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第45話 父親VS死神

 水の龍は巨大スケルトンの肋骨を粉砕し、背骨を破壊して体を通り抜けていく。

 空を駆け上り、こちらを見下ろす死神に襲い掛かった。だが、外套がいとうまとった死神は、またしても煙のように消えてしまう。

 鬱陶うっとうしい能力だが、雅也に焦りはなかった。


「魔力を追って敵をとらえろ!」


 腕を振るうと、水の龍は上空を旋回し、一気に下降してきた。雅也の背後で煙が渦巻き、死神が姿を現す。

 大鎌を振り上げる気配が伝わってきたが、問題はない。

 空を泳ぐ龍が猛然と向かって来たからだ。死神に食らいつき、そのまま地面に叩きつける。龍は爆発するような水飛沫となって飛散した。

 死神は役所の外壁まで吹っ飛ばされる。

 雅也は冷静に手をかかげ、水球を生み出す。バスケットボールより一回りは大きい水球。「ハッ!」と叫ぶと、死神に向かって猛烈なスピードで飛んでいった。

 起き上がろうとする死神に直撃し、破裂してさらにダメージを与える。


 ――水魔法はかなり扱えるようになってきた。これなら押し切れる!


 雅也は両手に〝水流剣〟を生み出し、地面を蹴って走り出す。

 とどめを刺す! そう考えた瞬間――周囲の地面が輝き出した。無数の魔方陣が光と共に浮かび上がっているのだ。

 雅也は足を止め、一歩後ろに下がる。

 光の魔方陣から現れたのは、鎧を着た人型のスケルトン。百体以上はいる。一体、一体が剣を持ち、目玉のない眼底をこちらに向ける。

 一斉に駆け出す骸骨の軍団に雅也はたじろいだ。

 だが、雅也はすぐにハッとする。死神がいなくなっている。スケルトンに気を取られていたせいで、死神から目を離してしまった。

 その間にまた煙になって消えたんだ! 雅也が危機感を覚えた時、背後に音もなく死神が現れる。雅也が振り向くと、大鎌が目の前に迫る。

 容赦のない斬撃。だが、雅也は忽然こつぜんと姿を消した。

 死神が左右を見回し戸惑う中、背後に開いた亜空間から雅也が現れる。水の剣を振るって死神の腕は砕く。死神は慌てて後ろに飛び退いた。

 地面に着地した雅也は剣を構えて死神を睨む。


「私も自由に移動できる。お前に勝ち目はない!」


 剣の切っ先を向けると、死神は唸るような声を上げた。周囲にいたスケルトンたちが集まって来る。

 雅也は両手に持つ〝水流剣〟に意識を向けた。

 水の剣はブルブルと震え出し、湧き上がるように剣身が伸びた。二メートル五十はあろう剣を構え、雅也は走り出す。

 スケルトンの軍勢に突っ込む刹那――雅也は小さく声を発した。


「――神気解放!」


 雅也の体が金色の輝きに包まれる。身体能力が百倍になるスキル。

 力が上がりすぎて体が壊れる可能性もあるが、こちらの魔力が切れる前にヤツを倒さなくては! 

 雅也は力をセーブしつつ神気解放を使うことにした。

 全てのスケルトンが止まって見える。雅也が剣を振るうと三体のスケルトンが吹っ飛び、さらに剣を振るうと二体のスケルトンが両断された。

 鎧を着ているが関係ない。威力を増した水流剣の前に、スケルトンは為す術なくバラバラに砕けていく。

 神気解放により、雅也の速度も尋常ならざるものとなった。

 電光石火の速さでスケルトンの合間を駆け抜け、集団の最後尾を抜ける。百体はいたスケルトンが全て斬り裂かれ、地面に崩れ落ちていく。

 再生する者はいない。やはりこちらの魔力が強いのだ。


「あとはお前だけだ、死神!」


 雅也は剣を構え、空に揺蕩たゆたう死神を睨み付けた。


 ◇◇◇


 湊崎は県道6号線を南下し、甲府市役所の前に辿り着く。

 そこには無数のスケルトンが闊歩かっぽしており、その集団と戦う冒険者がいた。


 ――須藤さんだ! 須藤さんがスケルトンと戦っている。


 湊崎は他の冒険者と共に須藤を助けようと足を速める。だが、視界に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。

 須藤が恐ろしい速さで駆け回り、手に持った長い剣でスケルトンを薙ぎ払っている。

 途轍もない速さで動くため、他の冒険者はなにが起きているのか分からないようだ。確かに須藤の戦い方を知らない者からすれば、スケルトンの骨が砕け、宙を舞っているようにしか見えないだろう。

 数十体はいた骸骨の軍勢が、白い破片となって地面に散らばっている。

 須藤は空中に浮かぶ黒いモンスターと睨み合っていた。あれはかなり上位のモンスターだろう。

 加勢しなくては! そう思ったのは湊崎だけではなく、周りの冒険者も同じだった。


「あの上空のモンスターに攻撃するんだ!」

「魔法をぶち当てれば一発だろう!!」

「全員、狙いをつけて魔法を放て!!」


 冒険者たちが湊崎の前におどり出て、手を上空にかかげた。放たれたのは炎や雷、水や風の魔法。空に浮かぶモンスターに向かい、ほぼ同時に襲い掛かる。

 魔法が着弾した瞬間――光が弾けて爆発が起こった。

 湊崎は腕を上げ、爆風と衝撃を防ぐ。相当な威力の攻撃、これならモンスターも無事では済まない。

 目をすがめながら、湊崎は光に飲まれた影を見やった。


 ◇◇◇


 雅也は上空の死神に〝水の刃〟を放とうと剣を構えた。

 その時、少し離れた場所から声が聞こえてくる。見れば、数人がこちらに向かって来ていた。逃げていった一般人ではない。

 先頭にいるのは湊崎だ! だとしたら応援に来た冒険者か。

 嬉しくなった反面、ここに来るのは危険だとも感じた。この死神はかなり強い。加賀や相川のようなベテラン冒険者ならまだしも、湊崎では手に余るだろう。

 そんな雅也の心配を吹き飛ばすかのように、冒険者たちは次々と魔法を放った。 魔法が使えるのなら、そこそこ強い冒険者ということか。

 雅也は一歩下がって上空を見る。

 魔法が当たる刹那――死神は持っていた鎌を振るい、炎や雷、水といった魔法を薙ぎ払っていく。魔法は弾け、上空で爆発したように散った。

 辺りは煙に覆われ、視界が悪くなる。


 ――あいつはどこに行った!? また煙のように消えたのか?


 雅也は周囲を警戒し、左右を見回す。すると、背後に気配を感じた。死神が後ろに回ったのだ。この距離ではかわせない。

 雅也が振り向くと同時に、死神は持っていた大鎌を振り下ろした。

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