「ライトピラーって、モンスターが出てくるの!」
牧原は驚く。
「だから、今はその周辺が立ち入り禁止になっているでしょ。僕は、実際にモンスターが現れたところ見たしね」
池袋に立っているライトピラー周辺は、五月頃から立入禁止になっていた。
ちなみにライトピラーとは、今年、一月になって直ぐのころ、東京特別区内、三ヶ所に突如発生した構造物で、見た目が光の柱のように見えることから名付けられた。そして、そのライトピラーの一つが池袋駅東口にあった。
「牧原さん、人が良さそうなので言っておくけど、モンスター化したら相手が親兄弟でも殺さないとダメだよ」
霧島は真剣な顔で言った。
「モンスター化した人間、元人間は、親兄弟親友関係なく殺そうとするから。愛する人に人殺しをさせたいかい?」
牧原は、青い顔をしながら顔を横に振った。
「安心してくれ。僕は親も子供もいない。兄弟はいるけど、東京にはいないよ」
牧原は寂しそうに言った。
「それじゃあ、心配なのは友達だけだね。池袋の東口以外で、こんなに魔法石が降ってきたり、モンスターが現れるんだから、魔法少女でない一般人が家の外に出るのは危険だ」
「家の中に居ても危険じゃないの? あの鎌で玄関を破壊されたヤバイ家もあるんじゃない?」
霧島は苦笑いする。
「これはどうしてかは分からないんだけど。あのモンスター、壁を壊したり、扉を壊したりって絶対にしないんだよ。例外として、空を飛ぶモンスターの場合、壁を飛び越えてくることはある。だけど、建物の中にいる場合、扉や窓を開けなければ、入って来ないはずだ」
会話が途切れる。
「なんでライトピラーからモンスターが現れるんだろう」
「人によっていろんなことを言う人がいるけど、僕はモンスターの製造工場だと思うな」
「どうしてそう思うの?」
「中に入ったからね」
「え! 中に入れるの?」
「外壁のどこでも良いんだけど、触ると中に入れる」
「なんでそんなこと知っているの?」
霧島は、「わははは」と笑う。
「細かい事は気にしない」
霧島が誤魔化そうとしているので、牧原はジト目で見る。
ライトピラーの周りは三角コーンとコーンバーで囲われ、ライトピラーに近寄らないように看板が立ててあるので、普通は知りようがない。
「実際に入った感じ、迷路みたいな通路だったし、知らない文字が書かれた看板とか貼ってあったからね」
「工場か……本当だったら、早めに破壊しないとキリがないね」
三十分後、スーパーでの買物を終えて、再び豊島第十高校の校門の近くまで二人は戻って来る。
牧原は、リュックいっぱいの荷物とエコバック一つを左手に持っている。そして、霧島は、牧原に奢って貰ったお菓子とジュースをレジ袋に入れて持っている。
途中大通りを、交通ルールを無視するモンスターが車に轢かれていた。モンスターを轢いても車は停まらず、そのまま轢き逃げしている。車を降りたら、モンスターに襲われる可能性があり、かえって危険だからだ。
完全に無政府状態だった。
基本、車も人間もほとんど交通ルールを守っているのが救いである。
さっき高校生がモンスターに殺された場所に戻ってきた。すると「それじゃあ、ボディガードはここまで」と霧島が突然言った。
「え。家まで送ってくれないの?」
「家、近いんでしょ。だったら良いじゃん。ヤバかったら学校まで来てよ」
そう言うと、手を振って校門の方へ行ってしまう。
「無責任だな」
牧原は憮然として言ったその時、さっきモンスターに殺された高校生の死体が無くなっていることに気付く。
殺された高校生の死体はどこ行ったんだろう?
牧原は、仕方なく自宅の方へ歩いていく。元焼肉屋のおばちゃんのモンスターが車に轢かれた場所にくる。やっぱりモンスターの死体が血塗れで倒れていた。
高校生の死体は無くなっていたのに。
「焼肉屋のおばちゃん。成仏してね」
血まみれの死体を見ていると、額の元魔法石が気になる。
ほんの少しだけど、魔力のような物を感じたからだ。前回、霧島が死体から取ったときのように牧原も取ってみる。すると予想通り、ゲル状の物質になり、悪臭をばら撒いた。
さらに自宅の方へ行くと、中村のおばちゃんの死体が転がっていた。無残な切り傷が付いているのが痛々しかった。
「おばちゃん。成仏してね」
牧原は、そう言うと手を合わせる。
「警察に電話するか」
牧原は、スマホで110番するが、繋がらない。仕方なく、ポケットにスマホをしまう。
本来なら家まで、もう少しである。急いで帰りたいところだが、今は気になることがあった。道端に落ちている魔法石だ。中村のおばちゃんの頭に降ってきて、受け取り損ねた石だ!
牧原は近づいて行ってオレンジ色の魔法石を見る。
魔法石の色は、自分が持っている魔法石とも、霧島の魔法石とも違う色だった。
牧原は一人で二つ目の石を持っても大丈夫なのか不安が全くなかったわけではないが、試しに拾ってみた。我が身に何も起きず、ホッとする。
ここでやることがなくなった牧原は、自宅へと向かう。
牧原は自宅の玄関をあがり、全身が見える鏡に映った自分を見た。
金粉がついているかの様に所々がキラキラ光る黒髪。白を基調にした金色のラインが入った和装の様な服の魔法少女の姿をしていた。
「か、かわいい」
鏡に映る、超絶美少女に見惚れる。そして、すぐに我に返る。
「僕は、可愛い嫁さんが欲しいのであって、可愛い女の子になりたいわけじゃない」