時刻は夜の十時を回った。
役場には何人もの警察官と、陸上自衛隊員が駆けつけていた。山梨の北富士駐屯地から来たのだろう。
雅也は心の底からホッとした。
これだけ武器を持った人たちが役場の守ってくれるなら、自分などいなくても充分安全だ。
――正直、強いモンスターとは戦いたくなかったからな。警官や自衛隊員がいるんだ。私の出番はないだろう。
雅也が肩の荷を下ろしていた時、遠くから悲鳴のような声が聞こえてきた。
「なんだ?」
役場の入口前にいた警官や自衛官が一斉に動き出す。雅也もあとを追うように、東側にある駐車場に向かった。
そこで見たのは、人型のスケルトン二体と動物型スケルトン一体。
ダンジョンから抜け出したモンスターだ。その三体と向かい合っていたのは、山梨支部に所属するD級冒険者二人。
大して強いモンスターではない。あの二人に任せておけば大丈夫だろう。
雅也は楽観的に考えていたが、冒険者二人は予想外に苦戦していた。襲い掛かってきたスケルトンたちにタコ殴りにされ、噛みつかれている。
悲鳴を上げ、逃げだそうと藻掻いていた。
警官や自衛官が慌てて銃を向け、発砲する。だが、スケルトンたちは動きを止めず、平然とした様子でこちらに向かって来た。
全員がパニックに
――あれぐらいのモンスターなら、そんなに苦戦しないと思うけど……。
雅也は前に出た。両手に〝水流剣〟を持ち、スケルトンに向かって駆け出す。
警官の横をすり抜け、銃を構える自衛官に声を掛ける。
「私がやります! 撃たないで下さい」
「あ、ああ……」
男の自衛官は少し驚いた様子で銃を下ろした。雅也が水の剣を持っていたため、冒険者だと気づいたのだろう。
雅也は両剣を交差して構え、同時に振り下ろす。
水の刃がクロスして飛んでいく。人型のスケルトンに当たると骨を斬り裂き、木っ端微塵に吹っ飛ばした。
もう一体の人型スケルトンにも剣を振り下ろす。
水の剣はすっと骨を斬り、上半身と下半身を別つ。地面に倒れたスケルトンが動くことはなかった。
「やっぱり弱いな。なんで銃が効かなかったんだろう?」
最後に残っていたのは動物型のスケルトン。虎のように見えて強そうだが、
逃がすわけにはいかないので、雅也は走り出した。
虎のスケルトンは身をひるがえし、
恐ろしい速さで飛んでいった〝刃〟は虎の尻にぶつかり、派手に弾けた。
水流剣の威力が上がっているようだ。怪物の体はバラバラになり、地面に倒れて転がっていく。近づくと、まだ上半身は形を保っていた。
前足を動かし、なんとか逃げようと藻掻いている。
雅也は剣を振るい、虎の頭蓋骨を砕く。スケルトンは動かなくなり、白い煙となった消えていった。
「なんとか無事に倒せたな」
雅也は水流剣を消し、手で
「須藤さん、すごいですよ! スケルトンをあんなにあっさり倒すなんて。魔法が使えるなら言って下さい。ビックリしちゃいました!」
声を掛けてきたのは山梨支部の田中だ。冒険者登録試験の時、一緒に合格したのでよく覚えている。
雅也は「すいません。そこまで気が回らなくて」と頭を下げる。
田中は
「いえ、須藤さんのおかげでスケルトンを倒すことができました。このモンスターは魔法以外の攻撃が効きにくいですよ。魔法が使える須藤さんは貴重な戦力です」
「そうだったんですか。それは知りませんでした」
なるほど、と雅也は納得した。そんな特徴があるモンスターなら、魔法が使えない冒険者が苦戦したり、銃弾が効かなかったのも当然だ。
――魔法が使えるようになっていて助かった……。そうじゃなきゃ、私もそうとう苦戦しただろう。
警官や自衛官からも感謝の声を掛けられ、雅也は恐縮する。単に魔法が使えたので倒せたが、スケルトン自体はそんなに強くない。
相川や大野なら簡単に倒したはずだ。
とはいえ、いま魔法を使えるのは自分しかいない。前面に出て戦うしかないか。
「またスケルトンが出てきたら、私が相手をします。みなさんはサポートをお願いします」
全員が納得し、それぞれが配置につく。スケルトンを見つけ次第、雅也に合図を送ることで合意した。
雅也は役場の前で夜空を見上げた。
午後十一時を回っている。今夜は徹夜だろうか、と思っていると、星空をなにかが横切った。雅也は目を擦ってもう一度見る。
間違いなく、
空を
強い魔力を感じる。近づいてきたモンスターは、黒い
周囲からも声が聞こえてくる。他の人も、このモンスターに気づいたらしい。被害が出ないよう、早く倒さないと。
雅也は左手にも水流剣を持ち、二刀の剣を交差して構える。
闇に浮かぶ死神は、こちらを睨んで、ゆっくりと鎌を持ち上げた。