「どんなスキルかどうやると分かるの?」
「呼吸を整えて、意識を集中して浮かんでくるイメージを実体化させるみたいな感じだよ」
牧原は、呼吸を整えて、意識を集中すると、毛玉の様なモンスターのイメージが浮かぶ。すると、牧原の一メートル程前に、直径三十センチメートル程の巨大な毛玉のようなモンスターが発生する。
「これ、牧原さんが出したの?」
牧原が肯くと、霧島は苦笑する。
「せっかくの二つ目なのに、モンスターの魔法石とはついてないですね」
「ついてないってどういう事?」
「魔法石のスキルには、当たりスキルとハズレスキルがあるんですよ。世間一般的にモンスターのスキルはハズレだと言われています」
「どう使うの?」
モンスターを何体でも生み出すことができるが、コントロールできるのは直近の三体まで。それ以上生み出すと先に生み出したモンスターから野生化する。
「野生のモンスターに比べると小さいけど、戦えるの?」
「無理だね。だからハズレスキルだと言われているんだよ」
牧原は、霧島に言われた通りにモンスターを生み出すと、霧島が野生化したモンスターを斬撃で倒す。
「せっかく手に入れたのに、役に立たないのか」
牧原は残念がる。
「それに野生化したモンスターはどうしたら良いの? 退治しないと迷惑掛けるよね」
「退治するしかないね」
「モンスターの魔法石については、僕よりも適任者がいるから、紹介するよ」
霧島の案内で、横に長い二階建ての建物、部室棟にやって来る。二人の後を三体の毛玉モンスターが付いて来る。
二人は二階の一室の前に来ると、霧島はノックをして「じゃまするよ」と言って中へ入る。
和装の上に白衣を着ている、魔法少女・大沢がいた。
部室の中央に大きな机があり、周りには台や棚がいっぱいあり、大きなフィギュアのようなものが、所狭しと飾ってある。
「入って良いとは言ってないぞ」
「どうせ暇だろ」
霧島は悪びれた様子もなく言った。
牧原は、所狭しといろいろ置かれている物珍しいので、キョロキョロ見回す。
「そちらの美人は誰だい?」
「ウチの生徒じゃないからな。近所の住民の牧原さんだ」
霧島が紹介したので、牧原は軽く会釈する。
「中身は、おじさんだからな」と霧島は補足する。
「中身はどうであろうと、今はエロ可愛いだろ」
「え、エロ可愛い」
牧原は絶句する。
「どうでも良いけど、モンスターのスキルの使い方を教えてあげてよ」
霧島がそう言うと、大沢は感嘆の声をあげる。
「君もモデラーの道を進もうとしているのだね。感心感心」
「モデラーじゃないって」
霧島がツッコむ。
牧原は戸惑る。
大沢は咳払いすると、「まず、ここにモンスターを作るんだ」と言って、テーブルの上を指差す。
牧原は、自分の後ろを付いて来ていた毛玉モンスターを置く。
大沢は突然、大きな手斧で毛玉モンスターを真っ二つにする。
牧原は、残りの二体もテーブルの上に置くと、大沢はその二体も真っ二つにした。
「あの~。なんで殺してしまうのでしょうか?」
牧原が尋ねる。
霧島は、呆れている。
「知らないのか? 陶芸家は、失敗作を叩き割ることを。失敗作は叩き斬るのだ」
大沢の言葉に、牧原ドン引きする。
「陶芸家じゃないだろ」と、霧島はツッコむ。
「どっちにしろ、今はモンスターをただ作るしか出来ないだろ。サブスキルが使えるようになるまで、ひたすら作っては壊し、作っては壊しを続けるだけだ」
牧原は、再び毛玉モンスターを作る。
「ちがーう。ちゃんとしたモンスターを作れないのか!」
「これは、ちゃんとしたモンスターじゃないんですか?」
「ちゃんとしたモンスターとはこういう物を言う」
そう言うと、大沢は、特撮ヒーロー物の怪人そっくりのモンスターを作る。
「これは細かくてリアルだなぁ」
牧原は感心する。
「感心していないで作りたまえ」
牧原は、頑張ってそっくりに作ろうとすると、どことなく変なモンスターしか作れない。大沢は、容赦なく手斧で切り裂く。
三十分程繰り返したが、ちゃんとした物は作れなかった。
「もう少し簡単なモノから練習したらどうだ?」
霧島が助け舟を出す。
「プリティモンスターのペケチュウなんてどうでしょう」
牧原が聞いた。
プリティモンスターとは、国民的アニメである。人間は一切登場せず、擬人化されたモンスターが登場し、その日常を描いた作品である。プリティモンスター同士で戦ったりはしないので、戦闘向きではない。アニメに詳しくない人でも、ヌイグルミが作られているので、ピンク色で細長い姿のペケチュウは有名であった。
大沢は、サンプルでペケチュウを一体作る。牧原はそれを手本にペケチュウ作りをするが、どことなく変な物ができるので、大沢は容赦なくペケチュウモドキを手斧で切り捨てた。
五分程して、やっと大沢のOKが出る。
「しばらくはちゃんとしたペケチュウを作れる様に練習したまえ」
大沢は偉そうに言った。
「わかりました。でも、これは何の役に立つんですか?」
部屋中に牧原が作って、大沢が斬ったモンスターの死体が散らばっていた。さすがに何の為にやっていたのか誰でも知りたくなる状況だ。
「思った通りのモンスターを作り出せる様にする練習だ。そうでないと、いざって言う時、役に立つモンスターがつくれないだろう」
牧原は納得する。
「この調子で、モンスターを作る練習をしておくと、いずれサブスキルが使えるようになる」
「モンスターの魔法少女のサブスキルは何ですか?」
牧原が聞く。
「モンスターの魔法少女のサブスキルには、今分かっている物で、能力付与と感覚共有の二つある。
当たりのサブスキルは、能力付与であり、君自身が知っている魔法少女の能力を付与できる」
「なるほど」
「もう一つが、感覚共有だが、好みの感覚が共有できるが基本は視覚だろう。偵察に使うためだ」
牧原は、ウンウンと肯く。
「そこでだ。思った通りの姿のモンスターを作る必要があることが分かるだろ。偵察に使うのに、視覚がないモンスターができたら役に立たない。何かやらせたいのなら、やらせる事に適した体が必要だ」
「なるほど」
牧原は感心した。
「わかったら、モンスターを作って作って作りまくれ!」