「
シピの声が部屋に響き渡る。
同時に、ぼくの視界が真っ暗になった。
いや、これは部屋全体が暗くなったのだ。
暗くなったってことは──全て影になったってことじゃないか!
「残念、もうそこにはいないわよ」
シピのいたあたりを
すでに
くっ、折角追い詰めたのに、こんな理不尽な脱出方法ってあるかよ!
これじゃシピを捕まえるどころか、目視することもできない。
まずいな、長期化すれば、
「アラナン、アラナン、魔力が弱くなってきているわよ。
何ですと。
確かに、
「
シピ先生、為になるなあ今日の講義は。
えーと、要するに発動に使った魔力を逃さずに維持に回し続けるってことだよな。
それによって魔力の消耗を抑えると。
そうか、達人級の
これって、
えーと、こうかな。
流石にすぐに全部を循環させることはできなかった。
だが、意識して回すことで、確かに消費を抑えることができる。
うん、これも練習すれば、そのうちほとんど魔力を消費せずに維持できるようになりそうだ。
「そうよ、アラナン。ちょっとよくなったわ。それじゃ、わたしを探してご覧なさい」
おっと、それが問題だ。
この暗闇の中、どうやってシピの位置を探るのか。
そして、どうやって
うん、無理だ。
部屋の中が全部暗闇じゃ、シピは幾らでも逃げられる。
どんなに位置を特定しても、捕まえられっこない。
じゃあどうするか。
そりゃ、暗闇をなくすしかないわな。
そして、ぼくにはそれができる呪文があるじゃないか。
「
瞬間的ではあるが、ぼくの背後から強烈な光が周囲を照らす。
その一瞬で浮かび上がったシピに向けて、部屋全体に張り巡らせた
全方位からの光を浴び、シピは逃げるべき影を失った。
「
立ちすくむ黒猫に、ぼくの
これで
「……予想した正解じゃないわよ、これは」
「暗闇の中でわたしの位置を発見させるつもりだったのよ。魔力の流れを見ることでね。でも、まあそれは宿題にしてあげるわ。一応の解答は出したことだしね」
魔力を視る訓練か。
今までも戦いの中でそれなりにはやってきたつもりだったが、確かに今回それはやってなかったな。
それも常時展開できるように訓練しろってことか。
了解であります、シピ先生!
「それにしても、伸ばした
「褒めてるのか微妙な気がするよね、シピ!」
「一応、褒めてるのよ。さて、それじゃ補助に使っていた
え、これ返すの?
この刀とか結構気に入っていたんだけれど。
「駄目よ、アラナン。道具に頼っては勉強にならないわ。これは、まだ
そう言われると返す言葉もないですよ。
仕方ないなあ。
また武器買わないといけないのか。
ああ、この指環とかも惜しいなあ。
あ、
これもか!
「あ、その
え、本当!
それだけでも嬉しいや。
だって、これ買うとなると十万マルクはするよ。
正直ぼくの所持金じゃ手が出ないからね。
学院が安全マージンとして貸与してくれてたってことか。
確かに、それなかったら結構きつかったなあ。
「それと、アラナン。貴方に渡すように学長から言付かってきたものがあるわ」
「
何だろう。
そう言えば、そもそも初級迷宮を一人で突破しろっていうのはオニール学長に言われたんだっけ。
その目的が、それを渡すことなのかな。
シピが手を掲げると、奥の壁に扉が現れた。
「行きなさい、アラナン。わたしはそこに入ることは許されてないの」
入ることが許されていない?
そんな場所なんて、心当たりはひとつしかない。
セルトの
扉を開けると、清涼な空気が肺に流れ込んでくる。
細胞が
正面には
泉の前には小さな箱が置かれていた。
あれが、渡すべきものなのかな。
小箱を開けると、中には
イグナーツの
銃床もないから、片手に収まりそうな大きさしかない。
銃把を弄っていると、中に弾倉を発見した。
弾丸は十発。
不思議な丸い輝く金属でできている。
とりあえず構えて撃鉄を引こうとするが、びくともしない。
何か、既視感があるよ。
なるほどね。
これはあれだ。
周囲から魔力を集め、久しぶりに
以前に比べると、滑らかに解放できるようになった気がする。
ん、体から発する光が
再び撃鉄を起こす。
今度は、簡単に作動した。
適当に宙に向け、引き金を引いてみる。
音もせず弾丸が発射され、宙空に向けて飛び去った。
これは、火薬の代わりに
これは、神銃タスラム。
「
弾倉を抜いてみると、一発撃ったはずなのに、また弾数は十発に戻っていた。
連射ができ、弾数に制限がないということか。
これは凄い。
恐ろしい武器なんだけれどさ。
結局これ、普段使えないよね!