ハーフェズが、地下一階と二階を簡単に突破してきた。
ハンスやビアンカたちも地下一階をクリアしており、ぼくも負けてはいられない。
ちなみに、迷宮の地図を他の班に渡すことは学則で禁止されていた。
マリーに略奪されそうになったが、ファリニシュが取り返してくれた。
危ない、危ない。
地下七階の敵は
力が強く、素早く、甲殻も硬い厄介な相手だが、いまのぼくには大した敵ではない。
ボスは
長く強い二本の鋏のような角を生やした強敵だ。
本来の虫だと顎なんだが、人型のせいか角の位置にあるようだな。
その角を振りかざしながら突進してくるが、直線の動きすぎて容易に行動が読める。
すれ違い様の
地下七階で出たのは、
五十個まで入る高級品だ。
正直有難い。
いまのは二十個までしか入らないからな。
帰り道に迷宮の前でハンスたちと会う。
カレルが、にやにや笑いながら近付いてきた。
首を傾げていると、地下二階で
女の子らしいところもあったんだな。
まあ、カレルはその後にマリーにぶん殴られて悶絶していたけれど。
ハーフェズは、もう地下三階と四階を走破していた。
本当に追い付かれそうだ。
相手が多数いても苦にしないからな、ハーフェズは。
力押しでどんどん進んでいける。
焦っているのを見抜かれたか、ファリニシュが帰り際にぼくの口の中に何かを放り込んだ。
これは──ペレヤスラヴリの
ミルクとバターと砂糖が入っていて、甘い。
「甘いものも時にはよしでござんすよ、主様」
片目を瞑るファリニシュに、思わず苦笑してしまう。
全く、この狼には敵わないな。
地下八階には、
通常の攻撃では効果がないので、
数が多いときは面倒なので、
思い付きでやってみたけれど、意外といけるなこれ。
ボスは巨大な
あんなのに捕まって溶かされたら地獄の責め苦だ。
接近戦は遠慮したい。
そう思って
以前のぼくだったら、焦って攻撃して自滅していたかもしれなかった。
だが、落ち着いて観察すると、核になっている魔力反応があるのがわかる。
ファリニシュに
観る力も、前に比べたら上がっているのかもしれないな。
もう一度
そろそろ単純な敵ばかりじゃなくなってくるなあ。
気を引き締めていかないといけないかもしれない。
こいつから入手したのは、
怪我の回復が早くなるという効果らしいが、実際ちょっとした切り傷程度なら瞬時に治った。
段々値段の付けられなさそうなものが手に入るようになってきている気がする。
そう言えば、サルバトーレの班もようやく試験を突破したらしい。
何故か意気揚々とぼくのところにやってきて、いい気になるなよ、と宣言して立ち去っていった。
あいつとは最近余り絡んでないのに、何でわざわざぼくに言いにきたのだろう。
彼は余り練習しないから、最近ではカレルやアルフレートにも負けっ放しのようだ。
中途半端な早熟児がすぐに追い越されていく典型だな。
地下九階は、断崖の道だった。
下へ下へと細い桟道を下りていかなければならない。
足場が悪い上に、襲ってくるのは
出現すると同時に
途中で指環の魔力を使い切ると、
それでも、刀の魔力も自分の魔力も使い果たす寸前まで戦い抜き、ようやく桟道を下り切ることができた。
これは結構きつい階層だな。
ハーフェズ以外はみんな魔力が保たないだろう。
空中の敵は戦いにくいし、難易度上げすぎじゃないか。
その日は最奥の間の前で一夜を明かし、魔力の回復を待った。
万全の状態にして入った最奥の間には、
風の魔力を操る難敵な上に、部下の
女王は
空中から襲い掛かる
だが、手数の差は圧倒的で、ぼくは瞬く間に
手数が減れば雑魚の
無数の羽根の弾丸に、通常なら為すすべもなく切り刻まれるのであろうが、ぼくはハーフェズの相手でこういうのには慣れているのだ。
ふう、地上戦ならともかく、空中からあの数に襲われると流石に対処が難しいな。
魔道具に頼った戦いをしてるようじゃまだまだだ。
光の粒が消えた後に残ったのは、
跳躍力を上昇させる効果があるらしい。
これは面白そうだね。
ハーフェズが地下八階に到達したと聞いたのは、戻ってからだった。
恐ろしい速度だな。
ぼくが苦労して進めた初級迷宮を、軽々と突破してくる。
ハンスが地下三階、ビアンカが地下二階、サルバトーレがまだ地下一階を彷徨っているというのに。
それでも、地下十階にはぼくが先に行けそうだ。
できれば、明日には決着をつけたいところだよ。