――絶対バレちゃまずい……。またあの時みたいに、ネット上で晒されたら……。
嫌な思い出が頭をよぎり、心臓がぎゅっと締め付けられた。過去に受けた仕打ちを思い返すと、手足が震えそうになる。
次の授業まであと少し。気持ちを落ち着かせようと教室へ向かう道すがらも、どうにも胸の鼓動が速い。人気のない教室の一番後ろの席で、始業を待つ間にプリントが配られてくる。何か書き込んで落ち着こうと、つい余白にさらさらとラフスケッチをしてしまう。
だが、授業が終わって片付けをしているとき、一枚のプリントが床に落ち、拾おうと身を屈めたところで先に誰かの手が伸びてきた。
「はい、これ落としたよ」
顔を上げると、そこにいたのは芽衣だった。彼女はプリントを差し出したまま、じっとイラストの描かれた余白を見つめている。
――まずい……。
こちらを見つめる芽衣の表情は、さっきよりも複雑そうで、何かに気づいたような、思い出したような――そんな色が浮かんでいた。でも、何も言わずにプリントを俺の手に渡し、さっと立ち去っていく。
「……ありがとう……」
その背中を見送る間、胸の鼓動がうるさいほどに鳴り響いていた。ラフスケッチに描いていたのは、バンドのメンバーらしき立ち絵だ。もしこれが、芽衣が知っている有名イラストレーターの絵柄と似ているなんてことになったら……。
嫌な汗が額を伝う。過去のトラウマが頭をもたげ、全身がこわばる。
――もう、二度と繰り返したくないのに……。あんな思いは、もう……絶対に。
プリントを胸元に押し当て、身震いを押し殺す。外では春の陽射しが穏やかに降り注いでいるというのに、俺の心は雲のかかったまま、暗い影が広がっていた。