ほとんど一人で陽翔がおしゃべりしていたお弁当タイムが終わった。陽翔は弁当箱を紙袋に入れたが、なんだか名残惜しそうに静かに俺の方を見ていた。その目には、まだ言いたいことがあるような、何かを求めるような色が宿っていた。
俺はというと、陽翔が創作垢をフォローしてくれていたのが少し嬉しかった。直接会ったこともないのに、こんな風に自分の作品を気に入ってくれていたなんて。だが、これが俺のアカウントだと言うことはバレないようにしたい。バレてしまうと、高校の時のようにSNSで実名で晒されることになるかもしれないから。絶対にそれだけは避けたい。
SNSの拡散力は半端ない。一度晒されると、周りの人から絶対変な目で見られるに決まってる。
陰キャなのにこんなことして……ってバカにされる未来が見える。それだけは絶対に避けたかった。
そんなことを考えながらふと顔を上げると、陽翔と視線がぶつかりそうになり、反射的に目を逸らした。心臓が大きく跳ねる感覚があった。
――危ない……。油断してた。
しかし、一瞬ぶつかりかけたその視線は、とても優しい眼差しだった。宝石のように澄んだ瞳の奥に、陽翔のそれは、日に日に熱を帯びているようにも感じた。
出会った時は、見ないで欲しいと思っていた。ほっといて欲しいと思っていた。その視線が怖くて仕方なかった。
でも……。今、見てくれたことが嬉しいと思ってしまった。そんな風に思っちゃダメなのに――。
胸がどくんと鳴った。誰かの目を見て、こんな風にドキドキしたのは初めてだった。
多分、これは錯覚じゃない。何かが確実に、俺の中で変わり始めている。
(これは、まずい。これは……危ない……)
目を逸らしても、陽翔の視線の残像が瞼の裏にしっかりと刻まれていた。あの澄んだ瞳と、優しい微笑みが、頭から離れない。
ただ一緒にご飯を食べただけ。ただそれだけなのに……。
どうしてこんなに、心がざわつくんだろう――。