤが流れ出し、周囲の気温が一気に下がった。東京支部のカイト、山神、宮本が先に入り、あとから他の冒険者が続く。

 荘厳そうごんな彫刻がなされた壁や柱が目を引く部屋。神殿のような空間だ。

 モンスターの気配はない。カイトは足を進め、部屋の中央に向かう。凄まじい魔力が漂っているため、モンスターは近くにいるはずだ。

 冒険者は全員が油断なく武器を構えている。そんな彼らの見上げる先、天井付近で白い煙が渦巻いた。 


「なんだ!?」


 山神は眉根を寄せて天井を睨む。渦巻いた煙の中から現れたのは、黒い外套がいとうを被ったスケルトンだ。手には大鎌を持ち、足はなく、空中を揺蕩たゆたっている。

 その姿に、カイトは言葉をなくした。

 戦ったことはないが、噂で聞いたことのあるモンスター。カイトは一歩、二歩とあとずさり、隣に山神に目を向けた。


「山神さん。あれって、まさか……」

「ああ、ここはアンデッド系のダンジョンだからな。あの小汚いスケルトンは、間違いなく〝レイス〟だ!」


 その場にいた冒険者全員が息を飲む。カイトは天井に目を向けた。

 レイスはアンデッド系最強クラスのモンスターだ。S級ダンジョンにいることが確認されており、討伐に際して何人もの上位冒険者が死んでいる。

 そのモンスターが、まさかA級ダンジョンのボスとして現れるなんて。

 隣にいた山神は苦笑いし、槍の穂先を上に向けた。


「やれやれ、スケルトンナイトが出て来ると思ってたのによ。とんでもないのが出てきやがった。これは気合いを入れないとな!」


 山神が矛先に魔力を集めた瞬間――レイスの姿が煙のように消える。


「なっ!? どこにいきやがった?」


 山神やカイトは慌てて周囲を見回す。すると、他県の冒険者の真上にレイスが出現した。驚く間もなく、冒険者の一人が鎌で斬り裂かれ、もう一人にも鎌が振り下ろされる。

 現場は大混乱におちいった。逃げ惑う冒険者たち。

 山神が「落ち着け!」と叫ぶが、パニックは収まらない。何人かの冒険者は、事前に渡されたカラーボールを放り投げていた。

 レイスはまた煙のように消えてしまったため、カラーボールは冒険者たちの足元に落ち、粘着液で動けなくなる者が続出する。


「まずいですよ。このままじゃ……」


 カイトは歯噛みして山神を見る。山神は「くそっ」と舌打ちして中折れ帽の位置を直した。


「この混乱は収まらないだろう。俺たちだけでレイスを倒すしかない! 行くぞ、カイト! 宮本!!」 

「はい!」

「任せて!」


 三人はレイスに向かって突っ込む。Sランクダンジョンにいる強力なモンスター。自分たちだけで倒せるか不安はあったが、他の冒険者を置いて逃げる訳にはいかない。

 カイトは剣に氷の魔力を流し、上段に構えて振り下ろした。

 冷気の刃がレイスに向かって飛んでいく。黒い外套の一部に当たり、急速に凍って弾けた。だが、本体に当たってないため、ダメージが入らない。


「くそっ!」


 今度は宮本が地面を蹴って飛びかかる。右拳に炎を灯し、レイスに殴りかかった。しかし、レイスはまたしても煙のように消えてしまう。

 空振りした宮本は「あわわ」と気の抜けた声を出して地面に落下する。

 やはり直接攻撃してもとらえきれない。カイトがもう一度〝冷気の刃〟を放とうとした時、山神が槍を引いて一気に突き出す。

 穂先に集まっていた風の魔力が竜巻となり、宙に浮かぶレイスに襲い掛かった。

 強力な魔力の攻撃。当たればただでは済まないだろう。だが、レイスは竜巻を軽やかにかわし、大釜を振り上げた。

 煙にならなくても、かなりの速度で動けるようだ。

 レイスの大鎌と山神の槍が衝撃音を鳴らしてぶつかり合う。レイスは鎌を引き、今度は横に薙いだ。

 山神はこれを防ぐが、動きはレイスのほうが速い。このままではやられてしまう。 危機感を覚えたカイトは〝冷気の刃〟を放つ。直撃したと思った刹那、レイスはましても煙となって消えた。

 こんなに倒しにくいモンスターは初めてだ。

 カイトは剣を正眼に構えつつ、周囲に意識を向ける。次はどこから現れる? どこだ! どこにいる!?

 あせるカイトを嘲笑あざわらうかのように、レイスは頭上で形を成す。

 大きく振りかぶった大鎌が落ちてきた。


 ――かわせない!


 カイトが絶望した瞬間――宮本の声が飛んでくる。


「そうはさせないよ!!」


 宮本が跳び上がり、鎌を蹴り飛ばした。間一髪、難を逃れたカイトは体勢を立て直し、レイスに剣を向ける。


「ありがとうございます。宮本さん」

「お礼はあいつを倒してから言ってよね」


 ふふふと笑う宮本を見て、カイトも笑みを零した。緊張で硬くなっていたようだ。山神も横に並び、三人で空中に揺蕩たゆたうモンスターを睨む。

 穂先に魔力を込めた山神は、隣にいるカイトと宮本に目を向けた。


「あいつは半端な攻撃じゃ倒せない。全力でぶつかるぞ! 出し惜しみなしだ。魔力は全部使い切れ!!」


 カイトは「はい!」と応じ、宮本は「最初からそのつもりだよ」と返す。

 三人は武器にありったけの魔力を込め、地面を蹴って走り出した。

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