水の龍は巨大スケルトンの肋骨を粉砕し、背骨を破壊して体を通り抜けていく。
空を駆け上り、こちらを見下ろす死神に襲い掛かった。だが、
「魔力を追って敵を
腕を振るうと、水の龍は上空を旋回し、一気に下降してきた。雅也の背後で煙が渦巻き、死神が姿を現す。
大鎌を振り上げる気配が伝わってきたが、問題はない。
空を泳ぐ龍が猛然と向かって来たからだ。死神に食らいつき、そのまま地面に叩きつける。龍は爆発するような水飛沫となって飛散した。
死神は役所の外壁まで吹っ飛ばされる。
雅也は冷静に手をかかげ、水球を生み出す。バスケットボールより一回りは大きい水球。「ハッ!」と叫ぶと、死神に向かって猛烈なスピードで飛んでいった。
起き上がろうとする死神に直撃し、破裂してさらにダメージを与える。
――水魔法はかなり扱えるようになってきた。これなら押し切れる!
雅也は両手に〝水流剣〟を生み出し、地面を蹴って走り出す。
雅也は足を止め、一歩後ろに下がる。
光の魔方陣から現れたのは、鎧を着た人型のスケルトン。百体以上はいる。一体、一体が剣を持ち、目玉のない眼底をこちらに向ける。
一斉に駆け出す骸骨の軍団に雅也はたじろいだ。
だが、雅也はすぐにハッとする。死神がいなくなっている。スケルトンに気を取られていたせいで、死神から目を離してしまった。
その間にまた煙になって消えたんだ! 雅也が危機感を覚えた時、背後に音もなく死神が現れる。雅也が振り向くと、大鎌が目の前に迫る。
容赦のない斬撃。だが、雅也は
死神が左右を見回し戸惑う中、背後に開いた亜空間から雅也が現れる。水の剣を振るって死神の腕は砕く。死神は慌てて後ろに飛び退いた。
地面に着地した雅也は剣を構えて死神を睨む。
「私も自由に移動できる。お前に勝ち目はない!」
剣の切っ先を向けると、死神は唸るような声を上げた。周囲にいたスケルトンたちが集まって来る。
雅也は両手に持つ〝水流剣〟に意識を向けた。
水の剣はブルブルと震え出し、湧き上がるように剣身が伸びた。二メートル五十はあろう剣を構え、雅也は走り出す。
スケルトンの軍勢に突っ込む刹那――雅也は小さく声を発した。
「――神気解放!」
雅也の体が金色の輝きに包まれる。身体能力が百倍になるスキル。
力が上がりすぎて体が壊れる可能性もあるが、こちらの魔力が切れる前にヤツを倒さなくては!
雅也は力をセーブしつつ神気解放を使うことにした。
全てのスケルトンが止まって見える。雅也が剣を振るうと三体のスケルトンが吹っ飛び、さらに剣を振るうと二体のスケルトンが両断された。
鎧を着ているが関係ない。威力を増した水流剣の前に、スケルトンは為す術なくバラバラに砕けていく。
神気解放により、雅也の速度も尋常ならざるものとなった。
電光石火の速さでスケルトンの合間を駆け抜け、集団の最後尾を抜ける。百体はいたスケルトンが全て斬り裂かれ、地面に崩れ落ちていく。
再生する者はいない。やはりこちらの魔力が強いのだ。
「あとはお前だけだ、死神!」
雅也は剣を構え、空に
◇◇◇
湊崎は県道6号線を南下し、甲府市役所の前に辿り着く。
そこには無数のスケルトンが
――須藤さんだ! 須藤さんがスケルトンと戦っている。
湊崎は他の冒険者と共に須藤を助けようと足を速める。だが、視界に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。
須藤が恐ろしい速さで駆け回り、手に持った長い剣でスケルトンを薙ぎ払っている。
途轍もない速さで動くため、他の冒険者はなにが起きているのか分からないようだ。確かに須藤の戦い方を知らない者からすれば、スケルトンの骨が砕け、宙を舞っているようにしか見えないだろう。
数十体はいた骸骨の軍勢が、白い破片となって地面に散らばっている。
須藤は空中に浮かぶ黒いモンスターと睨み合っていた。あれはかなり上位のモンスターだろう。
加勢しなくては! そう思ったのは湊崎だけではなく、周りの冒険者も同じだった。
「あの上空のモンスターに攻撃するんだ!」
「魔法をぶち当てれば一発だろう!!」
「全員、狙いをつけて魔法を放て!!」
冒険者たちが湊崎の前に
魔法が着弾した瞬間――光が弾けて爆発が起こった。
湊崎は腕を上げ、爆風と衝撃を防ぐ。相当な威力の攻撃、これならモンスターも無事では済まない。
目をすがめながら、湊崎は光に飲まれた影を見やった。
◇◇◇
雅也は上空の死神に〝水の刃〟を放とうと剣を構えた。
その時、少し離れた場所から声が聞こえてくる。見れば、数人がこちらに向かって来ていた。逃げていった一般人ではない。
先頭にいるのは湊崎だ! だとしたら応援に来た冒険者か。
嬉しくなった反面、ここに来るのは危険だとも感じた。この死神はかなり強い。加賀や相川のようなベテラン冒険者ならまだしも、湊崎では手に余るだろう。
そんな雅也の心配を吹き飛ばすかのように、冒険者たちは次々と魔法を放った。 魔法が使えるのなら、そこそこ強い冒険者ということか。
雅也は一歩下がって上空を見る。
魔法が当たる刹那――死神は持っていた鎌を振るい、炎や雷、水といった魔法を薙ぎ払っていく。魔法は弾け、上空で爆発したように散った。
辺りは煙に覆われ、視界が悪くなる。
――あいつはどこに行った!? また煙のように消えたのか?
雅也は周囲を警戒し、左右を見回す。すると、背後に気配を感じた。死神が後ろに回ったのだ。この距離ではかわせない。
雅也が振り向くと同時に、死神は持っていた大鎌を振り下ろした。