役場の職員や避難してきた医者が怪我人の治療にあたる。
いまの状況では、近くの病院に運ぶのも困難だ。ここで攻略隊を休ませるしかないのだろう。
雅也も攻略隊に水や食料を配りつつ、役場の外にも意識を向ける。
モンスターがいつ襲って来てもおかしくないからだ。
正午が近づき、現場はやや落ち着いてきた。雅也が息をついていると、塚口が「大変です、大変!」といつもの調子で階段を下りてきた。
「どうしたんですか? 塚口さん」
雅也が
連れて行かれたのは生活支援課のオフィスだ。
団野を始め、生活支援課の職員がテレビの前に集まっていた。雅也が足を運ぶと、団野が振り向いてこちらを見る。
「ああ、須藤さん。甲府が大変なことになってるみたいで……」
「甲府……ですか?」
雅也はテレビに目を向ける。そこには緊急のニュース速報が流れていた。女性のアナウンサーが実況中継をしている。
『こちらが現場になります。多くの冒険者が警戒にあたっていますが、モンスターの姿は見えません。しかし、ここ甲府にモンスターが集まって来ているとの情報があり、極めて危ない状況と言えます』
『朝池さんも危険ですから、すぐに避難して下さいね』
『はい、私も避難所に向かいたいと思います。以上、現場からお伝えしました』
映像はスタジオに切り替わり、専門家やコメンテーターが議論を始める。雅也は顔をしかめた。
甲府は真紀が避難している場所だ。どうしてそこにモンスターが……。
「人が多いからだね」
突然、後ろから声を掛けられ、雅也は慌てて振り返る。そこには顔に絆創膏を貼った相川が立っていた。
「相川さん。人が多いからって、どういうことですか?」
雅也の問いに、相川は腕を組んでから口を開く。
「ダンジョンから出てきたモンスターは、人間を襲う習性があるんだよ。それが本能なのかは分からないけど、とにかく人が多いところに向かう。山梨で一番人が多いのが甲府だからね。必然的にそっちにいっちゃうよ」
「そうなんですか……甲府には娘が避難してるのに……」
雅也のつぶやきを聞いて、相川は目を丸くする。
「娘さんがいるの!? だったら須藤さん、そっちに行ったほうがいいよ」
「え? でも、ここの警備が……」
「なに言ってるの! 怪我をしてるとはいえ、上位の冒険者が二十人以上もいるんだよ。ここの警備はいいから須藤さんは甲府に向かって! こっちも準備ができ次第、隊を編成して甲府に向かうから」
相川に背中を押され、雅也は意を決して顔を上げる。
「分かりました! ここはお願いします」
団野にここを離れることを伝えなければ、と思い、雅也は振り返ったが、そこにはすでに団野と塚口がいた。
「須藤さん、娘さんが甲府にいるんですよね。すぐに行って下さい」
団野も力強く背中を押してくれる。隣にいた塚口も「お父さんが頼れるってところを、娘さんに見せてあげて下さい!」と満面の笑みを浮かべた。
雅也は「ありがとうございます!」とお礼を言い、
街中では轟雷覇王撃など、強力なスキルは使えない。そんな自分が甲府に行っても大して役に立たないかもしれない。
それでも娘の側に行きたいと思うのは、親として当然だろう。
雅也は階段を駆け下り、役場の入口から外に出る。駐車場に向かいつつ、ポケットにある鍵を取り出した。
自分の車の前まで行って、雅也はハタと気づく。
――まてよ。車で行かなくても、いまなら瞬間移動できるかも!
雅也は手を前にかざし、亜空間の穴を空ける。甲府には何度か行ったことがある。イメージで空間を
正面に空いた穴は、体を通すのに充分な大きさになった。
やっぱり、【亜空間操作】の扱いが向上してるんだ。穴の先には塀や電柱が見える。たぶん、甲府の街だ。
雅也は頭から穴に飛び込み、でんぐり返しの要領で一回転してから立ち上がる。
辺りを見回すと、見覚えのある光景が広がっていた。前に来た甲府の街だ。
「本当に成功した。けっこう距離があっても大丈夫なんだ……」
現実味がなく、しばらく放心してしまったが、こんなことをしてる場合じゃないとかぶりを振る。
「真紀を助けに行かないと……甲府の避難所はどこだ!?」
雅也はポケットからスマホを取り出し、走りながら検索する。甲府で避難できる場所は何カ所もある。山梨県庁の別館や甲府市役所、甲府市総合市民会館などだが、どこに真紀が避難しているのか分からない。
何度か連絡を取ろうとしたものの、回線が混雑していて繋がらない。
「くそっ! 取りあえず、近くの避難所に行くしかないか」
いまいるのは、恐らく甲府駅近くの穴切通り。だとしたら、山梨県庁の別館が一番近いはずだ。雅也はスマホで方向を確認しながら、東に向かって走り出した。
すると、すぐにスケルトンの姿を見つける。
二体の人型スケルトンが、一般市民を追いかけていた。雅也は駆け出し、手を前にかざす。ハンドボール大の水球を生み出すと、スケルトンに向かって放つ。
水球は動く骸骨に直撃し、爆発するように弾けた。
スケルトンはバラバラになり、辺りに散らばって動かなくなる。雅也はもう一度水球を生み出し、弾丸のように放ってモンスターを吹っ飛ばした。
水球の威力も上がっているようだ。
追いかけられていた人は、叫びながら逃げて行った。無事で良かったと思いつつ、雅也も足を進める。
走っていると、右の通りから大きなモンスターが迫って来た。
鎧を付けた動物型のスケルトン。見たことのない、かなり大型のモンスターだ。A級ダンジョンの奥にいた個体だろう。
雅也は足を止め、二刀の水流剣を生み出す。
相手と対峙しようとした時、スケルトンの後ろから誰かが走って来るのが見えた。雅也は目を見開く。
「湊崎さん!!」
スケルトンを追いかけていたのは、湊崎と数人の冒険者だった。