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第43話 見覚えのある背中

 敵が動き出す前に仕掛ける! 雅也がそう思った瞬間――役所の敷地にいくつもの魔方陣が浮かび上がった。


「なんだ……あれは?」


 円形の魔方陣から、次々に人型のスケルトンが出てくる。まさか、あれも死神スケルトンの能力なのか!?

 雅也が戸惑っている中、出現したスケルトンが襲いかかってくる。

 この程度のモンスター、相手にならない! 雅也は前に出て水流剣を振るい、二体のスケルトンを斬り裂く。

 さらに向かってくる三体のスケルトンをバラバラに斬り刻んだ。

 やはり、魔法による攻撃なら簡単に倒せる。

 雅也が頬を緩めた矢先、地面に転がっていたスケルトンの骨が動き出す。空中を飛び回り、別の骨と繋がっていく。

 目の前に現れたのは巨大な動物型スケルトン。

 あまりのことに、雅也は口をポカンと開けた。


「スケルトンて……こんなことができるのか!?」


 いや、スケルトンの能力ではなく、あの死神の能力かもしれない。

 だとしたら倒すべきは死神か! 雅也は剣を構え、上空の死神を睨み付ける。その時、背後から衝撃音が聞こえてきた。

 振り返ると、市役所の外壁が崩れ落ち、白く巨大なものが鎌首を持ち上げる。

 一瞬、それがなにか分からなかったが、すぐに理解した。巨大な蛇のスケルトンが頭から市役所に突っ込んだのだ。

 あんなスケルトンもいたのか!? それとも……。

 雅也は再び上空に揺蕩たゆたう死神を見る。あの蛇も、死神が作り出した合体スケルトンじゃないのか? 

 市役所からは、次々と一般人が逃げてくる。

 その中に学生服を着た男女もいた。大きな動物型スケルトンや、巨大な蛇が人々に目を向け、襲いかかろうと動き出した。


 ――そうはさせない!!


 雅也は手に持った剣を何度も振るい、水の刃がいくつも飛ばす。だが、いままでの攻撃とは違う。

 鋭い刃は形を変え、鳥のような姿になって滑空する。

 翼を広げた水の鳥は、地面すれすれを飛んで方向を変えた。動物型のスケルトンに襲い掛かり、衝突して爆発するように弾ける。

 四方八方から来る鳥を避けることができず、動物のスケルトンはバラバラになって地面にした。起き上がることも、再生することもない。


 ――水魔法の威力がどんどん強くなってるんだ! これなら有利に戦える。


 雅也が体の正面に意識を集中すると、ハンドボール大の水球が六つ出現した。

 水球は空中に浮かび、まるで号令を待っているかのようにプルプルと震えている。雅也が「ハッ!」と気合いを発すると、六つの水球は一斉に飛んでいった。

 凄まじい速度で巨大な蛇スケルトンにぶち当たる。

 白い骨は砕け、破片が地面に落ちてくる。蛇スケルトンは地響きのようなうなり声を上げた。怒り狂った蛇スケルトンは地面を這って向かってくる。

 雅也は正面から蛇を見据え、両手に持った水流剣を地面に叩きつけた。

 コンクリートが割れ、地下から間欠泉のような水が噴き出す。蛇スケルトンの頭を砕き、飛び散った骨が辺りに落ちる。

 蛇のスケルトンも再生せず、動かなくなった。


「やった……強力なスキルを使わなくても、水魔法だけでなんとかなりそうだ」


 こんな街中では爆発や雷撃、猛毒のスキルなど使えるはずがない。暗黒樹やガイアなどは街そのものを破壊してしまう。

 雅也は一つ息をはき、振り返って避難してくる人たちを見やる。

 その中に学生服を着た集団がいた。真紀の学校の制服に似ている。雅也は人垣ひとがきをかき分け、学生たちの元に向かうと、すこし先に真紀の姿を見つけた。


 ――やっぱり、ここに避難していたのか!


 真紀の隣には親友の立花美鈴もいた。二人は不安そうな顔で、市役所から離れようとしている。雅也は「お~い!」と声を上げるが、混乱している周囲の声に掻き消され、真紀たちには届かない。

 走って近づこうとした時、真紀の近くで煙が渦巻いた。

 突如出現したのは大鎌を振り上げたスケルトン。あの死神が襲ってきたのだ。雅也は「真紀!!」と絶叫する。

 ここからでは間に合わない。

 そう思った瞬間――雅也は正面に【亜空間】の穴を開けた。 


 ◇◇◇


 真紀は必死で走った。隣にいる美鈴と手を繋ぎ合い、多くの人と一緒に庁舎の外に逃げる。

 市役所に避難していたのに、化け物が建物の中にまで入って来た。

 いままでテレビの中でしか見たことのなかった恐ろしい怪物たち。そんな怪物が目の前に現れたのだ。

 真紀だけでなく、避難していた人たちも全員がパニックにおちいっている。


 ――カイト君、助けて! お願い、ここまで来て!!


 真紀は祈るような思いで手を胸に当て、美鈴と共に走り続ける。その時、背後から悲鳴が聞こえてきた。

 思わず振り返る。そこには恐ろしい光景があった。

 大きな鎌を持った怪物が、避難している人たちを斬り裂き、こちらに向かって来る。黒いフードを被った姿は、まるで死神のようだ。

 逃げなきゃ……逃げなきゃ殺される! 真紀は前を見て、必死で足を動かした。

 恐怖で呼吸が乱れ、息が止まりそうになる。それでも止まる訳にはいかない。

 美鈴と一緒に逃げ切らないと――そう考えた思いとは裏腹に、足がもつれて転んでしまう。


「真紀!」


 美鈴が手を引いてくれたが、すぐには立てない。ほんの少しまごついているうちに、死神は眼前にまで迫ってきた。

 大きな鎌を振り上げ、こちらを見下ろす。

 もうダメだ。助けて、カイト君……………………お父さん。

 真紀と美鈴は目をつぶり、体を硬くしてうずくまった。死を覚悟した二人だが、しばらくしてもなにも起こらない。

 真紀が恐る恐る目を開けると、自分たちの前に誰かが立っていた。

 背中をこちらに向け、死神が持つ鎌のを掴んでいる。真紀はその背中に見覚えがあった。


「……おとう……さん?」


 父親は振り返ることなく、右の拳を引く。


「うちの娘に……手を出すな!!!!!」


 目の前の死神を殴りつけた。死神は吹っ飛び、なぜか水飛沫が顔にかかる。

 父親はゆっくりと振り返り、いつもと変わらない、穏やかな表情を向けてきた。

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