雛祭りが終わり、次の日に登校すると久しぶりに冬夜が登校していたので驚いた。
前回はもはや認識していないような感じで俺が来ても無視していたが、今回は手を振ってきた。
麻黒さんは「少し見ない間に胡散臭くなったわね」と言って辟易したような顔していたが、俺は前のような露骨な悪意を感じなかったので手を振り返した。
「明日からはゴールデンウィークなので直近十日間は何かすることはできないですけど、そのあとが少し心配ですね」
「そうだね。何もなければいいけど、これまでのことがあるから」
恵梨香の心配もしょうがないだろう。
摩耶たちの執念は雛祭りで間近で見ているし、前回も冬夜のことが終わってすぐのタイミングだったのだから。
むしろこちらに恨みを持っている冬夜が帰ってきたことを考えれば、確実に起こると言っても過言ではないかもしれない。
「もしあるとしたら都合がいいのは修学旅行の時かしらね」
「修学旅行か。確か話によると前は親御さんに協力してもらって企業コンペをやったとかいう話だから。確かに白黒はっきりすることだから都合がいいかもね」
「それなら私も知っていますけど、確か修学旅行中にやる催しは毎回変わるらしくて、今年も現地に行くまでのお楽しみらしいですよ」
「じゃあ、今回は企業コンペじゃなくて別のものってことか」
「おそらくまた生徒同士で競わせるものだと思うけど、あらかじめ調べた方が良さそうね」
旅行先はシンガポール。
経済的に発展してる上、観光地としても有名な国なので、この学園の資金力を思えば色んなことができそうだ。
修学旅行の期間もまるまる一週間と長いし。
「そろそろホームルーム始まりだし、席に戻るわね」
「あの秋也、明日、雛祭りの打ち上げをしようと思ってるんですけど、どうでしょうか?」
時間になったので麻黒さんが戻る旨のことを切り出すと、少し緊張したような面持ちで恵梨香が打ち上げに誘ってきた。
明日は特に何もないので断る理由などないし、もちろんOKだけど、どうして緊張しているのだろうか。
もしかしたら結局天政くんとの復縁を無しにしたことに対して負い目に思っているかもしれない。
「いいね。行くよ」
「じゃあ、明日私の家に来てください」
変に心配させないように間を置けずに返事をすると、恵梨香は前はお上がり禁止だと言っていた家に来るように伝えてきた。
どういうことかと問いかけようと思うが、もう行ってしまった。
ーーー
「なんだあの死に損ないわ。ぽっと出てきてデカい顔して」
突然出てきて、仕切り始めた冬夜に対して稀崎恵那の元婚約者である星源光輝は憤りが収まらなかった。
「対等でもなんでもなく、まるで部下に接するような態度じゃないか。今も理事長にボコボコにやられてるくせに変なプライドを見せて登校なんかしてきやがって雑魚野郎が!」
光輝はあんなにぞんざいな扱いを受けたのは生まれて始めてだった。
しかもその扱いを受けた時に、冬夜の凄みに圧倒されて、反論する声も出せなかったことが苛立ちに拍車をかける。
「何が俺の言うことに従ってもらうだ。一度失敗したやつの言うことなんて聞いたところでまた失敗するに決まってるだろうが」
もはやあの物言いをされた時点で光輝の中で、冬夜の命令に従わないことをは決定事項のようなものだった。
「あいつが動かないだろうゴールデンウィークに執着してる秋也を僕が蹴散らしてやろう。恵那を煽れば嫌でも出てくるだろうし、それに」
光輝には秋也を蹴散らすだけの力を自分が持っているという確信があった。
「いけすかない冬夜より優れた結果を残せると言う根拠が僕にはある。ゴールデンウィーク明けに、全てが終わっていたことを知ったあいつの顔を見るのが楽しみだ! さぞや情けない顔をしてゴミ箱に帰るんだろうな!!」
成功した後のことを思い描くことで冬夜によって不機嫌にされた気分がやっとたち直った。
「じゃあ、早速、スタァである僕の実力を見せつけてやろうかな」
光輝は悪意に満ちた笑みを浮かべると目の前にあるデスクトップパソコンに手を伸ばした。