牧原は、自宅のリビングに入ると、やっと安心する。自分が滅茶苦茶可愛い魔法少女になってしまったという現実は、牧原には受入れ辛かった。このまま元に戻れなかったどうしたら良いんだ?
「霧島さんから、元に戻る方法を聞いておけば良かった」
とりあえず、リビングのテーブルの上に二つの魔法石を置いた。すると、世界が急に暗く、狭くなったと感じた。視界が目の前だけになったのだと、すぐに気付く。自分の腕や腰を見ると、服が元に戻っていた。近くにある鏡をみると、元の男に戻っているのが確認できた。ものすごく安堵した。だが、試しにもう一度、虹色に輝く魔法石を手に持って鏡で自分を見ると、黒髪の和装の様な服の魔法少女に再び変身した。
「なんだ。魔法石を体から離せば、元に戻れるんだ」
気分が大分楽になった。
すると現金なモノで、今度は二つ目の魔法石について好奇心が湧いてきた。
オレンジ色の魔法石を手にすると、ゆったりとしたおさげの赤い髪、ベージュ色をベースとした襟や袖などに紅いラインが入っており、黒い帯の和装風の服を着た魔法少女に変身した。
リビングを出て姿見鏡がある部屋まで行き、自身の姿を映してみる。
「か、かわいい」
でも黒い髪の魔法少女の時のように三百六十度の視界はない。やっぱり、黒髪の魔法少女のスキルなのだろうとわかる。しかし、この赤い髪の魔法少女のスキルはなんだかわからない。わかったとしてもどうやって使うのかわからない。魔法石についての手掛かりはほとんどない。おそらく霧島に聞いた方が早いだろう。やることやったら、霧島へ会いに行き、スキルについて聞くことにする。
リビングに戻ると、部屋の静寂を壊すためにテレビをつける。そして、スーパーで買ってきた物を冷蔵が必要な物を冷蔵庫へしまい始める。
牧原が興味の湧かないニュースをテレビは放送していた。しばらくすると、けたたましい音をあげる。急に番組が変り、ニュースキャスターのバストアップの映像に変わる。
さすがに牧原も作業を続けながら、テレビをチラチラ見る。
『東京都知事が都庁舎を脱出し、奥多摩の都施設へ避難しました。そして、その施設から、自衛隊の出動要請と特別区の住民に非常事態宣言を出しました』
そう言うと、画面が切り替わると、大池百合香都知事が記者会見を開いていた。
『特別区23区に対して、非常事態宣言を発出します。自衛隊の出動要請をしております。
特別区の都民の皆様には、自宅に待機し、救助をお待ちください。決して屋外に出ないでください。出た場合、安全は保証できません。
自衛隊が来るまで耐えて頂きたい。自衛隊が必ず助けに伺います』
テレビの中の都知事がそう言うと、アナウンサーの声が被さるような内容に変わる。
「なんだよこれ。家に居ろってこと」
牧原はそう独り言を言う。
「霧島さんは、この宣言の事を知っているのかな? 教えないと。それに二つ目の魔法石のスキルのことを効かないといけないし」
牧原は、買ってきた物を片付けたら、霧島に会うため、豊島第十高校へ行くことにする。
虹色の魔法石を使って、黒髪の魔法少女に変身し、さらにオレンジ色の魔法石をポケットにしまう。そして、豊島第十高校の校門へ向かう。
中村のおばちゃんが、殺された辺りに行くと、すでに死体はなくなっていた。
「どうしたんだろう? モンスターに殺された高校生の死体もなくなっていたし、誰かが運んでいるんだろうか?」
霧島の学校の校門の近くまで来たところで、モンスター二体と遭遇する。今日はモンスターに良く遭遇する日だと思った。そもそもモンスターにあったのも今日が初めてである。前回蹴りを入れても全く効かなかったが、試しに素手で殴ってみた。案の定、ダメージを殆ど与えられなかった。その為、二体のモンスターの攻撃をただひたすら避けるしかない。
しばらく戦っていると斬撃が飛んでくるのに気付いた。自分に当たらない事は分かっていたので、流れ弾に当たらない様注意しながら待つと、二体のモンスターは倒された。
斬撃が飛んできた方向を見ると、案の定、霧島が居た。
「助かりました。まったく攻撃手段がないので、困っていたんだよ」
「攻撃力がないのに一人で歩きまわるのは無謀だよ。武器は持ってないの?」
霧島は呆れた顔で言ったので、牧原は肯く。
「だったら、金属バットを貸し出すよ」
「ところで、都知事が出した、非常事態宣言を知っているかい? 非常事態宣言で、屋内に居るように言われているんだよ」
「屋外に出るときは自己責任でって奴でしょ。知っているよ」
「なんだ知っていたんだ」
「ところで、何しに来たの。用がないなら家に居た方がいいよ」
「君と別れたあと、道に落ちていた魔法石をもう一つ拾ったんだ」
「え。さっきの魔法石とは別にかい?」
牧原は肯く。
「魔法石って一人で複数持っていても大丈夫なのかな?」
牧原が聞いた。
「大丈夫だよ。だけど、二つ同時に変身は出来ないよ。二つ同時に持っていても、持ち主が自分で切り替える様に使うらしいよ。僕は試した事ないから、聞きかじりの話だけどね」
霧島は笑いながら言った。
「僕も本当は二つ目が欲しいんだけど、なかなか手に入らなくってね。出来れば、炎か、雷の魔法石が欲しい」
「そんな魔法石もあるんだ」
牧原はポケットから虹色の魔法石を紐のついた小袋に入れると、変身が解ける。
「牧原さんって、オッサンだったんだ。これがあの美少女に変身するなんて詐欺だなあ」
霧島はからかう。
「うろさい」
「そんなことしなくても、変身を解こうと思うと手に持ったままでも変身を解けますよ」
「そうなんだ」
牧原は、虹色の魔法石の入った小袋をポケットにしまうと、オレンジ色の魔法石を手にする。赤い髪の魔法少女に変身した。
「二つ目も可愛いなあ。中身はオッサンなのに」
「そんな事より、どんなスキルかどうやると分かるの?」
「呼吸を整えて、意識を集中して浮かんでくるイメージを実体化させるみたいな感じだよ」
牧原は、呼吸を整えて、意識を集中すると、毛玉の様なモンスターのイメージが浮かぶ。すると、牧原の一メートル程前に、直径三十センチメートル程の巨大な毛玉のようなモンスターが発生する。