目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第40話 死神スケルトン

「須藤さん!」


 後ろから冒険者の田中が叫ぶ。雅也は振り返らず、「ここは私が相手をします! みなさんは下がっていて下さい!」と言い、両手に〝水流剣〟を生み出した。

 死神が向かって来る。雅也は両剣をクロスに構え、思い切り振るった。

 重なり合った斬撃がスケルトンに襲い掛かる。当たった、と思った瞬間――死神は煙のように消えてしまった。


「なに!?」


 雅也は戸惑って周囲を見渡す。だが、どこにも死神の姿はない。

 その時、後ろから悲鳴が上がった。雅也が目を向けると、集まっていた人々の頭上に突如、死神が現れる。

 大鎌を容赦なく振り下ろし、警官や自衛官を斬りつけていく。


「やめろ!!」


 雅也は地面を蹴り、助けに行こうとする。雅也の目に映ったのは、剣で死神に斬りかかった田中の姿だ。

 他の人を助けようと剣を振り回す。

 だが、死神は軽やかに剣をかわし、下段から鎌を振り上げた。


「あがっ!」


 田中の胸が斬り裂かれる。真っ赤な鮮血がほとばしり、背中から地面に倒れた。雅也は「田中さん!!」と大声で叫ぶ。

 顔を歪めて動かなくなった田中。雅也は歯を食いしばり、右の剣を振るった。

 水の斬撃がちゅうを走り、スケルトンの大鎌に当たる。水は盛大に弾け、死神は後ろに吹っ飛んだ。


 ――水魔法は効くんだ! このまま押し切る!!


 雅也は死神に向かって突っ込む。剣を振るうが、また煙となって消えてしまう。 こんなにとらえにくいモンスターがいるなんて。雅也は視線を走らせ、死神の姿を探した。

 煙が渦巻き、今度は自衛官の頭上に現れる。

 死神は大鎌を振り上げ、まだ気づいていない人々を斬りつけようとする。

 雅也は【亜空間】の穴を空けた。その穴に剣を突っ込むと、水流剣の切っ先が死神の胸を突く。

 水が弾け、モンスターをね除ける。

 この攻撃には、死神も驚いたようだ。警戒するように辺りを見回し、空中を蛇行しながら移動する。


 ――そんなことをしても逃げ切れないぞ!!


 雅也は正面に無数の〝穴〟を空けた。水流剣を素早く突き刺し、死神に何度も攻撃を仕掛ける。腕や顔、鎌や胸に突きが当たった。

 やはり、この攻撃は避けられないようだ。

 死神はダメージを受けたようで、よろめきながら落ちていく。周囲の人々はパニックにおちいり、我先にと逃げ始めた。

 何人かは重傷者と一緒に逃げている。


 ――避難してもらったほうがありがたい。戦いやすくなる。


 雅也はそう考え、再び死神に目を向けた。

 外套がいとうを被ったスケルトンはこちらを睨み付け、鎌を振り上げ突っ込んできた。雅也は両剣を構え、クロスの斬撃を放つ。

 相手に直撃すると思った刹那――死神は煙となって消えてしまう。

 またか! と歯噛みした時、背後に気配を感じた。死神が現れたのだ。きっと、いまにも大鎌を振り下ろそうとしている。

 これはかわせない。だが、避ける方法はある。

 雅也は足元に亜空間の穴を空けた。体がスッポリと穴に落ち、次の瞬間には死神の背後に回った。


 ――特殊な移動ができるのは、お前だけじゃない!!


 水流剣の斬撃が死神に直撃する。死神スケルトンの腕は粉々に砕け、吹っ飛んで地面に激突する。これはさすがに効いただろう。

 雅也が着地すると、死神はふらふらと空に浮かぶ。 


「あいつ、逃げる気か!」


 剣を引き、思い切り振って〝水の刃〟を生み出す。空を駆ける刃は相手の背中をとらえたが、またしても煙となって消えてしまう。

 その後、死神は姿を見せなかった。


「逃げられたか……」


 もう少しで倒せそうだったのに、残念だ。雅也は水流剣を消し、役場内に避難した警官や自衛隊の元に足を向けた。

 とりあえず、当面の安全は確保できただろう。


 ◇◇◇


 その夜、雅也たちは徹夜で警備を続けた。

 スケルトンたちが再び襲って来ることはなかったが、気を抜く訳にはいかない。この周辺には、多くのモンスターが跋扈ばっこしているのだ。

 雅也は目を擦って頭を振る。いまは役場内の正面入口にいた。

 外では自衛官が見回りをして、なにかあったら銃声で知らせる手はずになっている。そのほうが効率的だろう、と自衛隊の隊長から提案があったからだ。

 雅也も納得し、他の冒険者と共に待機していた。


 ――でも、田中さんが重傷で寝込んでるからな。私を含めて冒険者は三人。人手が足りない。全然、足りてない。


 溜息しか出てこないが、愚痴っても仕方ない。

 眠気を振り払ってガラス窓の向こうを見ていると、後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこにいたのは課長の団野だ。


「須藤さん、お疲れ様です。大丈夫ですか? 寝てないみたいですけど……」

「ええ、大丈夫です。警察や自衛隊の人たちもいますし、私だけが疲れてる訳じゃありませんから」

「いま、軽食の用意をしています。少し休んで下さいね」

「ありがとうございます」


 避難者の元に戻って行く団野を見送りながら、雅也は息をはく。

 この役場に避難している人は高齢者が多い。体力的にもキツいだろうから、早く家に帰してあげたいけど……。

 雅也がそんなことを考えていると、外が騒がしくなってきた。

 見張りに出ている自衛官が声を上げている。モンスターが来た訳ではなさそうだけど、なにかあったのだろうか? 雅也は入口に目をやる。

 すると、多くの人間が歩いて来るのが見えた。怪我人がいるようで、肩を貸しながら歩いて来る者もいる。

 雅也は「あ!」と声を出し、走って役場の外に出た。


「相川さん、大野さん! 加賀さんも!!」


 A級ダンジョンの攻略隊がここまで戻って来たんだ。雅也は傷だらけになった相川たちに駆け寄る。


「大丈夫ですか? 相川さん、血が出てますけど……」

「ああ、須藤さん。ここにいたんだね。大丈夫、あたしたちは大した怪我をしてないから。ただ……」


 疲れた表情の相川が視線を動かす。雅也も釣られて目を向けた。

 そこには如月きさらぎカイトと女性に肩を借り、顔をしかめながら歩く男性がいた。確か、東京支部の山神だったか。

 息も絶え絶えといった様子だ。大丈夫だろうか?

 二十人ほどの集団は役場の中に入り、怪我人は手当を受けることになった。回復魔法を使える冒険者が大怪我を負ったらしい。

 雅也は野戦病院と化したフロアを見渡し、凄惨な光景に息を飲んだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?