温かい光につつまれていた……気がついたら、視界すべてが白かった。目が見えているのか、それとも……。
どこまでも真っ白な空間。床も、壁も、天井も……ていうか壁も天井も無い。まるで無印良品の最終進化系みたいな世界。
「……え?」
立ち上がろうとした瞬間、違和感が俺を襲った。
まず、腕。細い。白い。つるっつる。 次に、髪。さらさら。長い。いい匂いがする。
「いやいやいやいや」
慌てて自分の胸に手をやる。
「……あっ」
あった。なにかが、そこに、確かに、あった。
さらに脚を見てみると、なんとういう事でしょう! すね毛がない。それどころか妙に艶めかしい。え? ひらひらのスカート??
「誰ぇ!? これ俺の身体じゃないぃぃ!」
パニックに陥っていると、頭上から「すーっ」と何かが降りてきた。
白い髭をたくわえた、いかにも「神様です」って顔のじいさんだ。
「やあ、山田さん。いままで大変でしたね。あなたは死んでしまって、ここに来ています」
「やっぱり俺、死んだのか……で、あんた誰?」
「わしか? わしは神様ぢゃ」
うさんくせぇ。語尾の「ぢゃ」って今どき聞かねぇよ。
「いやでもそれよりこの身体! 俺、なんで女に!?」
「うむ。それはこれから説明しよう。……山田さん、あなたにはこれから、『死んでここに来る魂たち』を導く役目を担ってもらいます」
「導く? なんで俺が?」
「理由は簡単。君は生前、実に『平均的な人間』だった。凡人の共感力というのは、案外大事なのぢゃ」
「……まあ、否定はできねぇけど……」
「そして、その導き手には——『女神』になってもらう必要がある」
「女神ってなんだよ!」
「いわゆる『転生ガイド女神』じゃな。悩める魂を、別の世界へ送り出すお手伝いをするのぢゃよ。オプションで職業ガチャも引かせたりしてな」
「ガチャって言うな!」
「では、さっそく初仕事じゃ。第一号の魂がもう来ておる」
「ちょっと待っ……」
言いかけた瞬間、空間の端が歪んで、一人の男が現れた。
真っ黒なスーツ、がちがちの筋肉、鋭い目つき——
どう見ても、ヤバそうな人である。
「……あれ? 俺、死んだのか?」
男が俺(見た目は女神)を見て、目を見開いた。
「うおっ、天使か!? 女神さまか!? 俺、どこ行くの!? 天国? 地獄? それとも異世界?」
いや、知らん。俺も初日だよ。でも……こっちが導く役なんだろ?
腹を括った。ていうか括るしかなかった。
俺は咳払いを一つして、女神っぽく(なるべく)優雅に微笑んだ。
「ようこそ、異世界転生の待合室へ——」
そのとき。神様がぼそっと呟いた。
「ちなみに彼は、前世で『世界を裏から動かしていた』元・闇の組織の幹部らしい」
「おいィィィ!」
——こうして俺の、転生ガイド女神ライフ(超初心者編)が、始まった。
—— つづく ——