気がつくとあたしは、王都の貧しい露天商で野菜を売っていた。そこの娘「アリサ」として生活していた。そう異世界に転生したのだ。既に4歳の幼女になっていた。
覚えている……。あたしは日本の沖縄から東京へ向かう飛行機の事故で死んだ「かおり」だ。
――魔法少女になりたい。
そういって女神さまにお願いした異世界転生。なのにもらったスキルは聖女さま向けっぽい「
あたしは、この世界では誰しも持っている、魔法を使える可能を伸ばすため、小さい頃から魔法の練習を繰り返した。
そうだ
なろう。
魔法少女になれないのなら、せめて魔法使いとして冒険者になろう!
10歳になった頃、近所に元気な少年が引っ越してきた。
親は元冒険者で、その少年も一緒に旅をしていたらしいのだけれど、子連れは邪魔だと、パーティを追放されたらしい。
「あーちゃん! あそぼっ!」
いつもの日課で一人で魔法の練習をしていると、その近所の少年は何かと絡んでくる。2つ年下のちょっとかわいらしい感じの男の子。その子の名は「ベルンハルト・フォン・グレイフェンタール」。なんとも偉そうな名前だね。元貴族さまなのかしら。
「ベルンか……あたし忙しいんだけど?」
「あーちゃんが、あぶない事をしないように見ていてくれって、おばちゃんに頼まれているんだよなぁ」
「もうお母さんったら」
「じゃあボクは、ここで剣の素振りしようかな」
「好きにすれば?」
あたしが冒険者になりたがってる事を知ったベルンは、あれからますます剣の鍛錬を積んでいたみたい。
―― 10年後
冒険者になろうと、決意してから10年が過ぎていた。14歳の誕生日を迎えて、あたしは冒険者ギルドに登録をしにきた。
ベルンは年の差2歳で、まだ12歳。なので冒険者登録が出来ていないので、ランクは判らないが、ベルンのお父さんが、「ベルンハルトは既にCランクレベルだぞ」と言っていたが本当かなあ?
王都の中央広場沿いにある商店や露天のならび。そこに冒険者ギルドがあった。うちの露天のご近所。
ガチャ……。
あたしはなんの躊躇いもなくギルドの扉を開けて中に入った。
「いらっしゃい! アリサちゃん! さっそく来たのね。今日が誕生日だっけ」
「はい、ランク認定の計測と冒険者登録をしに……」
なにせうちは露天商、その娘であるあたしは、近所にある冒険者ギルドの受付嬢も冒険者も顔なじみなのだ。
「おぅ、アリサ、魔法は上達したか?」
口調は冒険者らしく乱暴なのだけれど、どこかやさしい、おじさん。
「うん、あたし魔法少……
「あっはっはっは、言い直さなくてもいいさ、ここらじゃお前が『魔法少女?』やらになりたがってた事くらい皆知ってるさ」
ギルド内の掲示板でクエストを選んでいた若い冒険者パーティ、
ランクと職業特性の検査が終わり、Fランクの魔法使いと認定された。いよいよ冒険者として歩み始めるんだ。
◯
まともなチートスキルもない状態だったが、冒険者になってから、コツコツと初心者向けクエストをこなし、なんとかDランクにまで昇格。
そんなある日、ギルドの受付嬢のお姉さんに初級者用ダンジョンのクエストを紹介される。
「お姉さん、なんかいいクエストない?」
いつもの調子で聞いてみた。
「丁度よかった! 北の森の近くにある、祠の地下ダンジョンなんだけどね。つい一週間前にSランク勇者パーティがダンジョンの最下層のラスボスの討伐に成功したのよ。」
「すごい! さすが勇者パーティ!」
「そこでね、もう危険な魔物やモンスターもほぼいないだろうから、ランクの低い冒険者で、残り物の収集をしてきて欲しいの。中にには珍しいものも残ってるかもしれないから、アリサちゃん行ってみない?」
「うーん、ダンジョンかぁ。ちょっと怖いけど討伐済なら大丈夫かな……」
「じゃあ、決まりね!」
安請け合いしちゃったけど大丈夫かな……暗いの怖いけど、あたしには「聖なる光・ホーリーライトニング(すべてのものに光あれ)」が、あるから明るく照らしながら進んでみようかな。女神さまからもらったこのスキル、暗いところを照らすくらいにか役に立たないのよねぇ。やれやれ。
◯
今日は、ダンジョンクエストの日。
地下ダンジョンへの入口の祠の前に、10人程の初級冒険者が集まっていた。中にはあたしと同じ位の歳のコもいたりして、いかにも初級って感じでういういしいわね。わたしもだけどね。
ギルドのお姉さんが説明を始めた。
「では、これから『討伐済ダンジョンの取りこぼしアイテム収集クエスト』について説明します」
――一通り説明が済み、最後に……「討伐済ダンジョンとはいえ、まったく危険がないわけではないので、危険を感じたら無理をせずに、ここに戻ってきてください」と、付け加えて説明が終わり、それぞれが自分のペースでダンジョンに入っていった。
◯
ダンジョンの階層を3階層程降りたところまでは順調だった。特に手強い魔物も出現しなかったし、罠もなかった。そんな事もあって、油断してたのかもしれない。
いつのまにかコブリン3体に囲まれていた。狭いダンジョン通路の前と、後ろ。そして、横でこちらの様子を伺っているようだ。
しかしゴブリンくらいならあたしの貧弱攻撃魔法でもなんとか倒せるのだけれど、3体はさすがに厳しい。これは苦戦しそうだ。
「えいっ! ライトビィィィィムッ!」バシッ!
「ぎゃっ!」少しは効いてはいるみたいだけど、やっぱり弱いなあ。
じゃあこれはどうかしら?
「行け! ファイヤーアローー!」ヒュン! ビシッ!!
「けっけっけっけ」
ダメじゃん! うう……。まずいなあ、通路の前後を挟まれてるから、逃げ出すことも出来ない。
「ヒャッハーーーーーー!」ブンッ!
ドサッ!!
「きゃっ!」お尻から床に倒された。痛い……。
はぁはぁはぁ……。
ヒッヒッヒッ……。ゴブリンがじわじわと近づいてくる。容赦ない……。
―― 30分後
攻撃と防御、そして回復をバランスよく持っていたあたしだが、決め手となる強力な魔法がなかった為、苦戦した。だがなんとか3体のゴブリンを倒すことができた。
しかし、あたしの受けたダメージが多き過ぎる。早く回復魔法をかけないと、自力で地上まで戻れそうにない。他の冒険者たちはどうしているかな。みんなもっと地下の方まで行っちゃってるのかな。
ちょっと弱気になってきたとき、腰にぶら下げているステッキを握ってつぶやいた。
「こんなとき、夢と希望を叶える魔法が使えたらなぁ……」
魔法使いには一応慣れたかもしれない。でも結局……魔法少女になれなくて……。
女神さまに付与された、チート(?)スキル「聖なる光・ホーリーライトニング」は未だに謎が多く、ダンジョン攻略時の明かりにくらいしか使い道が判らないままだった。
はぁはぁはぁ……。
「このままでは死んでしまうかもしれない……ぐっ……」
痛みを堪えながらそう感じていたとき、壁に少し崩れかけた隙間があるのを見つけた。
「はぁっ、はぁはぁ……一旦あそこで休もう……」
あたしはゴブリンの攻撃で足をやられたようだ。右足を引きずりながら、なんとか壁の隙間に身を隠して、時間のかかる回復魔法を唱え始めた。
「ミラクルヒールッ!!」
―― つづく ――