いくつもショップを見て回って、気づけば陽が傾いて夕暮れになっていた。オレンジ色の光が俺たちの影を長く作っている。空気がほんのり甘く感じられる。
「今日、楽しかった。ありがとう」
俺は肩を寄せ合い、手を繋いで歩いている陽翔に言った。陽翔は満面の笑みで「うん」と頷いた。
「叶翔が楽しんでくれて良かったよ。たまには外で過ごすのもいいでしょ?」
陽翔がカッコ良すぎて、通り過ぎる女性たちが振り返ってはキャーキャー騒いでいたのを思い出す。それでも陽翔は一度も俺の手を離さなかった。誇らしげに俺と歩いていた。
「陽翔、モテモテだったよね」
「え? 叶翔こそ」
陽翔は俺の前髪を指で掬った。顔が顕になって、体が思わずこわばってしまう。
「ほら、髪上げたら、めちゃくちゃかっこいい」
そう言いながら、俺の額にチュッとキスを落としてきた。
「もうっ! 陽翔、ここ、外っ!」
「別にいいじゃーん! 叶翔のこと好きなんだもん」
へへっと笑いながら俺に抱きついてくる。
――まったく、陽翔は……。
付き合い出して思い知ったのは、陽翔のスキンシップが多いことだ。外だろうがどこだろうが、隙さえあればキスをしようとしてきたり、抱きついて来たりする。手を握ってくるのは日常茶飯事だが、恋人繋ぎは今日が初めてだった。
「ねぇ、叶翔。今度、おでこ出して髪の毛セットしてよ。絶対、かっこいいって!」
「やだよ……」
俺はふいっと陽翔から顔を背けた。もう誰とも、目を合わさないように目を隠して下を向く必要はない。だが、もうすっかり目元を隠すのに慣れきっていて、前髪を上げる勇気が出ない。
「もうすぐ、俺の誕生日だから、その日限定でもいいから!」
陽翔は俺を覗き込んで懇願してくる。必死すぎて思わずぷはっと笑ってしまった。
「分かったよ。陽翔、誕生日いつ?」
「六月十二日」
「ホント、もうすぐじゃん!」
誕生日には何をプレゼントしたら喜ぶかな? こんなことを考える日が来るなんて高校時代には想像もできなかった。人を好きになる勇気、誰かを想う喜び――それを教えてくれたのは陽翔だった。
「叶翔は? 誕生日いつ?」
「俺? 十月三日」
「そっか。誕生日、お祝いしないとね」
「陽翔の誕生日の方が先だろ? プレゼント何がいいか考えといてよ」
「俺は、叶翔と二人で過ごせたら、何もいらない」
確かにそうだな。俺も同じだ。
「俺もだよ。陽翔がいれば何もいらない」
夕方の爽やかな風が俺の髪の毛を揺らした。俺は立ち止まって陽翔を見つめ、彼の袖口をぎゅっと掴んだ。
「どうしたの?」
驚いた表情で、俺の顔を見つめ返してくる。
「……あのさ。……まだ、帰りたくない……」
自分で言ったことが恥ずかしくなって、思わず俯いてしまった。心臓が早鐘のように打っている。でも、今だけは、この気持ちに正直になりたかった。
「俺もまだ、帰りたくないなぁ……」
陽翔は俺の頭を優しく撫でながら言った。
「陽翔……、うち、来る……?」
俺は上目遣いで陽翔を見た。らしくない言葉を吐いたことに後悔はしていない。だって、今すぐ陽翔とキスしたいと思ってしまったから……。心臓が早鐘を打っている。
陽翔は驚いて目を丸くしていたが、ゆっくり笑って「うん」と小さく頷いた。その瞳の奥に宿る温かな光に、安心感が広がった。